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七十話

「また部室を熱帯雨林にする気か!」という駆の魂の叫びがキャンパスにこだましてから一夜。

記念すべき第70話の19時。天宮ミルクのチャンネルでは、昨日の宇宙騒動が嘘のように「まったり」とした空気が漂う生配信がスタートしていた。

タイトル:『【祝・70話】宇宙からの無事帰還記念! 部室で全国の珍しい「ご当地キャベツ」を育てる平和なガーデニング雑談!』

第63話のSFジャングル化のトラウマが頭をよぎる中、節目のメモリアル回を見届けようと、チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちが開始直後から120万人を超える大群で押し寄せていた。

【70話おめでとうううう!】

【※まったりガーデニング(死亡フラグ)】

【部室緑化計画アゲイン】

【ヒューガの胃薬用意完了】

――19時ジャスト。配信スタート。

画面に映し出されたのは、木漏れ日のような優しい照明に包まれた部室。長机の上には、可愛らしい小さな鉢植えがずらりと並んでいる。麦わら帽子姿のヒューガと、可愛らしい花柄エプロンを着た天宮ミルク(3D)がジョウロを手にして立っていた。

「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……ついに第70話。ここまで来られたのもリスナーの皆さんのおかげです。……で、目の前に『群馬産紫キャベツ』『北海道芽キャベツ』『京都高級キャベツ』の鉢植えがあります。天宮さんが『今日は絶対怪しい栄養剤は使わない』と誓ってくれたので、今夜は本当に平和な配信になります。安心してください」

「こんミルク〜! 70話の感謝を込めて、キャベツたちに『愛の歌』を聞かせてすくすく育てようとしている天宮ミルクです〜!」

「歌を聞かせるくらいなら可愛いもんだわ!! 前回みたいに怪しい緑の薬液を散布して部室をアマゾンに変えるなよ!? フリじゃないからな! 絶対に怪しい液体を取り出すなよ!!」

【wwwwwwwwwwww】

【開幕0秒の厳重警戒ツッコミ】

【70話おめでとう!!】

【フリじゃないからな!(フリ)】

そこへ、70話の節目を祝うべく、Discord経由で仲間たちが一斉に接続してくる。

黒羽レン『……ヒューガさん、天宮さん、70話おめでとうございます。僕からの祝電代わりに、植物の光合成効率を4000%に引き上げるバイオLEDライトを遠隔照射しておきました』

「光合成効率4000%ってなんだよ!! 照射するな!! 葉っぱが急成長してまた部室の天井を突き破るだろ!!」

鳳凰院カグラ『クックック……祝賀の儀だ! 我が暗黒の魔導土『漆黒腐葉土』をその鉢植えに撒いてやろう! 闇のキャベツが咲き誇るぞ!』

「勝手に怪しい土を混ぜるな魔王!! 普通の園芸用の土で十分なんだよ!!」

星空ルチア『ヒューガ先輩! AIのガーデニング最適化データにより、植物が最も喜ぶ栄養補給法が判明しました!「鉢植えにいちごミルクを直接注ぐ」です!』

「土がカビるわ!! 糖分で根腐れを起こして一発で枯れるだろ!!」

【光合成4000%草wwww】

【漆黒腐葉土ww】

【いちごミルク散布で根腐れ確定】

【同接破竹の145万人突破!】

仲間たちの祝福(暴走)を全力でガードしつつ、天宮ミルクと一緒に丁寧に水やりをする駆。

「見てくださいヒューガさん! みんなの愛のおかげで、芽キャベツの赤ちゃんがちっちゃく芽を出しました〜!」

「……おお、本当だ。……ちゃんと普通に育てれば、こうやって可愛らしく育つんだよな」

「えへへ、そうですよ〜! 70話も続けてこられたのは、日向くんがいつもミルクの隣でこうやって見守ってくれたからです!」

天宮ミルクはジョウロを置き、満面の笑顔で駆を見つめた。

「これからも、100話でも200話でも、ずっと日向くんと一緒にいろんなもの(とキャベツ)を育てていきたいです!」

駆は一瞬呆気にとられたように目を丸くし、それから照れくさそうに麦わら帽子の庇(ひさし)をぐっと下げた。

「……たく。柄にもないこと言ってんじゃねぇよ。……お前が変な暴走しねぇように、付き合ってやるに決まってんだろ」

温かい空気と150万人の「てぇてぇ」「70話おめでとう!」「最高の二人」というスパチャの嵐に包まれ、70話記念配信は奇跡的に暴走ゼロのまま、最高にハッピーな形で幕を閉じたのだった。

――配信終了後。静かになった夜の部室。

鉢植えの小さな芽を愛おしそうに眺めながら、温かい缶コーヒーを飲む駆。

「……ふぅ。まさか本当に何の事故も起きずに終わるとはな……。70話目にしてついに平和を手に入れたか」

「ふふっ、日向くん、本当にお疲れ様です!」

隣でみずきが、冷えた缶のいちごミルクを両手で包み込みながら、嬉しそうに微笑む。

「平和なガーデニングも、すっごく心があたたかくなって楽しかったですね!」

駆は缶コーヒーを一口飲み、小さく微笑んで頷いた。

「……まあな。たまにはこういう静かで温かい記念日も、悪くねぇよ」

みずきは嬉しそうに目を輝かせると、パッと飛び切りの笑顔を弾けさせた。

「はいっ! じゃあ平和な70話の次は……明日の第71話です!」

みずきは悪戯っぽく胸を張って高らかに宣言した。

「明日は『平和の反動! 部室の地下に眠る伝説の巨大キャベツ怪獣を呼び覚ます特殺映画風バトル配信』です!」

駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。

「平和が一話で崩壊したわ!!!! 怪獣を呼び覚ますな!! 部室を特撮の破壊現場にするんじゃない!!!」

「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」

夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声と快晴のような叫び。

70話を越えて、どこまでも広がる騒がしくも愛おしい青春。

世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、最高の笑顔とともに、どこまでも未来へ続いていく。

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