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四十二話

ブラックホールを奇食の重圧力(?)で消滅させた翌日の20時。

前哨戦の大宇宙崩壊劇から一転、天宮ミルクのチャンネルでは「世界一地味」と予告された配信枠が立ち上がっていた。

タイトル:『【超静寂】部室でおいしいお茶を飲むだけ【※絶対に叫びません】』

ブラックホール消滅の余韻冷めやらぬチャンネル登録者数600万人超の画面前には、開始前から80万人のリスナーが集結。静寂を謳うタイトルとは真逆の熱気でチャット欄が埋め尽くされていた。

【本当にただお茶飲むだけ??】

【フラグにしか聞こえない『絶対に叫びません』】

【ヒューガの喉に優しい平和な回(仮)】

【※ただし天宮ミルクの淹れるお茶である】

――20時ジャスト。配信スタート。

画面に映し出されたのは、いつもの夕暮れ時の大学部室。テーブルの上には、渋い急須と湯呑みが二つ並んでいる。

「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……昨日はブラックホールに吸い込まれかけて寿命が5年縮みましたが、今日はタイトル通り、静かにお茶を飲んで心を整えたいと思います」

「こんミルク〜! 今日は『お茶の道』を極めた天宮ミルクです〜!」

「お前が茶道を語るとロクなことにならないんだよな……まあいい、今日こそは平和に頼むぞ」

【wwwwwwwwwwww】

【ヒューガの警戒心が最大レベル】

【お茶の道(物理)】

「任せてください! 今日は日向くんの日頃の苦労を労って、ミルクが心を込めて『スペシャル緑茶』を淹れました!」

天宮ミルクがどこか誇らしげに湯呑みを差し出す。

緑茶のはずだが、湯呑みからはドロリとした謎の緑色の蒸気と、かすかに香ばしいキャベツの異臭が立ち上っていた。

「……なぁ天宮さん。これ、緑茶の色じゃなくて毒沼の液体の色なんだけど。何を入れた?」

「え? 抹茶パウダーと、お湯代わりに『煮込みキャベツの濃縮エキス』を100%使用した特製キャベツ緑茶です!」

「湯の概念をキャベツのエキスで置き換えるな!! 茶葉の香りが全部キャベツの青臭さに殺されてんだよ!! 毒薬かこれは!!」

【wwwwwwwwwwww】

【開幕3分で静寂終了ww】

【キャベツ濃縮エキス100%ww】

【やっぱり叫んじゃったヒューガ】

そこへ、平和なお茶会を聞きつけた仲間たちがDiscordに現れる。

黒羽レン『……失礼します。ヒューガさん、その液体のpH値を計測したところ、胃壁を一瞬で溶かすレベルの強酸性(※設定)を示しています』

「飲む前に胃が穿孔するお茶を出すな!! 殺人未遂だろ!!」

鳳凰院カグラ『フハハハ! その緑の液体こそ、魔界に伝わる『死の秘薬』! 飲めばたちまち魂が浄化(昇天)されよう!』

「昇天させようとするな!! 命がけでお茶会しなきゃいけない理由がどこにあるんだよ!!」

星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの最適化計算により、そのキャベツ緑茶をマイルドにする画期的な方法が判明しました!「いちごミルクを丸ごと1パック投入すること」です!』

「緑茶とキャベツとイチゴミルクを混ぜたらただの地獄の汚泥なんだよ!! 余計に悪化させるな!!」

【地獄の汚泥茶草www】

【同接破竹の95万人突破!】

【「絶対に叫びません」とは一体……】

結局、静かなお茶会になるはずが、謎のキャベツ緑茶をめぐって部室は大狂乱。

同接100万人が見守る中、世界一賑やかな「静寂のお茶会」は幕を閉じたのだった。

――配信終了後。深夜の大学の部室。

激闘(?)のお茶会を終え、本物の市販の缶緑茶を飲んでホッと一息つく駆。

「……ハぁ……ハぁ……。お茶を飲むだけでなんでこんなに喉が渇くんだよ……」

「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」

隣に座ったみずきが、冷えた缶コーヒーを手渡し、いたずらっぽく笑う。

「でも、日向くんの全力の『毒薬かこれは!!』が聞けて、ミルクは大満足です!」

「満足するな!! 人に毒薬飲ませようとした自覚を持て!!」

駆は呆れて首を振りながらも、缶コーヒーのプルタブを開け、一口飲んでふっと柔らかく目を細めた。

「……まあ、でも。宇宙に行こうが、部室で変なお茶飲もうが……お前と過ごす時間は、退屈だけは絶対しないな」

みずきは一瞬驚いたように目を丸くし、それから飛び切りの笑顔を弾けさせた。

「はいっ! どこにいても、何をしてても、日向くんと一緒なら世界で一番楽しいです!」

「へいへい。……で、明日は何やる気だ?」

みずきはパッと目を輝かせると、ノートを開いて胸を張った。

「明日は『二人で無人島に漂流して、サバイバルツッコミ配信』です!」

駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の爆音ツッコミを叩き込んだ。

「勝手に漂流するな!!!! 救助隊を呼べ救助隊を!!!」

「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」

夜の静寂に溶けていく、二人の弾けるような笑い声と鋭い叫び。

宇宙を回り、原点に戻り、また新たなバカ騒ぎへ。

世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに続いていく。

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