七十三話
「振れ幅で頭がおかしくなるわ!」という駆の深夜の絶叫から一夜。
翌日の16時。天宮ミルクのチャンネルでは、昨夜の珍味地獄が嘘のような、英国のティーサロンを思わせる(?)優雅な生配信がスタートしていた。
タイトル:『【極上の癒やし】胃腸を労わる! 自家製キャベツハーブティーで優雅にお茶会雑談!』
深夜の胃もたれ耐久からのまさかの英国風ティータイム。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「情緒の振れ幅がジェットコースター」「キャベツハーブティーって本当に美味いのか……?」と興味津々で集結し、開始数分で同接数は110万人を軽々と突破していた。
【急な女子力高めお茶会きたww】
【昨日の珍味耐久からのギャップが凄まじい】
【部室にレースのテーブルクロスが敷かれてて草】
【ヒューガの執事服たすかる】
――16時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、レースのテーブルクロスが敷かれ、可愛らしいティーカップとティーポットが並べられた部室のデスク。シックな執事風ベストを着せられたヒューガと、フリルたっぷりのロリータ風ドレスを着た天宮ミルク(3D)が優雅に座っている。
「……みなさんこんにちは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。昨日の珍味100種食べ比べでダメージを受けた胃腸を癒やすため、本日は『優雅なお茶会』です。俺のこの格好は天宮さんに押し付けられました。背筋がピンと伸びすぎて逆に肩が凝っています。助けてください」
「こんミルク〜! 乾燥させたキャベツの葉とカモミールをブレンドした『特製キャベツハーブティー』でおもてなしする天宮ミルクです〜!」
「見た目だけは無駄に本格的なのが腹立つんだよ!! なんで俺まで執事の格好で紅茶注ぐポーズさせられてんだよ!! あとキャベツとハーブって本当に味の相性大丈夫なのか!?」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の執事服ツッコミ】
【見た目だけは英国貴族ww】
【キャベツハーブティーの味覚チャレンジ】
そこへ、優雅なお茶会の雰囲気を察した仲間たちが、淑女&紳士気取り(?)でDiscord経由で通信接続してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、キャベツに含まれるビタミンUとハーブの相乗効果により、昨夜の胃の粘膜ダメージは82.4%回復する見込みです』
「めちゃくちゃ胃腸に優しい効能データ出してきたな!! サンキュー!……って、たまにはまともな計算するじゃねえか!!」
鳳凰院カグラ『クックック……この我が暗黒のティータイムにふさわしい魔界の茶葉を持参したぞ! (※ただの黒烏龍茶)』
「ただの黒烏龍茶を魔界の茶葉みたいに言うな!! 胃脂を流す気満々じゃねえか!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIのお茶会マナー解析データにより、最もエレガントなお茶の飲み方が判明しました!「小指を180度ピンと立てながら、ツッコミの余韻でティーカップを揺らす」です!』
「小指の角度が関節脱臼するわ!! ツッコミの振動で紅茶がこぼれてテーブルクロスが汚れるだろ!!」
【黒烏龍茶=魔界の茶葉ww】
【小指180度脱臼草ww】
【同接破竹の130万人突破!】
仲間たちのカオスな歓談(?)を挟みつつ、丁寧に淹れられた「キャベツハーブティー」をティーカップから一口飲む二人。
「……あ、あれ……!? ほんのりキャベツの甘みがあって、カモミールの香りと合わさってめちゃくちゃ美味い……! 胃に優しく染み渡る……!」
「ふふふ、そうでしょう〜! 嬬恋キャベツの葉をしっかり乾燥させて、黄金比率でブレンドした自信作なんです〜!」
上品な焼き菓子とともに楽しむ優雅なお茶会。いつもと違う穏やかで優しい時間に、同接145万人のリスナーからも「心が洗われる」「ヒューガの執事服てぇてぇ」「平和で最高の回」と温かいスパチャと称賛の嵐が降り注ぎ、配信は大成功で幕を閉じたのだった。
――配信終了後。ティーカップを丁寧に洗う、夕暮れの部室。
執事のベストのボタンを外し、パイプ椅子に腰掛けて温かいハーブティーの残りを飲む駆。
「……ハぁ……。たまにはこういう、本当に平和で美味いお茶会も悪くないな……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣でドレスの裾を少し持ち上げながら、みずきが愛おしそうに駆の横顔を見つめて微笑む。
「日向くんが『美味い』って言って、ホッとした顔をしてくれたのが、ミルク一番嬉しかったです!」
駆はカップを手に持ったまま、夕焼けに染まる窓の外へ照れくさそうに顔を背けた。
「……たく。お前が変な隠し味入れないで真面目に作れば、いつだって最高なんだよ。……ごちそうさま」
みずきは一瞬驚いて目を丸くし、それから夕陽よりも眩しい笑顔をパッと咲かせた。
「はいっ! 日向くんが隣で笑ってくれれば、部室のテーブルがいつでも世界一のティーサロンです!」
「へいへい。……で、癒ややしのお茶会も終わったし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『胃腸が完全に復活! 復活記念に部室で激痛足つぼマットを敷き詰めたデスゲーム障害物レース配信』です!」
駆は夕暮れのキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「癒ややされた胃腸を一瞬で痛めつけるんじゃない!!!! 痛みに耐えかねて声が出なくなるわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
橙色の夕空に溶けていく二人の弾けるような笑い声と快晴のような叫び。
極上のティータイムを終え、次なる体当たりバラエティ(?)へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




