七十一話
「平和が一話で崩壊したわ!」という駆の快晴のような叫びが夜空に轟いてから一夜。
翌日の18時。天宮ミルクのチャンネルでは、なぜか画質が昭和のモノクロ&特撮フィルム風になった怪しい生配信がスタートしていた。
タイトル:『【特撮】部室の地下から出現!? 巨大怪獣キャベツラvs天宮ミルク&ヒューガ! 部室の平和を守れ!』
前回の平和な70話記念ガーデニングから一転、まさかの昭和特撮アクション企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「平和の反動がデカすぎる」「画質に謎のノイズフィルターかかってて草」と大爆笑し、開始数分で同接数は120万人を軽々と突破していた。
【特撮回きたああああ!】
【画質が昭和のウルトラマンとかゴジラのそれなんよ】
【部室に精巧な街並みジオラマが組まれてて草】
【ヒューガ 防衛隊の制服似合いすぎだろ】
――18時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、部室の床一面に敷き詰められたダンボールと牛乳パックの精巧な「ミニチュア街並みジオラマ」。そしてその中央には、キャベツの葉を全身に纏った巨大な着ぐるみ怪獣『キャベツラ(※正体:張り子で作った巨大手作り模型)』がデデン!と鎮座している。
地球防衛隊風のヘルメットとオレンジ色の制服を着たヒューガと、怪獣撃退光線銃(※水鉄砲)を構えた天宮ミルク(3D)が特撮ヒーローのポーズで立っていた。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。部室の地下(※床下探検の穴)から突如現れた巨大怪獣キャベツラです。画面に謎のアナログノイズと重厚な昭和特撮風BGMが流れています。俺のこの格好は天宮さんに着せられました。助けてください」
「こんミルク〜! 地球防衛隊ミルク班の天宮隊員です! 我が部室の平和を脅かす怪獣キャベツラを撃滅します〜!」
「撃滅するな!! なんで俺たちまで防衛隊のコスプレさせられて真顔でジオラマの中に立ってんだよ!! ジオラマのクオリティが謎に高すぎて牛乳パックのビル街がリアルなんだよ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の防衛隊ツッコミ】
【ジオラマの作り込みが無駄にすごいww】
【怪獣キャベツラのつぶらな瞳草】
そこへ、防衛隊の司令部(※自宅)から怪獣の弱点を解析すべく、Discord経由で仲間たちが通信を入れてくる。
黒羽レン『……ヒューガ隊員、僕の解析によれば、怪獣キャベツラの皮膚(キャベツの葉)は外撃に対して極めて強力ですが、ドレッシングをかけると浸透圧でしおれる弱点があります』
「特撮の怪獣に浸透圧のリアルな弱点を突く指示を出すな!! サラダにする気か!!」
鳳凰院カグラ『クックック……現れたか、我が宿敵キャベツラ! 見よ、我が防衛隊最終兵器『暗黒波動砲』の威力を!(※ドライヤーの温風を吹き付ける音)』
「ドライヤーの温風でミニチュアの紙ビルが吹き飛ぶだろ魔王!! 余計な被害を出すんじゃない!!」
星空ルチア『ヒューガ隊員! AIの怪獣撃退データにより、キャベツラを無傷で大人しくさせる唯一の方法が判明しました!「怪獣の目の前で超巨大マヨネーズを構えて『へいお待ち!』と叫ぶ」です!』
「お通し感覚で怪獣を接客するな!! 居酒屋のノリで地球の危機が救えるか!!」
【浸透圧でしおれる怪獣ww】
【ドライヤーの温風でビル倒壊草ww】
【同接破竹の145万人突破!】
「天宮隊員、光射砲を発射します〜!」というみずきの声とともに、水鉄砲から放たれた『特製マヨネーズ水溶液』がキャベツラに命中!
シュワアアアッ(※演出の煙)という音とともに、怪獣キャベツラはしおしおと崩れ去り、その体内から黄金に輝く「キャベツラ焼き(※キャベツ入りの特製大判焼き)」がポロリと転がり出た。
「「……怪獣の中から大判焼きが出た!?」」
「怪獣の倒され方とドロップアイテムのクセが強すぎるわ!!!! なんで特撮の結末がスイーツ降臨なんだよ!!」
「わぁ〜! キャベツラの真の姿は、美味しい大判焼きの妖精さんだったんですね〜!」
最後は二人で熱々の「キャベツラ焼き」を美味しく頬張り、同接160万人のスパチャの嵐と「今期最高の特撮回」「腹抱えて笑った」という絶賛の嵐の中で特撮配信は幕を閉じたのだった。
――配信終了後。ジオラマを丁寧に片付け、防衛隊のヘルメットを脱いだ夜の部室。
パイプ椅子に腰掛け、温かい缶コーヒーを飲みながらホッと一息つく駆。
「……はぁ……。昭和特撮のテンションに合わせて叫び続けるの、喉の体力がゴリゴリ削られたぞ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣で防衛隊の隊員服のまま、大判焼きの最後のひとくちを嬉しそうに食べるみずきが笑いかける。
「でも、日向隊員の『地球を守る爆音ツッコミ』、すっごくヒーローみたいで格好良かったです!」
駆は缶コーヒーを一口飲み、照れくさそうにヘルメットを摩りながらふっと柔らかく笑った。
「……たく。ヒーローごっこに付き合わされるこっちの身にもなれってんだ。……まあ、お前が楽しそうだったから良いけどよ」
みずきはパッと目を輝かせ、太陽のような飛び切りの笑顔を弾けさせた。
「はいっ! 怪獣が来ても、宇宙人が来ても、日向くんがいればミルクの部室は世界一安全で楽しい基地です!」
「へいへい。……で、特撮バトルも終わったし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『特撮のあとは超・リアル! 部室で全国の珍味を集めて100種食べ比べる深夜の極限グルメ配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「深夜に100種食べ比べたら胃もたれで全員死亡するわ!!!! 胃腸のスケジュール管理をまともにしろ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。
特撮大決戦を乗り越え、次なる食の(胃もたれ)試練へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




