五十二話
宇宙空間での月面テロ(?)から数日。地球へ無事生還を果たした駆とみずき。
「スケールの落差が凄まじい」という駆の呆れ声の通り、月面の次は肌寒くなってきた秋の夕方、大学の部室から配信がスタートしていた。
タイトル:『【超癒やし】宇宙帰還記念! 部室でこたつに入りながらまったりミカンを食べるだけ!』
月面着陸から一転、実家のような安心感を放つ配信枠には、開始直後から95万人を超えるリスナーが集結。チャット欄は「おかえり」「温度差で風邪ひく」と温かいコメントで溢れかえっていた。
【月面からこたつへの高低差ww】
【V界一、スケール感がバグってるユニット】
【実質ヒューガの喉の養生回】
【※ただし天宮ミルクのミカンである】
――18時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、いつもの部室の中央に設置された赤々と温かい「こたつ」。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……先日は月面で宇宙服を着て叫んでいた気がしますが、現在は部室でこたつに入り、ミカンを剥いています。人間の生活に戻れて心の底から安心しています」
「こんミルク〜! ミカンの皮で『1/100スケールのキャベツタルト』を立体整形している天宮ミルクです〜!」
「ミカンの皮で奇食を再現するな!! 皮は大人しくゴミ箱に捨てろ!! なんでミカン剥くだけで工作が始まってんだよ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒のミカンアートツッコミ】
【安心の日常感ww】
【皮でキャベツタルト作るなww】
そこへ、こたつのぬくもりに引き寄せられた仲間たちがDiscord経由で続々と接続してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、そのこたつから一度出ると、体温の急速な低下により二度と立ち上がれなくなる確率が99.8%です』
「こたつの魔力を科学的に分析するな!! 普通に意思の力で抜け出せるわ!!」
鳳凰院カグラ『くっくっく……この温もり……まさか我が宿敵『暗黒の温室陣』か……!? 身体の脂気が抜けて動けぬ……!』
「ただこたつで丸くなってるだけだろ魔王!! 威厳ゼロでくつろぐんじゃない!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの栄養解析により、ミカンを最も効率よく食べる方法が判明しました!「白い筋をピンセットで完璧に除去してからタルトに載せる」です!』
「筋取るのにピンセット使うな!! 地味すぎる作業で配信時間が全部潰れるわ!!」
【魔王がこたつで丸くなってて草】
【アルベドピンセット除去ww】
【同接破竹の115万人突破!】
そんな中、みずきが「できました〜!」と、こたつの天板の上に並べた「ミカンアート」をお披露目する。
そこにあったのは、ミカンの皮で作られた『ヒューガの顔(爆音叫び顔)』だった。
「どうですかヒューガさん! ミカンの皮で作った日向くんです! 叫んでる口のところにミカンの房を詰め込んでみました!」
「俺の顔をミカンの皮で作るな!! しかも口の中にミカン突っ込むな!! 叫び声を物理的に封殺しようとしてんじゃねえよ!!」
「きゃはは! 日向くんの怒り顔、ミカンの皮でもそっくり〜!」
宇宙空間の壮大なバカ騒ぎも最高だったが、この狭い部室でこたつを囲み、くだらないことで叫び合う時間が、二人にとってもリスナーにとっても一番の癒やしだった。
同接120万人の温かい笑いに包まれ、宇宙帰還記念の「超まったりこたつ配信」は無事に幕を閉じたのだった。
――配信終了後。静まり返った夜の大学の部室。
こたつでぬくぬくと温まりながら、本物のミカンをパクッと口に運ぶ駆。
「……ふぅ……。やっぱり、こたつとミカンが一番落ち着くな……」
「ふふっ、そうですね日向くん!」
隣でこたつにすっぽり入ったみずきが、嬉しそうに目を細めていちごミルクを飲む。
「宇宙も月もすごかったけど……ミルク、やっぱり日向くんとこうやって部室でぬくぬくしてる時間が、世界で一番好きです」
駆はミカンの皮を丁寧にむきながら、隣のみずきに向かって照れくさそうに柔らかく微笑んだ。
「……まあ、月まで行った後だから余計にな。お前がおとなしくミカン食べてるだけで、奇跡みたいに思えるわ」
「えへへ〜! じゃあ奇跡ついでに、明日の企画を発表しますね!」
みずきはパッと目を輝かせると、こたつの中から1枚の紙を取り出して高らかに宣言した。
「明日は『全国の美味しいキャベツ産地を巡る、弾丸日本縦断キャベツグルメツアー配信』です!」
駆は夜の部室に向かって、本日一番の快晴のような叫び声を叩き込んだ。
「まったりした翌日にすぐ弾丸ツアー入れるな!!!! 体力を少しは温存させろ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
こたつのぬくもりと、夜のキャンパスに響く二人の笑い声。
宇宙を回っても、こたつに入っても。
世界一のツッコミと世界一のド天然の「終わらない日常」は、どこまでも愛しく未来へ続いていく。




