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六十八話

「徒歩で何日かかると思ってんだ!」という駆の当然すぎる絶叫から一夜。

翌日の15時。天宮ミルクのチャンネルでは、なぜか爽やかなスポーツウェア姿の二人が並ぶ生配信がスタートしていた。

タイトル:『【富士山攻略】部室から富士山頂へ!? 特注ルームランナーで目指せ標高3776m達成耐久!』

距離感を完全にバグらせた企画内容に、チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「さすがに現地まで走らなくて安心した」「いや部室にルームランナー持ち込んでる時点で異常だよ」と大爆笑。開始数分で同接数は110万人を軽々と突破していた。

【現地マラソンじゃなくて部室耐久で草】

【部室に業務用ルームランナー2台持ち込むなww】

【標高3776m分の斜面設定は膝が死ぬ】

【ヒューガのジャージ姿再び】

――15時ジャスト。配信スタート。

画面に映し出されたのは、いつもの部室の中央にドーンと鎮座する2台のゴツい業務用ルームランナー。汗拭き用タオルを首にかけたヒューガと、ヘッドバンドを装着してやる気満々の天宮ミルク(3D)が走る準備を整えている。

「……みなさんこんにちは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面の通りです。天宮さんが『現地まで走るのは遠いから部室で富士山登ろう!』とわけのわからぬ妥協案を出した結果、部室に業務用ルームランナーが設置されました。傾斜角度がマックスに設定されています。壁が迫ってきます。助けてください」

「こんミルク〜! 走破距離と傾斜モードで富士山山頂の標高3776メートルに到達しようとしている天宮ミルクです〜!」

「傾斜角度で標高を再現しようとするな!! 角度30度の坂道をひたすら走らされたら一分で前腿の筋肉が破壊されるわ!! なんで部室で登山トレやらされてんだよ!!」

【wwwwwwwwwwww】

【開幕0秒の傾斜角度ツッコミ】

【部室登山トレ草ww】

【壁が迫ってくる傾斜モードww】

そこへ、過酷な傾斜走行に挑む二人を遠隔で「サポート(試練)」すべく、Discord経由で仲間たちが次々と参戦してくる。

黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、その傾斜設定で標高3776m分の運動量を稼ぐには、時速12キロで約4時間走り続ける必要があります』

「4時間も傾斜30度で爆走したら心肺機能が停止するわ!! 人体の構造を計算に入れろ!!」

鳳凰院カグラ『クックック……山頂を目指す者よ! 我が暗黒の風(※部室の大型扇風機)で、富士山特有の激しい突風を再現してやろう!』

「強風モードで扇風機回すな!! 走ってる最中に目を開けられなくなるだろ魔王!!」

星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの高山病対策データにより、山頂気分を味わう画息な方法が判明しました!「酸素缶を吸いながら『ヤッホー』と叫んでエコーをかける」です!』

「自分でエコーかけるな!! 精神的にも物理的にも酸素の無駄遣いなんだよ!!」

【大型扇風機で突風再現ww】

【自分でエコーかけるヤッホー草ww】

【同接破竹の130万人突破!】

仲間たちの邪魔(?)に耐えながら、ハァハァと息を荒らしてルームランナーの上を走り続ける二人。

「ヒューガさん……! 現在……標高2000メートル突破です……! 空気が薄くなってきた気がします……!」

「部室の空気は1ミリも薄くなってねえよ!! 単に運動不足で息が切れてるだけだろ!!」

途中で天宮ミルクが用意していた「水分補給用・特製キャベツスポーツドリンク」を飲むと、甘みとミネラルが疲れた体に染み渡り、まさかの大回復。

「……あれ!? 普通に爽やかで美味い……!? ちゃんと塩分と水分補給ができる……だと……!?」

「ふふふ……! 嬬恋キャベツの水分は天然のスポーツドリンクなんですよ〜!」

最後はリスナー140万人の『あと少し!』『頑張れ!』という大歓声のスパチャに背中を押され、傾斜モードを走り切って見事「仮想・富士山山頂(標高3776m)」に到達!

同接150万人の大爆発とともに、熱狂の部室登山配信は幕を閉じたのだった。

――配信終了後。ルームランナーを止め、床に大の字で倒れ込む駆。

「……ハぁ……ハぁ……。足が……足が生まれたての小鹿みたいにプルプル言ってる……」

「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」

隣に腰掛けたみずきが、冷えた缶のいちごミルクを駆の額に優しく当ててあげる。

「でも、日向くんと一緒に富士山の頂上(?)に登れて、ミルクすっごく嬉しかったです!」

駆は額の冷たさに息をつき、運動後の火照った顔を照れくさそうに横へ向けた。

「……たく。部室の中で富士山登った気になるとか、お前の発想は相変わらず無茶苦茶だよ。……でも、走り切った後の達成感だけは本物だったな」

みずきは一瞬驚いて目を丸くし、それからパッと太陽のような笑顔を咲かせた。

「はいっ! 日向くんと一緒なら、部室の中でも世界一高い山だって登れちゃいます!」

「へいへい。……で、部室登山も終わったし、明日は何やる気だ?」

みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。

「明日は『山頂に到達したあとは宇宙へ! 部室に手作りロケットを持ち込んで無重力キャベツ体験配信』です!」

駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。

「スケールアップのスピードが光速なんだよ!!!! 宇宙へ行く前にまず地上で安静にしてろ!!!」

「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」

夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。

富士山(?)を攻略し、次はまさかの宇宙へ!?

世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。

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