六十九話
「スケールアップのスピードが光速なんだよ!」という駆の魂の叫びが夜空に消えてから一夜。
翌日の18時。天宮ミルクのチャンネルでは、部室の中とは思えない怪しい銀色の光に包まれた生配信がスタートしていた。
タイトル:『【宇宙進出】部室から宇宙へ!? 手作りダンボールロケットで無重力キャベツ体験してみた!』
富士山登頂(※ルームランナー)から間髪入れずにまさかの宇宙へ。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「展開のハイパーインフレ」「いつもの段ボール工作きた」と期待に胸を膨らませ、開始数分で同接数は120万人を軽々と突破していた。
【宇宙進出きたああああ!】
【部室に銀アルミで覆われた段ボール巨大筒があって草】
【無重力体験=また変な仕掛けだろww】
【ヒューガの宇宙服風コスプレてぇてぇ】
――18時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、部室の天井ギリギリまで聳え立つ、アルミホイルでピカピカに補強された巨大なダンボール製ロケット。バイザー付きのヘルメットを被ったヒューガと、白い宇宙服風のツナギを着た天宮ミルク(3D)がコックピット(※部室の隅)に座っている。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面中央をご覧ください。天宮さんが徹夜でダンボールとアルミホイルとガムテープで組み上げた『ミルク1号』です。現在、俺たちはこの中でカウントダウンを待っています。大学の警備員さんが窓の外から不審そうな目で見つめています。助けてください」
「こんミルク〜! 宇宙の真理と『キャベツの無重力浮遊』を解き明かす宇宙飛行士・天宮ミルクです〜!」
「警備員さんに怪しまれるような格好でダンボールの中に閉じこもるな!! 宇宙の真理を語る前に大学の許可を取れ!! そもそもダンボールで宇宙に行けるわけねぇだろ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒のダンボールロケットツッコミ】
【警備員さんの温かい視線草ww】
【アルミホイルの量が尋常じゃない】
そこへ、地上管制室(※自宅)から二人の宇宙旅(?)をサポートすべく、Discord経由で仲間たちが通信を入れてくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、そのダンボールロケットが自力で大気圏を離脱する確率は0.000000%です。ただし、内部の温度が急上昇して熱中症になる確率は99.8%です』
「離脱確率ゼロを小数点以下まで計算すな!! 熱中症の危険性があるなら今すぐドアを開けさせろ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……宇宙だと……!? 我が暗黒の魔導船で大気圏外まで牽引してやろう! 報酬として月面の権利の半分を要求する!』
「勝手に月面を領有権主張するな魔王!! そもそもお前もただの部屋から通話してるだけだろ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの無重力再現データにより、手軽に無重力を体験する完璧な方法が判明しました!「二人で巨大なトランポリンの上で跳ねながらキャベツをキャッチボールする」です!』
「それただの室内トランポリン遊びなんだよ!! 物理法則の克服でもなんでもねえわ!!」
【熱中症確率99.8%ww】
【月面の権利の半分草ww】
【同接破竹の140万人突破!】
「発射カウントダウン……3、2、1……テイクオフ〜!」というみずきの掛け声とともに、なぜか部室の床に設置された巨大トランポリンと扇風機が一斉に作動!
宙に浮かび上がった(※跳ねた)天宮ミルクが、空中へキャベツタルトを放り投げる。
「見てくださいヒューガさん! キャベツタルトが宙に浮いています! これぞ無重力空間『キャベツステーション』です〜!」
「跳躍の瞬間に投げてるだけだろ!! 慣性の法則で一時的に浮いてるように見えるだけなんだよ!! 落ちてくるタルトを床に落とすな!!」
駆も必死で跳躍し、空中で見事なフライングキャッチを披露。
「……あ、捕まえた……って、なんで俺まで真顔でトランポリン跳びながら空中キャッチしてんだよ!!」
茶劇のような無重力体験(?)にもかかわらず、息の合った空中キャッチと爆音ツッコミのコンボに、同接160万人のリスナーは大爆笑。大量のスパチャと「V界最高の宇宙飛行士たち」という絶賛の嵐で配信は大盛況のうちに幕を閉じた。
――配信終了後。ダンボールロケットを解体し、汗を拭う夜の部室。
ヘルメットを脱ぎ、パイプ椅子に倒れ込んで缶コーヒーを飲む駆。
「……ハぁ……ハぁ……。ダンボールの中で熱気に耐えながら跳ねるの、富士山登山より汗かいたぞ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣で宇宙服のツナギの袖をまくったみずきが、冷えた缶のいちごミルクを嬉しそうに飲みながら微笑みかける。
「でも、空中でのキャッチ、すっごく格好良かったです! まるで本当の本物の宇宙飛行士みたいでした!」
駆は缶コーヒーを一口流し込み、アルミホイルの残骸を見つめて呆れたように、でも柔らかく目を細めた。
「……たく。お前の手作り工作に付き合うのも一苦労だわ。……まあ、お前が満足したなら良いけどよ」
みずきは一瞬驚いて目を丸くし、それからパッと太陽のような笑顔を弾けさせた。
「はいっ! 日向くんと一緒なら、ダンボールロケットでも宇宙の果てまで飛んでいけちゃいます!」
「へいへい。……で、宇宙進出も(一応)達成したし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『宇宙から地球へ帰還! 無事に帰ってきた記念に部室で全国の珍しいキャベツの種を蒔くまったりガーデニング配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「第63話で部室がジャングルになったトラウマを忘れたのか!!!! また部室を熱帯雨林にする気か!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。
宇宙体験(?)を乗り越え、再び部室の緑化(?)へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




