四十五話
赤点回避をかけた恐怖の徹夜勉強会から数日。
ついに前期期末テストの結果が返却される「決戦の日」がやってきた。
大学の講義終了後、天宮ミルクのチャンネルでは夕方の緊急生配信の枠が立ち上がっていた。
タイトル:『【結果発表】テスト返却の審判! 赤点だったら即「補習&キャベツ断食」耐久!?』
チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは、Vのリアルな成績開示という生々しい(?)エンタメを察知し、配信開始からわずか数分で同接数は80万人を軽々と突破。
【テスト返却きたあああ!】
【ヒューガは絶対全優】
【問題は天宮ミルクの英語】
【キャベツの絵を描いた解答用紙の末路ww】
――17時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、夕日が差し込む大学の部室。テーブルの上には、折りたたまれたテストの答案用紙が二つ置かれている。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……ついにこの時が来てしまいました。僕の隣で、天宮さんが拝むように答案用紙を見つめています」
「こんミルク〜! 答案用紙を折鶴にして神様に合格祈願をしている天宮ミルクです〜!」
「返却された後に折鶴折っても点数は上がらんのよ!! 現実を受け止めろ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【折鶴にして祈願草ww】
【往診不能の現実逃避】
「さあ! まずは日向くんの結果から発表してください!」
駆は呆れ顔で自分の答案用紙をサッと開いた。
「俺は全科目90点以上。余裕のクリアだ」
【知ってたww】
【さすがヒューga】
【完璧すぎるツッコミ担当】
「すごーい! 流石日向くん!……じゃあ、次はミルクの英語のテストを開きますね……(ペラッ)」
画面の天宮ミルクの3Dモデルが凍りつく。
答案用紙の右上に、赤ペンでデカデカと書かれた数字は『28点』。そして余白には教授からの悲痛なコメント――『解答用紙にキャベツの絵を描かないでください。補習対象です』。
「……あ。28点です」
「描くなと言っただろ!! 採点官の教授に呆れられてんじゃねえよ!! 28点は余裕で赤点確定なんだよ!!」
【28点wwwwwwww】
【教授のコメント草】
【『解答用紙にキャベツを描かないでください』】
【補習決定www】
そこへ、Discordから不吉な通話接続音が響く。
黒羽レン『……失礼します。ヒューガさん、教授から連絡があり、天宮さんの特別補習の監督官としてヒューガさんが指名されました』
「なんで俺が巻き込まれてんだよ!! 教授、俺に丸投げするな!!」
鳳凰院カグラ『フハハハ! 赤点の烙印を押されし者よ! 我が秘術「赤点消滅の儀式(※ただの消しゴム)」を伝授しよう!』
「消しゴムで点数消しても大学のデータベースからは消えねえんだよ!! 改ざんしようとするな!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの最適化計算により、天宮先輩が補習を一瞬で終わらせる画期的な方法が判明しました!「教授にキャベツタルトを献上して買収する」です!』
「賄賂で単位を買おうとするな!! 教授の怒りの火に油を注ぐだけだろ!!」
【教授買収案草ww】
【ヒューガが巻き込まれ補習監督】
【同接破竹の100万人突破!】
結局、補習の課題として教授から出されたのは「英単語1000個の暗写」。
天宮ミルクは泣きそうな顔でノートを開き、駆のスパルタ指導のもとで必死にペンを走らせる。
「ヒューガさん〜!『Cabbage』以外の単語が覚えられる気がしません〜!」
「全部キャベツで脳内を埋め尽くすな!!『Apple』も『Banana』も覚えろ!! ほら、あと500個!!」
「うわ〜ん! 日向くんが鬼の家庭教師になりました〜!」
深夜まで及んだ伝説の「赤点補習耐久配信」は、同接105万人が見守る中、駆の怒号と天宮ミルクの悲鳴が混ざり合う大爆笑の渦で幕を閉じたのだった。
――配信終了後。深夜の部室。
なんとか1000個の単語を書き終え、机に突っ伏して眠りかけているみずき(天宮ミルク)。
「……ハぁ……ハぁ……。人に勉強教えるの、自分でテスト受ける10倍疲れるわ……」
駆は溜め息をつきながらも、眠りそうなみずきの肩に自分のジャージをそっとかけてやった。
みずきはうっすらと目を開け、眠気眼でふふっと嬉しそうに笑う。
「……日向くん、ありがとうございました。……ミルク、日向くんが教えてくれたから、最後まで頑張れました」
「……たく。次からは普段からちゃんと勉強しろよな。俺の胃が持たん」
駆は缶コーヒーのプルタブを開け、一口飲んでから柔らかく目を細めた。
「……まあでも。補習につきあうくらい、いつでもやってやるけどな」
みずきはパッと目を輝かせ、ジャージを抱きしめながら飛び切りの笑顔を浮かべた。
「はいっ! じゃあ明日は『赤点回避記念・全宇宙の教授に感謝のキャベツタルトを配る配信』です!」
駆は深夜の部室に向かって、本日一番の爆音ツッコミを叩き込んだ。
「余計なことして単位取り消しになるわ!!!! 教授を巻き込むな!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜のキャンパスに溶けていく二人の笑い声。
テストの点数が何点だろうと、補習になろうと。
世界一のツッコミと世界一のド天然の「終わらない日常」は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




