七十二話
「胃腸のスケジュール管理をまときにしろ!」という駆の至極全当な説教もむなしく、翌日の深夜23時。
天宮ミルクのチャンネルでは、真夜中の背徳感にあふれた異色の生配信がスタートしていた。
タイトル:『【深夜の背徳】全国から激選! 100種の珍味&キャベツおつまみ食べ比べるまで終われない深夜枠!』
特撮バトルの翌日に怒濤の深夜胃もたれ耐久企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「丑三つ時にやる企画じゃないww」「飯テロと胃もたれ恐怖の二重奏」と大歓喜し、開始わずか数分で同接数は115万人を突破していた。
【深夜23時に100種食べ比べは正気じゃないww】
【ヒューガの胃薬の準備は完了したか?】
【V界一、胃腸を酷使するユニット】
【画面から漂う強烈な珍味の匂い(予感)】
――23時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、部室の長机の上に整然と並べられた小鉢と瓶詰めの山。ネクタイを少し緩めた私服姿のヒューガと、居酒屋風の半纏を着てウーロン茶のグラスを構えた天宮ミルク(3D)が座っている。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……現在、深夜23時を回りました。目の前には、全国から集められた激辛・塩辛・発酵・激臭を含めた珍味100種が鎮座しています。真夜中にこんなものを胃に放り込んだら、明日の朝の俺の腹が崩壊します。助けてください」
「こんミルク〜! 100種の珍味とキャベツを組み合わせて『究極の真夜中のおつまみ』を発見しようとしている天宮ミルクです〜!」
「真夜中におつまみの探求をするな!! 明日も大学の講義があるんだよ!! なんで居酒屋の半纏着て『いらっしゃい!』みたいな顔してんだよお前は!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の深夜胃もたれツッコミ】
【居酒屋天宮へようこそww】
【明日の朝の胃の崩壊確定】
そこへ、夜更かしついでに珍味の成分分析(?)を行うべく、Discord経由で仲間たちが次々と参戦してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、塩分濃度と塩辛さの数値を考慮すると、60種目を越えたあたりで舌の味覚センサーが麻痺する確率が94.5%です』
「味覚が麻痺する前にストップをかけるのがお前の仕事だろ!! 麻痺前提で企画を進行させるな!!」
鳳凰院カグラ『クックック……我にはわかるぞ。その92番目の瓶詰めから放たれる『邪悪な発酵臭』の正体が……!』
「邪悪な発酵臭ってなんだよ!! くさやとかシュールストレミングの類を持ち込むな!! 部室が出禁どころか激臭で封鎖されるわ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの消化促進データにより、深夜の胃もたれを完全に回避する方法が判明しました!「珍味を一口食べるごとにスクワットを50回してその場でカロリーを即時消費する」です!』
「食ってる最中に5000回のスクワットをやらせるな!! 胃がバグる前に足の筋が千切れて倒れるわ!!」
【味覚麻痺のカウントダウンww】
【邪悪な発酵臭持ち込むなww】
【5000回スクワット草ww】
【同接破竹の140万人突破!】
仲間たちのカオスなアシスト(?)を受けつつ、順調に珍味を食レポしていく二人。
「ヒューガさん! この『激辛キャベツキムチと酒盗の和え物』、すっごく辛いけど後引く美味しさです〜!」
「……うわ辛っ!! でも美味いな……! ってか、キャベツの甘みが辛さを和らげてるのか……!?」
夜中の背徳感も手伝い、絶品のおつまみたちに舌鼓を打つものの、50種目を過ぎたあたりで猛烈な満腹感と胃の重みが二人を襲う。
「ひ、ヒューガさん……お腹が……お腹がパンパンで、画面が回ってきました……」
「だから言っただろ!! 深夜に珍味を大量摂取するなって!! ほら、温かいウーロン茶飲め!!」
結局、最後は「残り40種は明日からの部室の常備菜(お弁当のおかず)にする」という現実的な判断で無事に(?)完走。
同接155万人のリスナーから「深夜に爆笑して目が冴えた」「お腹空いたけど胃もたれしそう」という温かいスパチャとツッコミの嵐が降り注ぎ、珍味耐久配信は幕を閉じたのだった。
――配信終了後。小鉢を綺麗にラップで包み、深夜1時過ぎの静まり返った部室。
パイプ椅子にもたれかかり、温かい胃薬とお茶を飲みながらふぅっと息をつく駆。
「……ハぁ……。深夜に胃袋を極限まで追い込むの、ある意味どんな激しい運動より体に効くわ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣でウーロン茶をちびちび飲みながら、みずきが申し訳なさそうに、でも愛おしそうに微笑みかける。
「でも、日向くんが『辛い! でも美味い!』って食べてくれた顔、すっごく可愛かったです」
駆は一口お茶を流し込み、胃薬の袋を抱えたまま、耳まで赤くして顔を横へ背けた。
「……可愛くねぇよ。お前が美味そうに食うから付き合っただけだっつの。……まあ、珍味自体は確かに美味しかったけどな」
みずきは一瞬驚いたように目を丸くし、それからパッと夜空を照らすような笑顔を咲かせた。
「はいっ! 日向くんと一緒なら、深夜の胃もたれも最高に楽しい思い出になります!」
「へいへい。……で、深夜の暴飲暴食も終わったし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『胃腸をしっかり休めよう! 部室の庭(?)で自家製キャベツハーブティーを淹れて心を整える極上の癒やしお茶会配信』です!」
駆は深夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「急に女子力高いまったり企画挟んでくるんじゃない!!!! 振れ幅で頭がおかしくなるわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
静まり返った深夜のキャンパスに溶けていく二人の弾けるような笑い声。
深夜の珍味地獄を乗り越え、次なる癒ややし(?)のお茶会へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




