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五十八話

「レポートは配信中に書くな」という駆の最も真っ当な正論はいつも通り完全にスルーされ、翌日の20時。天宮ミルクのチャンネルでは、静かなはずの「作業配信」の枠が立ち上がっていた。

タイトル:『【期末レポート】絶対に単位を落とせない24時! 提出締切直前の深夜文字数稼ぎ配信!』

日本縦断ツアーから一転、大学生Vとしてのリアルすぎる修羅場に、チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「既視感しかない」「また単位の危機で草」と歓喜しながら集結。開始わずか5分で同接数は90万人をあっさり突破していた。

【また単位の危機きたあああ!】

【締め切り数時間前に配信枠を立てるなww】

【ヒューガ先生のスパルタ指導回】

【文字数稼ぎ(物理)の予感】

――20時ジャスト。配信スタート。

画面に映し出されたのは、ノートPCと白紙のWord画面が立ち上がった部室のデスク。メガネ姿のヒューガと、ハチマキを締めて絶望的な顔をした天宮ミルク(3D)が並んで座っている。

「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……今夜の締切は深夜24時。現在の天宮さんのレポートの進捗は、タイトルと名前を書いて終わりです。残りの必要文字数は2000文字。絶望の現場からお送りしています」

「こんミルク〜! レポートの文字数を稼ぐために『キャベツ』という単語を連打して文字数カウンターを誤魔化そうとしている天宮ミルクです〜!」

「文字数の嵩増しにキャベツを使うな!! 教授が目視で確認した瞬間に0点で単位即没収だわ!! ちゃんと論理的な文章を書け!!」

【wwwwwwwwwwww】

【開幕0秒のキャベツ連打ツッコミ】

【教授をナメすぎだろww】

【進捗:タイトルと名前のみ】

単位剥奪のカウントダウンが迫る中、助け舟(&邪魔)を出すべくDiscord経由で仲間たちが次々と参戦してくる。

黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、天宮さんのタイピング速度では残り4時間でまともな文章を2000文字入力することは不可能です。僕が開発した「論文自動生成AI」を使いましょう』

「AIに卒論書かせるな!! 盗用チェックツールに引っかかって即学年停学になるわ!!」

鳳凰院カグラ『クックック……単位などという現世の鎖に縛られるな! 我が暗黒の魔筆で、レポート用紙に魔界の呪文を書き連ねてやろう!』

「呪文提出すな!! 教授が解読できずに破り捨てて終わりだろ!!」

星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの文字数増量最適化により、画期的な方法が判明しました!「文字のフォントサイズを100ptにして、画面いっぱいに『キャベツ』と書く」です!』

「小学生の宿題の誤魔化しかたか!! ページ数が100ページになってサーバーが重くなるだけだろ!!」

【フォントサイズ100pt草ww】

【魔界の呪文提出ww】

【同接破竹の115万人突破!】

絶叫する駆のスパルタ指導のもと、半泣きでキーボードを叩き続ける天宮ミルク。

「ヒューガさん〜!『近代社会におけるメディアの変遷』について書かなきゃいけないのに、なぜか打ってる文字が全部『キャベツ』になっちゃいます〜!」

「お前の脳内がキャベツに汚染されてんだよ!!『メディア』って打て『メディア』って!! 指先に意識を集中させろ!!」

締切30分前。駆が構成を組み立て、みずきが必死に打ち込むという超絶怒濤のタッグプレイにより、奇跡的に2000文字のまともなレポートが完成。

ボタンを押して大学のポータルサイトに提出が完了した瞬間、チャット欄は『感動のゴール』『8888888』『神回』のスパチャの雨で埋め尽くされ、同接数は125万人に達したのだった。

――配信終了後。深夜24時半の静まり返った部室。

極度の緊張と爆音ツッコミから解放され、デスクに突っ伏して魂が抜けたように脱力する駆。

「……ハぁ……ハぁ……。自分のレポート書くより100倍疲れたぞ……命が削れたわ……」

「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」

隣の席で、みずきが温かい缶のいちごミルクを駆の手に持たせ、嬉しそうに微笑む。

「でも、日向くんのおかげで無事に提出できました! いつもミルクを助けてくれて、本当にありがとうございます」

駆は缶のプルタブを開け、温かい液体を一口飲み込んでから照れくさそうに顔を背けた。

「……たく、次からは一週間前からやれよな。お前の留年がかかってるんだから、放っておけるわけねぇだろ」

みずきは一瞬驚いたように目を丸くし、それから胸が温かくなったようにパッと満面の笑みを咲かせた。

「はいっ! 日向くんがついていてくれれば、ミルクはどんな修羅場も乗り越えられます!」

「へいへい。……で、レポート地獄も終わったし、明日は何やる気だ?」

みずきは悪戯っぽく微笑むと、胸を張って高らかに宣言した。

「明日は『レポート提出記念! 教授への感謝を込めたキャベツタルトお届け配信リベンジ』です!」

駆は深夜の大学のキャンパスに向かって、本日一番の爆音ツッコミを叩き込んだ。

「前回のトラウマを蒸しかえすな!!!! 教授が本気で大学から出禁にするわ!!!」

「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」

深夜の静かなキャンパスに溶けていく二人の笑い声。

単位の危機も、レポートの修羅場も乗り越えて。

世界一のツッコミと世界一のド天然の「終わらない青春」は、どこまでも賑やかに続いていく。

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