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五十四話

「手首が爆発するわ!」という駆の悲鳴を乗せたロケバスは、群馬から一路西へ。

翌日の15時。天宮ミルクのチャンネルでは、約束(?)通り愛知県内の特設調理スタジオから恐怖の耐久生配信がスタートしていた。

タイトル:『【愛知編】手首の限界へ挑め! キャベツ100キロ千切り&小判型タルトで天下統一!?』

愛知を「南国」と言い張る無茶苦茶な前提と、物理的に不可能な調理量。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは、もはや悲壮感すら漂う企画に歓喜し、開始数分で95万人の同接を記録していた。

【本当に千切り100キロやるの!?】

【V界の調理実習(物理)】

【愛知は南国じゃなくて東海地方です】

【ヒューガの右手と喉の耐久レース始まって草】

――15時ジャスト。配信スタート。

画面に映し出されたのは、山のように積まれた青々としたキャベツの山と、ステンレス製の巨大まな板。割烹着に鉢巻き姿のヒューガと天宮ミルク(3D)が包丁を構えて立っている。

「……みなさんこんにちは。個人勢VTuberのヒューガです。……目の前にあるキャベツの山を見て絶望しています。現在100キロのキャベツが積み上がっています。スーパーの仕入れ業者かここは。助けてください」

「こんミルク〜! 愛知のキャベツで『天下統一キャベツ千切り演武』を始めた天宮ミルクです〜!」

「演武とか格好つけてんじゃねえよ!! トンカツ屋の仕込みでもこんな量切らねえよ!! 一体何時間包丁振らせる気だ!!」

【wwwwwwwwwwww】

【開幕0秒のトンカツ屋ツッコミ】

【ステンレスまな板がデカすぎるww】

【手首を大事にしてww】

そこへ、千切りのテンポ(?)を支援すべく、Discord経由で仲間たちがBGM(暴走)担当として接続してくる。

黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、千切りのピッチを毎秒3回に設定すれば、約9時間42分で100キロのカットが完了します』

「9時間半も包丁振り続けられるか!! 人体工学を無視した計算をするな!!」

鳳凰院カグラ『フハハハ! 我が暗黒の剣技『漆黒斬(キャベツスライス)』を伝授しよう! 一振りでキャベツを分子レベルまで刻んでやる!』

「分子レベルに刻んだらただのキャベツ汁なんだよ!! ポタージュスープ作るんじゃない!!」

星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの効率化データにより、千切りを爆速で終わらせる画期的な方法が判明しました!「シュレッダーにキャベツを丸ごと投入する」です!』

「オフィス用品を食品加工に使おうとするな!! 機械の刃が詰まって一発で故障するわ!!」

【シュレッダー草wwwwww】

【分子レベルの千切りww】

【同接破竹の115万人突破!】

そんなカオスな応援(邪魔)を受けつつ、包丁のトントンという快音とともに、無心で千切りを続ける二人。

天宮ミルクの手際が意外にも良く、山のような千切りキャベツが綺麗な山を作っていく。

「ヒューガさん見てください! 千切りキャベツで『名古屋城』を作りました〜!」

「千切りで建築物を建てるな!! 崩れてただのキャベツの山に戻るだろ!! あと横に置いてある小判型のタルトは何なんだよ!!」

「フフフ……これぞ尾張藩に伝わる『隠し金貨のキャベツタルト』です! 中に千切りキャベツがぎっしり詰まっています!」

「金貨じゃなくてキャベツを詰めるな!! 噛んだ瞬間に水分が溢れ出てタルト生地がベチャベチャになるだろ!!」

結局、愛知のリスナーや近隣の飲食店(※設定)からの「千切りキャベツをおすそ分けしてほしい」という大量のSOSにより、100キロの千切りキャベツと小判型タルトは大パニックのうちに完売(?)&配布終了。

同接125万人のリスナーから「V界一の仕込み配信」「トンカツ屋に転職できる」と絶賛のスパチャが降り注ぎ、愛知編は大盛況で幕を閉じたのだった。

――配信終了後。撤収作業が終わり、スタジオの椅子で腕を摩る駆。

「……はぁ……はぁ……。生涯で切るはずだったキャベツの量を、今日一日で全部切り終えた気がするわ……」

「ふふっ、日向くん、本当にお疲れ様です!」

隣に座ったみずきが、冷えた缶のいちごミルクを駆の手に持たせ、甲斐甲斐しく湿布(※VRアイテム)を張ってあげる。

「でも、日向くんの包丁さばき、すっごく格好良かったですよ!」

「……お前が変なタルト作ろうとするから必死でカバーしたんだよ……」

駆は缶のプルタブを開け、一口飲んでから疲れたように、でも柔らかく目を細めた。

「……まあ、でも。千切りしまくったおかげで、嫌な悩みとか全部吹き飛んだけどな」

みずきはパッと目を輝かせ、飛び切りの笑顔を浮かべた。

「はいっ! キャベツを切れば世界は平和です!……じゃあ明日の弾丸ツアー第三弾は……!」

みずきは悪戯っぽく微笑むと、スケッチブックを広げて高らかに宣言した。

「明日は『食い倒れの街・大阪! 道頓堀の巨大カニ看板をキャベツタルトに差し替えるどっきり配信』です!」

駆はスタジオの天井に向かって、本日一番の快晴のような叫び声を叩き込んだ。

「名物を勝手に改ざんするな!!!! 観光協会と警察に捕まるわ!!!」

「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」

夕闇の名古屋の街に溶けていく二人の笑い声。

100キロの千切りを越え、次なる狂乱の舞台・大阪へ。

世界一のツッコミと世界一のド天然の「終わらない旅」は、どこまでも賑やかに続いていく。

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