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五十九話

「教授が本気で大学から出禁にするわ!」という駆の切迫した悲鳴も虚しく、翌日の放課後17時。

天宮ミルクのチャンネルでは、教授の研究室前廊下から恐怖の生配信がスタートしていた。

タイトル:『【出禁覚悟】無事レポート提出! 教授に感謝の「超・極上キャベツタルト」を届ける突撃配信!』

第46話でのトラウマ再び。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「教授逃げて」「単位剥奪(本物)の予感」とハラハラしながら集結し、開始わずか数分で同接数は100万人を軽々と突破していた。

【教授の研究室前きたあああ!】

【フラグ回収が早すぎるww】

【ヒューガの胃に穴が空く5秒前】

【教授「また来たのか天宮……」】

――17時ジャスト。配信スタート。

画面に映し出されたのは、静まり返った大学の研究室棟の廊下。冷や汗をダラダラ流すヒューガと、パティシエ風エプロンを着て黄金に輝く(?)謎のタルト箱を大事そうに抱える天宮ミルク(3D)が立っている。

「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……今、僕たちは教授の研究室のドアの前にいます。前回のトラウマで、僕の心拍数がすでに180を超えています。隣の天宮さんがドヤ顔で抱えているタルト箱から、なぜかほのかにキャラメルのいい香りがしてくるのが逆に恐ろしいです」

「こんミルク〜! 教授への感謝を込めて、徹夜でパイ生地から焼き上げた『極上・キャラメリゼキャベツタルト(奇跡の普通味)』を持ってきた天宮ミルクです〜!」

「『奇跡の普通味』って自白すな!! 普段の料理が事故前提なんだよ!! 頼むからドアをノックする前に一度冷静になってくれ!!」

【wwwwwwwwwwww】

【開幕0秒の心拍数180ツッコミ】

【奇跡の普通味草ww】

【普段の事故を認めていくスタイル】

そこへ、研究室内の監視(※設定)を行っていた仲間たちがDiscord経由で緊迫した声で接続してくる。

黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、ドアを開けた瞬間に教授が警察に通報する確率が78%です。速やかな撤退を推奨します』

「通報される前に止めるのがお前の計算だろ!! 撤退の手伝いをしろ!!」

鳳凰院カグラ『クックック……教授の魂を我が暗黒の契約で縛り付け、単位を無条件で授与させようぞ!』

「改ざん以上の犯罪行為を企むな!! 大学を追放されるのは俺たちなんだよ!!」

星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの危機管理データにより、教授の怒りを鎮める唯一の方法が判明しました!「ドアの隙間からキャベツの葉を1枚ずつ滑り込ませて様子を見る」です!』

「ホラー映画の怪異みたいな渡し方すな!! 怖すぎて余計に激怒されるわ!!」

【ドアの隙間からキャベツ草ww】

【通報確率78%ww】

【同接破竹の120万人突破!】

「えーい、行ってきます〜!」と制止を振り切り、天宮ミルクがドアをトントンと叩く。

「教授〜! 昨日はレポートを受け取っていただきありがとうございました! 感謝のタルトです〜!」

ガチャリとドアが開き、疲れ果てた表情の教授(※天の声)が顔を出した。

『……天宮君、ヒューガ君。また君たちか……。前に言ったはずだぞ、変なものを持ち込んだら単位を……』

「教授、今回は本当に美味しいです! 毒も入ってません! 食べてみてください!」

天宮ミルクが差し出した箱から切り分けられたタルトを、おそるおそる一口口にする教授。……一瞬の静寂の後、教授の目が丸くなった。

『……ん? ……香ばしくて、キャベツの甘みがキャラメルと合っていて……美味しいじゃないか……』

「えっ……本当に……?」と呆然とする駆。

『天宮君、君はやればできるじゃないか。昨日のレポートも構成がしっかりしていたし……よし、今回のレポートは『A評価』としよう』

「やった〜〜!! 教授ありがとうございます〜〜!」

「まさかの神展開かよ!! 奇食のフリして本当に絶品スイーツ作ってんじゃねえよ!! ツッコミの行き場がねえだろ!!」

【教授が褒めたああああ!】

【レポートA評価確定ww】

【絶品スイーツで教授攻略】

【同接135万人突破!】

奇跡のA評価と絶品タルトにより、出禁どころか教授との絆(?)が深まるという最高のオチで、同接135万人の祝福スパチャとともに配信は幕を閉じたのだった。

――配信終了後。夕暮れの帰り道。

夕陽に染まるキャンパスの並木道を並んで歩く駆とみずき。

「……ハぁ……。人生で一番ヒヤヒヤしたけど、まさかA評価がもらえるとはな……」

「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」

隣を歩くみずきが、カバンを両手で抱えながら嬉しそうに駆け寄ってくる。

「でも、レポートの構成を一緒に考えてくれたのも、タルトの焼き加減を教えてくれたのも日向くんです。全部日向くんのおかげですよ!」

駆は照れくさそうに顔を背け、缶コーヒーのプルタブを開けて一口飲み込んだ。

「……たく。お前が変な隠し味入れないように見張ってただけだっつの。……まあ、お前がちゃんと評価されて良かったよ」

みずきは一瞬驚いたように目を丸くし、それから夕陽よりも眩しい笑顔を咲かせた。

「はいっ! 日向くんが隣にいてくれれば、ミルクはどんなことでも頑張れます!」

「へいへい。……で、単位の危機も脱出したし、明日は何やる気だ?」

みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、高らかに宣言した。

「明日は『祝・A評価! お世話になった全宇宙のリスナーへ、5000個のキャベツタルトを無料配布する大感謝祭配信』です!」

駆は夕暮れの街並みに向かって、本日一番の爆音ツッコミを叩き込んだ。

「5000個も誰が焼くんだよ!!!! 部室がパンクするわ!!!」

「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」

橙色の空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。

単位の危機を越えて、教授の心を溶かして。

世界一のツッコミと世界一のド天然の「終わらない青春」は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。

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