六十七話
「ひっくり返した瞬間に部室が壊滅するわ!」という駆の至極全当な予言が静かに響く中、翌日の18時。
天宮ミルクのチャンネルでは、香ばしいソースの匂い(※イメージ)が画面越しに漂ってきそうな生配信がスタートしていた。
タイトル:『【特大惨事】部室の限界に挑め! ホットプレート合流で作る100人前巨大キャベツお好み焼き!』
ダンスバトルで激しく消費したカロリーを取り戻すべく立ち上がった爆食企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「壊滅の予感しかしない」「ひっくり返す瞬間だけ見に来た」と大盛り上がりで集結し、開始わずか数分で同接数は115万人を軽々と突破していた。
【100人前お好み焼ききたあああ!】
【ホットプレート何台連結させてんだww】
【絶対ひっくり返せないやつ】
【ヒューガの腕筋と精神力が試される回】
――18時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、長机の上にズラリと6台連結された巨大ホットプレート。その上に隙間なく敷き詰められた、直径1メートルを超える巨大なお好み焼きの生地(千切りキャベツの山盛り)。
割烹着姿のヒューガと、巨大な工事用スコップ(※新品)を両手に持った天宮ミルク(3D)が立っている。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面中央をご覧ください。ホットプレート6台を連結させて作った、直径1メートルの巨大お好み焼きです。キャベツの量が尋常じゃありません。そして隣の天宮さんがコテの代わりに工事用スコップを持っています。助けてください」
「こんミルク〜! 浪速のソウルフードを巨大化させて『キャベツお好み焼きの壁』を作ろうとしている天宮ミルクです〜!」
「壁を作るな!! お好み焼きは食べるもんだろ!! 何で工事現場のスコップ持ってドヤ顔してんだよ!! 衛生面は大丈夫なのか!!」
「安心してください! アルコール消毒と熱湯消毒を10回繰り返した『お好み焼き専用スコップ』です!」
「用途が間違ってんだよ最初から!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒のお好み焼きスコップツッコミ】
【ホットプレート6台連結草ww】
【お好み焼き専用スコップ(新品)】
そこへ、巨大お好み焼きの調理プロセス(?)を遠隔監視していた仲間たちがDiscord経由で口々に入介入してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、その質量の生地をスコップで一気にひっくり返した場合、慣性の法則により生地の70%が天井へ付着します』
「天井にお好み焼きを貼り付けるな!! 大学の施設課にブチ切れられるわ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……生半可な火力ではその巨躯は焼けぬ! 我が暗黒の火炎魔術で一気に下から灼熱の業火を……』
「部室ごと黒焦げになるだろ魔王!! じっくり弱火で焼くのがお好み焼きの基本なんだよ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの物理演算データにより、ひっくり返しを100%成功させる方法が判明しました!「部屋全体を無重力状態にして浮いた瞬間にくるっと回転させる」です!』
「部室を宇宙空間にするな!! 無重力にしたらソースと青のりが部屋中に散乱して地獄絵図になるわ!!」
【天井に貼り付くお好み焼きww】
【無重力調理草ww】
【同接破竹の135万人突破!】
片面が香ばしく焼き上がり、いよいよ最大の難関「ひっくり返し」の刻がやってきた。
「いきますよヒューガさん! 天宮流・スコップ二本差し返しです〜!」
「待て待て待て!! 一人でやるな重みで生地が分裂する!! 俺も巨大コテ持つから『せーの』で合わせろ!!」
汗だくになりながら、息を合わせてスコップと巨大コテを生地の下に滑り込ませる二人。
「せーの……はいっ!!」
ジュワアアアアッ!!!
130万人のリスナーが息を呑んで見守る中、巨大なお好み焼きは空中で見事綺麗な孤を描き、一粒の崩れもなく裏返しに成功! 香ばしい湯気とソースの焦げる良い匂いが部室中に広がった。
【神回避きたあああああ!!】
【ひっくり返ったwwwww】
【V界最高のチームワーク】
【うますぎて草www】
「……ひ、ひっくり返った……!? 奇跡だ……!!」
「やりましたヒューガさん! 大成功です〜!」
ソースとマヨネーズ、削り節をたっぷりかけて完成した巨大お好み焼き。部室に駆けつけた他サークルの学生たちにもおすそ分けし、美味しく完食。同接155万人のスパチャの嵐とともに配信は大盛況で幕を閉じたのだった。
――配信終了後。ホットプレートの片付けが終わった夜の部室。
椅子に深く腰掛け、お腹いっぱいになってふぅっと息をつく駆。
「……ハぁ……。ひっくり返す瞬間、人生で一番集中力使ったぞ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣で温かい缶のいちごミルクを飲んでいたみずきが、嬉しそうに目を細めて微笑みかける。
「でも、日向くんと息を合わせたおかげで、すっごく美味しく焼けましたね!」
駆は缶コーヒーを一口飲み、満足そうなお腹を摩りながら照れくさそうに顔を横へ向けた。
「……まあ、お前が土壇場で変な力入れなかったからだけどな。……美味しかったから良しとするか」
みずきは一瞬目を丸くし、それからパッと太陽のような笑顔を弾けさせた。
「はいっ! 2人で力を合わせれば、どんな巨大なお好み焼きもひっくり返せます!」
「へいへい。……で、お好み焼きも完食したし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『満腹のあとは究極の運動! 部室から富士山山頂までノンストップで走り抜ける超絶マラソン配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「距離感をバグらせるな!!!! 徒歩で何日かかると思ってんだ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。
巨大お好み焼きを完食し、次なる無謀な(?)挑戦へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




