五話
夏の熱気がピークを迎える7月下旬。
ライブプロダクション主催『VTuber30名合同! マイクラ夏祭り2026』の当日がやってきた。
所属タレント29名に加え、外部から唯一のゲスト、そして進行MCとして招待されたのが——個人勢VTuber・ヒューガ(日向駆)である。
「よし……機材よし、進行台本よし、喉飴よし……!」
自室でPC画面を前に、駆は深く息を吐いた。
画面上の待機所には、配信開始前から同接15万人を超えるリスナーが押し寄せていた。チャット欄は恐ろしいスピードで流れていく。
【ヒューガ頑張れ! 生きて帰ってきてくれ!】
【カオス確定演出の30人コラボww】
【進行MCがヒューガなの信頼感しかない】
【ミルクちゃんがまた何かやらかすに100ペリカ】
20時ジャスト。配信がスタートした。
「皆さ〜ん! こんミルク〜! 本日はライブプロダクション夏のビッグイベント! マイクラ夏祭りにようこそ〜!」
天宮ミルクの可憐なタイトルコールとともに、巨大な祭り会場のワールドが画面に映し出される。
「そして本日の進行MCを務めさせていただきます、個人勢のヒューガです! よろしくお願いします!……って言っても、参加者が30人もいると画面も音声もカオスなんですけどね!」
画面内には、色とりどりのスキンを着た30人のVTuberたちがすし詰め状態でジャンプしまくっている。
黒羽レンが通話を開く。
「ヒューガさん、本日はよろしくお願いします。僕らもサポートしますが、基本の進行と暴走のストッパーはあなたに一任されていますからね」
「丸投げすんな!! サポートする気ゼロの顔してんだろレンさん!!」
【開幕即ツッコミ助かるwww】
【もう30人が画面内で暴れてて草】
【ヒューガの喉が試される夏】
夏祭り企画の前半戦は「屋台めぐり&ミニゲーム大会」。
金魚すくい、射的、アスレチックなど、事務所の技術チームが総力を挙げて作った特設ワールドだ。
しかし、始まってわずか10分。事件は起こった。
「ヒューガさ〜ん! ミルク、金魚すくいの屋台で『幻のゴールデン金魚』ゲットしました〜!」
「おお、マジですか天宮さん! 金魚すくいコーナーの目玉ですね、すごいじゃ……って、ちょっと待て」
駆は画面上のミルクのインベントリを見て目を疑った。
「お前が手に持ってるの、金魚じゃなくて『マグマバケツ』だろ!!」
「え? でも黄金色に輝いてて綺麗ですよ〜?」
「それ溶剤だ!! 流すな! 絶対に足元に流すなよ!! 屋台全焼するぞ!!」
「わぁ〜、熱帯魚さんたちも喜んで……あっ」
『天宮ミルクが溶岩で焼死しました』
『黒羽レンが天宮ミルクの巻き添えで焼死しました』
『自称IQ2億赤ちゃんVが火だるまになりました』
「あああああーーーーーッ!!! やりやがったあ文字通りの大炎上!!」
ログに流れる大量の死亡通知。炎上する木造の屋台。パニックになって逃げ惑うVたち。
駆の悲鳴のようなツッコミが響き渡る。
「レンさん死んでる場合じゃない!! 水バケツ投げて!! 赤ちゃんVは泣いてないで鎮火を手伝いなさい!! 誰だ! 便乗してTNT(爆薬)設置した奴は!!」
【wwwwwwwwwwww】
【地獄絵図すぎて腹痛いwww】
【開始15分で会場壊滅】
【ヒューガのパニック実況が神がかってる】
駆は即座に権限を使って消火処理を指示し、パニックになった30人を「落ち着け! ログアウトするな! 観客席に戻れ!」と怒号混じりの指示で整列させた。
まさに「怒濤の司令塔」である。
さらに中盤の「射的コーナー」では、
「ヒューガさん! 的が動いて当たらないので、弓矢じゃなくて直接素手で殴りに行っていいですか!?」
「射的の意味ねえだろ!! 殴打だよそれは!! 近接格闘(CQC)すな!!」
後半の「花火大会」では、
「みんなで一緒に夜空を見上げましょう〜! えいっ!」
「待て天宮さん、花火の発射装置の向きが——」
ドガガガガガガガ!!(地上に向かって水平発射される大量の打ち上げ花火)
「参加者に向かってクラスター爆撃すな!! 戦場かここは!!」
【爆破オチwwwwww】
【全員吹っ飛んで草】
【ヒューガの喉の命が限界】
【最高に笑ったwww】
――3時間に及んだ地獄の夏祭りが、無事に(?)終了した時。
同時接続者数は、なんと22万人を記録していた。
「……ハァ……ハァ……というわけで、本日のマイクラ夏祭り……以上で……終了となります……ご視聴……ありがとうございました……」
ガラガラを通り越して擦れ切れた駆の声に、チャット欄は「お疲れ様!」「MVPは完全にヒューガ」「伝説の配信だった」という温かいスパチャとコメントで埋め尽くされた。
配信終了後、疲れ果ててデスクに突っ伏す駆。
そこへ、プライベート通話でミルクが恐る恐る声をかけてきた。
「ヒューガさん……あの……ミルク、またいっぱい失敗しちゃって……ごめんなさい……」
駆は顔を上げ、掠れた声でクスッと笑った。
「ハハ……何言ってるんですか。天宮さんがマグマ流さなかったら、あんなに盛り上がらなかったですよ。最高の夏祭りでした」
「……本当ですか? ヒューガさん……声、ガラガラになっちゃったのに……」
「これくらい、飴舐めればすぐ治りますよ。……天宮さんのボケを拾うの、結構楽しいですから」
「……っ! はい! ミルク、これからもいっぱいボケますね!」
「そこは『ボケないように気をつける』って言え!!」
最後までキレのあるツッコミを残し、夜は更けていった。
しかし、この配信の翌週。
大学の講義室で、日向駆の平和な日常を揺るがす「最大の衝撃」が待ち受けていた。




