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七話

「中の人エンカウント」という衝撃の事実から数日。

大学では「ただの同級生」、配信では「大物ド天然Vと猛獣使いツッコミV」という奇妙な二重生活にも慣れ始めていた頃、ネットの闇が唐突に牙を剥いた。

きっかけは、チャンネル登録者数30万人を抱える大手ゴシップ系VTuber『物申す系バク』の投稿した一本の動画だった。

『【暴露】ヒューガの裏の顔。天宮ミルクを利用した悪質売名と事務所囲い込みの全貌【炎上】』

悪意ある編集で切り抜かれた動画。

駆が配信中に放った「お前ホント使えないな」「さっさと配信切れ」といった冗談交じりのツッコミ(※実際はゲーム内のギャグ文脈)だけが繋ぎ合わされ、あたかも駆が天宮ミルクを裏で虐げ、売名のために利用しているかのように仕立て上げられていた。

コメント欄やSNSは瞬く間に荒れ始めた。

『やっぱりただの嫌な奴だったのか』

『ミルクちゃんが可哀想すぎる』

『個人勢のくせに調子乗るな』

『ヒューガは配信やめろ』

「はは……悪意の固まりだな」

自室で画面を見つめる駆の顔から色が失われていた。

SNSの通知は荒らしで埋まり、YouTubeの低評価率が一気に跳ね上がる。自分ひとりの炎上ならまだ耐えられた。だが、天宮ミルクやライブプロダクションにまで迷惑がかかると思うと、胃が引きちぎられるような痛みが走った。

(俺がVを始めたのが間違いだったのかな……。素直に一般人として生きておけば……)

画面を閉じ、部屋の明かりを消してベッドに倒れ込む。

スマホの振動を無視し、闇の中でじっと耐えていたその時。

『ピコン!』

LINEの通知が鳴った。相手は「天野みずき」——中の人からのメッセージだった。

『日向くん、今から配信見られますか?』

「配信……?」

駆が急いでYouTubeを開くと、そこには枠の告知もなしに突如として始まった『天宮ミルク』の緊急生配信があった。

同接数は一瞬で10万人を突破。チャット欄は炎上の件で殺伐としている。

画面に映る天宮ミルクのアバター。いつもならヘラヘラと笑っている彼女だったが、その表情(モデルの動き)はどこか真剣そのものだった。

「みなさん、こんばんは。天宮ミルクです。今日は……ヒューガさんについての動画が出回っていることについて、ミルクの口から直接お話ししたくて配信をつけました」

チャット欄が激しく流れる。『叩くのか?』『擁護か?』と荒れ狂うリスナーたち。

ミルクは、少しの間を置いてから、凛とした声で言葉を紡ぎ始めた。

「あの動画を作った人は、ヒューガさんのことを何も分かっていません。ミルクのことも、何も分かってないです」

一瞬、チャットの速度が緩んだ。

「ミルクは昔からポンコツで、配信でいっぱい失敗して、みんなに迷惑をかけてきました。一人で配信するのが怖くなったこともありました。でもね……ヒューガさんは違ったんです」

ミルクの声が、少しだけ震える。

「ミルクがどんなにおかしなボケをしても、失敗しても、ヒューガさんは笑いに変えてくれました。『原人か!』ってツッコんで、ミルクの壊しちゃった空気を、全部全部、最高の笑顔に変えてくれたんです」

画面の前で、駆は息を呑んだ。

「ヒューガさんがいないと、ミルクのボケは全部ただの事故になって、空気に消えちゃいます。ミルクのボケを『宝物』にしてくれたのは、世界でヒューガさんだけなんです! 売名なんかじゃない! ミルクが、ヒューガさんにお願いして一緒にいてもらってるんです!」

「……っ」

胸の奥が熱くなり、目の前が潤んでいく。

「だから……ヒューガさんを悪く言わないでください! ヒューガさんは、ミルクの大事な……一番大切な『相方』なんですから!」

【ミルクちゃん……!】

【泣いた……】

【悪質な切り抜きに騙されてたわ】

【ヒューガ、最高の相方じゃねえか】

【ゴシップ系V息してるー??】

チャット欄は一転して、感動とミルクの真っ直ぐな言葉への称賛で埋め尽くされた。

悪質なゴシップ動画は一気に低評価と通報が殺到し、数時間後には削除へと追い込まれることになった。

――配信終了後。

駆のスマホに、みずきからLINEが届く。

『格好いいこと言えちゃいました! えへへ、ミルク、ちゃんと伝えられましたか?』

駆は目元を拭い、クスッと笑ってキーボードを叩いた。

『バカ。相方とか言ってハードル上げるな。……でも、ありがとう。助かった』

『どういたしまして! その代わり、明日の講義のノート見せてくださいね!』

『それは自分で取れ!!』

画面越しにいつものキレのあるツッコミを打ち込みながら、駆の心から暗雲は完全に消え去っていた。

二人の絆は、この炎上を超えてより強固なものとなったのだった。

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