六十六話
「畳を勝手に剥がしたら大学から出禁になるぞ!」という駆の悲鳴が虚しく夜空へ消えてから一夜。
翌日の19時。天宮ミルクのチャンネルでは、なぜか重低音のBGMが響き渡る異様な生配信がスタートしていた。
タイトル:『【極限ダンス】部室をスタジオ化!? 畳を退けてA5ランク和牛をかけたダンスバトル!』
前回の「静寂ASMR」から一転、壁に巨大な姿見(※ダンボールに銀紙を貼った手作り)が設置された部室の光景に、チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「静と動の寒暖差で情緒がおかしくなる」「本当に畳が退けられてて草」と大歓喜。開始数分で同接数は110万人を突破していた。
【本当に畳剥がしてて草wwww】
【V界一、静と動の振り幅がバグってる配信者】
【部室のフローリング(床板)が剥き出しに】
【ヒューガのジャージ姿てぇてぇ】
――19時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、畳が綺麗に重ねて端に寄せられ、むき出しになった木の床板。黒のスポーティーなジャージ姿のヒューガと、ストリート系のダボッとしたパーカーにキャップを深めに被った天宮ミルク(3D)がキメポーズで立っている。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面を見ての通り、畳は端に寄せました。畳は剥がしていません! 畳の下の床板の上で立っています! 大学の出禁はなんとか回避しました! 助けてください」
「こんミルク〜! キレキレのダンスで『キャベツダンス界の頂点』を目指す天宮ミルクです〜!」
「キャベツダンス界ってなんだよ!! 存在しない業界を勝手に立ち上げるな!! なんで俺までジャージに着替えさせられて本格的なストレッチさせられてんだよ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒のキャベツダンスツッコミ】
【出禁回避のギリギリ攻防草ww】
【ジャージ姿でストレッチさせられるヒューガ】
そこへ、突如始まったダンスバトル(?)をジャッジすべく、Discord経由で仲間たちが審査員気取りで通信接続してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、お二人が現在のBGMに合わせてブレイクダンスを披露した場合、床板の耐荷重を超えて階下の研究室に落下する確率が88.2%です』
「下へ落ちるような激しいムーブはしねえよ!! 床が抜けるようなダンスを指示するな!!」
鳳凰院カグラ『クックック……見よ! 我が漆黒のステップ『暗黒舞踏』を! 画面越しでもその波動が届くはずだ!』
「Discordの音声だけで踊られても動きが1ミリも伝わってこないんだよ!! 音声通話でダンスアピールすな!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIのストリートダンス解析データにより、最高得点を獲得する決めポーズが判明しました!「ブレイクダンスの決め技の姿勢で頭の上にキャベツを載せる」です!』
「首が折れるわ!! 技の難易度を体幹以外の謎要素で跳ね上げるんじゃない!!」
【音通でダンスアピールする魔王ww】
【頭の上にキャベツ載せてフリーズww】
【同接破竹の130万人突破!】
仲間たちのカオスなジャッジ(?)のもと、激しい重低音に合わせて踊り出す天宮ミルク。
運動神経が謎に抜群なみずきは、想像以上にキレッキレのブレイクダンスを披露し、パーカーの裾をたなびかせながら見事なムーンウォークまで決めてみせる。
「どうですかヒューガさん! これぞ天宮流『キャベツ収穫ステップ』です!」
「動きが本格的すぎるんだよ!! なんで無駄にダンスが上手いんだよ!! ネーミングとのギャップで脳がバグるだろ!!」
煽られた駆も、昔取った柄塚(?)で謎のキレを見せるキレッキレのツッコミダンス(※ステップを踏みながらツッコむ新ジャンル)を披露。
床板の上で繰り広げられる二人の息の合った奇跡の連動ステップに、同接150万人のリスナーは大爆笑と大歓声を送り、スパチャの嵐とともに「V界最高のユニット」「息が合いすぎてる」とコメント欄が熱狂の渦に包まれたのだった。
――配信終了後。汗を拭い、畳を元の位置に敷き直した夜の部室。
ジャージの首元を緩め、パイプ椅子に深く腰掛けて冷えたスポーツドリンクを飲み干す駆。
「……ハぁ……ハぁ……。ツッコミながらステップ踏むの、人生で一番体幹使ったぞ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣でキャップを脱ぎ、タオルで汗を拭いたみずきが、嬉しそうに胸を躍らせて笑いかける。
「でも、日向くんのツッコミステップ、すっごく格好良かったですよ! ミルク、息がぴったりで感動しちゃいました!」
駆はスポーツドリンクのボトルを抱えたまま、照れくさそうに顔を横へ向けた。
「……たく。お前が無駄にキレキレで踊るから、こっちも本気にならざるを得なかったんだよ。……まあ、たまには体を動かすのも悪くねぇけどな」
みずきは一瞬驚いたように目を丸くし、それからパッと太陽のような笑顔を弾けさせた。
「はいっ! 歌っても踊っても、日向くんと一緒ならいつだってそこが最高のライブステージです!」
「へいへい。……で、ダンスバトルも終わったし、明日は畳の上で何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『激しい運動のあとは超カロリー補給! 部室のホットプレートで作る100人前巨大キャベツお好み焼き配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「ホットプレートのサイズを超越してんだよ!!!! ひっくり返した瞬間に部室が壊滅するわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。
ダンスバトルを踊り抜け、次なる食の狂乱へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




