五十三話
「体力を温存させろ!」という駆の切実な訴えも空しく、翌日の朝8時。
天宮ミルクのチャンネルでは、秋晴れの青空と一面の緑を背景にした超ゲリラ生配信がスタートしていた。
タイトル:『【弾丸縦断】日本一のキャベツ王国・群馬嬬恋村へ! 朝獲れ新鮮キャベツで巨大タルト作ってみた!』
前日の「こたつでまったり」から一転、早朝からの現地ロケ配信にもかかわらず、チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは開始数分で90万人オーバーの同接を記録していた。
【本当に現地に行ってて草】
【こたつからの寒暖差が激しすぎるww】
【群馬の嬬恋村(キャベツの聖地)きたあああ!】
【農家さんの温かい目が目に見えるようだ】
――朝8時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、雄大な浅間山を望む嬬恋村の絶景キャベツ畑。オーバーオール姿のヒューガと麦わら帽子を被った天宮ミルク(3Dモデル)が立っている。
「……みなさんおはようございます。個人勢VTuberのヒューガです。……現在、朝の8時。群馬県嬬恋村の標高1000メートルを超えるキャベツ畑のど真ん中にいます。気温は一桁です。寒さで声が震えています。助けてください」
「こんミルク〜! キャベツの聖地に降臨した『キャベツの妖精』天宮ミルクです〜!」
「畑の真ん中で妖精を名乗るな!! 農家の方々が真面目に収穫作業されてんだよ!! 邪魔にならないように端っこに寄れ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の標高1000mツッコミ】
【嬬恋村に君臨するキャベツの妖精ww】
【農家さん「元気な若者だなあ」】
そこへ、現地ロケの様子をGPSトラッキングで監視していた仲間たちが通信で繋がってくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、現在お二人が立っている場所の糖度平均は非常に高く、タルト加工への最適値を示しています』
「現地から糖度のデータ分析送ってくんな!! 研究所から見守ってろ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……この見渡す限りの緑の地平……我が暗黒王国の領土にふさわしい! 今こそ嬬恋村を「暗黒キャベツ帝国」と名付けよう!』
「勝手に群馬県の村を独立させるな!! 村長さんに怒られるわ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの観光最適化計算により、嬬恋村で最も映える決めポーズが判明しました!「広大なキャベツ畑の中心で愛ならぬ『ツッコミ』を叫ぶ」です!』
「『愛を叫ぶ』で有名な嬬恋村でツッコミを叫ぶな!! 名所のコンセプトを台無しにするんじゃない!!」
【暗黒キャベツ帝国草ww】
【嬬恋村の中心でツッコミを叫ぶww】
【同接破竹の110万人突破!】
そんなカオスな通信の中、農家のご厚意で朝獲れの新鮮なキャベツを丸ごと一頭(玉)譲り受けた天宮ミルク。
「見てくださいヒューガさん! この新鮮でみずみずしいキャベツ! これを使って……その場で作る『新鮮獲れたてキャベツタルト・群馬スペシャル』です!」
「野外で即興調理すな!! 採れたてのみずみずしいキャベツをなんでわざわざタルト生地で包むんだよ!! 千切りにしてドレッシングかけて食うのが一番美味いだろ!!」
しかし、農家の方が気を利かせて持たせてくれたポータブルコンロと特製カスタードにより、奇跡的に「キャベツのシャキシャキ感とカスタードの甘みが絶妙にマッチした創作スイーツ」が完成。
一口食べた駆の表情が変わる。
「……あ、美味い……!? キャベツが甘いから普通にアップルパイみたいな爽やかさがある……!?」
「えへへ! 嬬恋村のキャベツは本当に甘くて美味しいんですよ〜! 農家さん、ありがとうございます!」
【また美味しくなってるwwww】
【群馬のキャベツのポテンシャルすごすぎる】
【農家さんニコニコで草】
【同接120万人突破!】
現地の大自然と農家の方々の温かさに包まれ、朝獲れキャベツツアーの第一弾(群馬編)は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。東京へ戻るロケバスの車内。
激闘の早朝ロケを終え、座席に深く体を沈めて缶コーヒーを飲む駆。
「……はぁ……はぁ……。早朝から寒空の群馬で叫ぶの、人生で一番肺活量使ったぞ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣の席で、みずきが採れたてのミニキャベツを大事そうに抱えながら、嬉しそうに微笑む。
「でも、出来たてのタルト、日向くん『美味い』って言ってくれましたね!」
「……食材が最高だったからな。農家さんに感謝しろよ」
駆は窓の外に流れる秋の群馬の風景を見つめ、ふっと柔らかく目を細めた。
「……まあ、でも。たまにはこういう弾丸ロケも、悪くはないか」
みずきはパッと目を輝かせ、バスの座席で身を乗り出して高らかに宣言した。
「はいっ! じゃあ明日の弾丸ツアー第二弾は……『南国の愛知県で巨大キャベツタルトと一緒にキャベツの千切り100キロ切り耐久配信』です!」
駆は高速道路を走るロケバスの中で、本日一番の快晴のような叫び声を叩き込んだ。
「愛知は南国じゃねえよ!! あと100キロも千切りしたら手首が腱鞘炎で爆発するわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夕陽に染まる関越道を駆け抜けるロケバスの中に、二人の弾けるような笑い声がどこまでも響き渡っていった。




