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六十三話

「サイエンスフィクションを現実でやろうとするな!」という駆の至極全当な絶叫が夜空に溶けてから一夜。

翌日の18時。天宮ミルクのチャンネルでは、部室が緑一色に染まった狂乱の実験配信がスタートしていた。

タイトル:『【SF開幕】発掘された100年前の種!? 栄養剤マシマシで「超高速キャベツ栽培」に挑戦してみた!』

床下探検からの怒濤のSF展開。チャンネル登録者数600万人超の画面前には、開始数分で110万人を超えるリスナーが殺到。チャット欄は「バイオハザードの予感」「部室が緑化計画されてて草」と大盛り上がりとなっていた。

【SF回きたああああ!】

【部室がアマゾンの熱帯雨林になってるww】

【100年前の種を覚醒させるな】

【ヒューガの叫び声で成長速度が上がりそう】

――18時ジャスト。配信スタート。

画面に映し出されたのは、足の踏み場もないほど緑の葉が生い茂る部室。白衣姿のヒューガと、怪しい緑色の液体が入ったフラスコを持つ天宮ミルク(3D)が立っている。

「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面を見ればお分かりの通り、昨日掘り出した謎の種に天宮特製の怪しい液体をかけた結果、配信開始わずか10分で部室が熱帯雨林化しました。助けてください」

「こんミルク〜! 愛の栄養剤でキャベツを『音速成長』させようとしている天宮ミルクです〜!」

「音速で育てるな!! 植物の成長プロセスを無視するんじゃない!! パイプ椅子がキャベツのツルに呑み込まれて見えなくなってんだよ!!」

【wwwwwwwwwwww】

【開幕0秒の熱帯雨林ツッコミ】

【10分で部屋を呑み込む成長速度ww】

【バイオハザードのV実況】

そこへ、部室の異様な植物反応を検知した仲間たちがDiscord経由で緊急介入してくる。

黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、そのキャベツの成長速度がこのまま維持された場合、あと20分で大学の第一校舎全体が巨大キャベツに包まれます』

「校舎をキャベツでジャックさせるな!! 今すぐ成長を止める中和剤を作れ!!」

鳳凰院カグラ『クックック……見よ! この我が生み出した『魔界植物キャベツ・レヴィアタン』の威容を!』

「お前が生み出したんじゃないだろ!! 勝手に魔界のモンスター扱いするな!!」

星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの植物学解析データにより、暴走するキャベツを大人しくさせる唯一の方法が判明しました!「キャベツに向かって子守唄を歌いながら優しく千切りにする」です!』

「子守唄歌いながら刻むのはサイコパスの発想なんだよ!! 逆に恐怖でキャベツが狂暴化するわ!!」

【魔界植物レヴィアタン草ww】

【子守唄歌いながら千切りww】

【同接破竹の135万人突破!】

部室を埋め尽くす巨大キャベツのツル(※なぜか害はない)に囲まれ、必死でハサミを振るう二人。

「ヒューガさん! 育ちすぎたキャベツのてっぺんに、巨大なつぼみができました! 開花します〜!」

「花咲くのかよ!! どんな品種なんだよこれ!!」

ポンッという軽快な音とともに開花した巨大キャベツの花。その中央から現れたのは……なんと、手のひらサイズの「黄金のキャベツタルト(熟成完熟ver)」だった。

「「……タルトが実った!?」」

「なんで果実の代わりに最初から完成品スイーツがなってんだよ!! 植物の概念を超越すな!!」

「わぁ〜! これぞ100年前の奇跡!『タルトの実』です〜!」

奇跡的に実った(?)黄金のタルトを恐る恐る一口かじると、完熟したキャベツの甘みと極上のカスタードが口いっぱいに広がり、涙が出るほどの絶品だった。

「……う、美味い……!? なんでこんな怪奇現象から奇跡の絶品が生まれるんだよ!!」

同接150万人のリスナーから「腹抱えて笑った」「最後は美味しくなる安定の神回」とスパチャの雨が降り注ぎ、超高速栽培配信は爆笑のうちに幕を閉じたのだった。

――配信終了後。剪定(せんてい)が終わり、すっかり元通りになった夜の部室。

パイプ椅子に深く腰掛け、黄金タルトの余韻に浸りながら温かい缶コーヒーを飲む駆。

「……ハぁ……。部室がジャングルになった時は本気で終わったと思ったぞ……」

「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」

隣で甘いキャベツの花びらを愛おしそうに瓶に詰めるみずきが、嬉しそうに笑いかける。

「でも、すっごく美味しくて、まるで夢みたいな冒険でしたね!」

駆は缶コーヒーを一口飲み、静まり返った夜のキャンパスを見つめて照れくさそうに柔らかく微笑んだ。

「……たく。お前といると、本当に漫画みたいなことしか起きねぇな。……まあ、退屈しないから良いけどよ」

みずきはパッと目を輝かせ、飛び切りの笑顔を弾けさせた。

「はいっ! ミルクと日向くんの日常は、毎日がSFで、毎日が最高の宝物です!」

「へいへい。……で、SF栽培も終わったし、明日は何やる気だ?」

みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。

「明日は『大自然へ原点回帰! キャベツ畑のど真ん中で100人同時キャベツタルト大食い対決配信』です!」

駆は夜の部室に、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。

「胃袋が爆破するわ!!!! 人数を急に増やすんじゃない!!!」

「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」

夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。

密林(ジャングル)を越えて、次なる大騒ぎへ。

世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。

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