四十三話
「勝手に漂流するな」という懸念は見事に的中し、翌日の20時。天宮ミルクのチャンネルでは南国の波音が虚しく響く生配信がスタートしていた。
タイトル:『【サバイバル】無人島に漂流!? 道具ゼロからキャベツタルト作って脱出してみた!』
チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「またか」と手慣れた様子で集結し、開始数分で同接数は85万人を突破。
【本当に無人島に漂流してて草】
【遭難中なのにWi-Fiと3Dトラッキングが完璧な謎技術】
【無人島で道具ゼロ(キャベツはある)】
【ヒューガの叫び声で救助船を呼ぶスタイル】
――20時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、燦々と太陽が降り注ぐエメラルドグリーンの砂浜。腰にヤシの葉を巻きつけた野性味あふれる(?)衣装のヒューガと天宮ミルクの姿があった。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……今、見渡す限り太平洋の真ん中にある無人島にいます。なぜかスマホの電波だけはビンビンに通じていますが、食べ物も水もありません。完全に遭難しました」
「こんミルク〜! 無人島の砂浜で『キャベツ畑の開墾』を始めた天宮ミルクです〜!」
「無人島で農業からスタートしようとするな!! 収穫するまでに餓死するだろ!! 今すぐ救援を呼べ救援を!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の遭難ツッコミ】
【無人島開墾ニキ爆誕】
【電波ビンビンなの助かる】
そこへ、人工衛星回線を経由して仲間たちが繋がってくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、その島は緯度経度不明の孤島です。SOSとして砂浜に巨大な文字を描いてください』
「SOSだな! 流木で大きく『SOS』って書くぞ!」
「できました〜! 砂浜に大きく『キャベツ』って書きました!」
「救援隊が『キャベツの島か……』って通り過ぎちゃうだろ!! SOSを書けSOSを!! 文字のチョイスが致命的すぎるんだよ!!」
鳳凰院カグラ『フハハハ! 孤独の島こそ魔王の城にふさわしい! 椰子の実を叩き割って我が生贄(水分補給)としよう!……あたたた!? 硬すぎて爪が折れた!!』
「魔王の威厳ゼロかよ!! 椰子の実に負けてんじゃねえ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIのサバイバル解析により、無人島で最も高確率で魚を捕まえる方法が判明しました!「海に向かって『ボケ』をかまし、呆れた魚が浮いてくるのを待つ」です!』
「魚にツッコミ属性を期待するな!! 魚類が呆れて浮いてくるわけねえだろ!!」
【魚類も呆れるボケwww】
【砂浜に『キャベツ』草ww】
【同接破竹の110万人突破!】
そして、天宮ミルクが無人島のジャングルから怪しげな巨大キノコと木の実を持ち出してきた。
「ヒューガさん! 無人島の自然の恵みで作った『ジャングルキャベツタルト』です! これを食べれば元気100倍ですよ〜!」
「そのキノコ、笠のところが紫と黄色でバチバチ毒々しい色してんだよ!! 食べたら一発で天国に直行するわ!! 毒キノコをタルトに混ぜるな!!」
そこへ、漂流者の匂いを嗅ぎつけた野生の巨大イノシシが猛スピードで突進してくる。
「ヒューガさん危ない! ミルクの特製タルトを食らいなさ〜い!」
天宮ミルクが投げつけた毒々しいタルトを、一口で呑み込んだイノシシ。
直後、イノシシは「ブヒィ!?」と目を丸くすると、泡を吹いて恐れおののき、そのままジャングルの奥へ逃げ去っていった。
「……あ、イノシシさんが逃げちゃいました」
「イノシシの生存本能が『これは食ったらヤバい』って察知して逃げたんだよ!! 野生の獣すら拒絶する料理ってなんだよ!!」
【野生のイノシシ撃退wwwwww】
【奇食>>>野生の生態系】
【無人島の頂点に立つキャベツタルト】
世界110万人の視聴者がお腹を抱えて大爆笑。
無人島のサバイバルすら最高のコント空間に変え、無事に(?)捜索船(赤坂マネージャー手配)に救助されて配信は幕を閉じたのだった。
――配信終了後。救援船のデッキの上。
甲板のベンチに腰掛け、冷たい缶ココアを飲んで一息つく駆。
「……はぁ……はぁ……。無人島で毒キノコとイノシシにツッコむのは、人生で一番体力を削られたぞ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣に座ったみずきが、海風に髪をなびかせながら、楽しそうにいちごミルクを飲む。
「でも、日向くんのツッコミのおかげで無事脱出できましたね!」
「俺のツッコミっていうか、お前の毒タルトでイノシシが撃退されたからだけどな……」
駆は缶ココアを一口飲み、海に沈む綺麗な夕日を見つめてふっと柔らかく目を細めた。
「……まあ、でも。無人島に放置されようが、どこに漂流しようが……お前となら餓死する前に爆爆笑で乗り切れそうだな」
みずきは一瞬驚いたように目を丸くし、それから太陽のような笑顔を弾けさせた。
「はいっ! どこに流されても、日向くんがツッコんでくれればそこが一番楽しい場所です!」
「へいへい。……で、明日は無事に大学に戻って何やるんだ?」
みずきは悪戯っぽく微笑むと、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『大学のテスト前夜! 徹夜で勉強しながらボケまくる集中配信』です!」
駆は夕暮れの太平洋に向かって、本日一番の叫び声を響かせた。
「勉強に集中しろ!!!! テストで赤点取ったら進級できなくなるだろ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
太平洋の風に溶けていく二人の笑い声。
無人島を越え、大海原を越えて。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに続いていく。




