四十話
ニューヨーク・タイムズスクエアでの歴史的なワールドツアーフィナーレから数週間。
帰国した駆とみずき(天宮ミルク)が選んだ復帰第一弾の企画は、みずきの予告通り、あの大狂乱の熱気が嘘のような超ゲリラ配信だった。
タイトル:『【同接4人(?)限定】原点回帰! 大学の部室からひっそり雑談配信【拡散禁止】』
チャンネル登録者数600万人の怪物チャンネルで、事前告知なしの深夜2時スタート。それにもかかわらず、枠が立った瞬間に秒速で数十万人のリスナーが殺到した。
【同接4人ごっこきたああああ!】
【通知で飛び起きたww】
【600万人のチャンネルで同時接続1文字目から「4」じゃない件】
【深夜2時の通知は心臓に悪い】
――配信開始。
画面に映し出されたのは、あのボロい大学の部室。机の上には、見覚えのある缶コーヒーと、いちごミルクが置かれている。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……深夜2時にひっそり配信を始めたはずなんですが、画面の数字がすでに『50万人』って書いてあります。計算が合わないんですが?」
「こんミルク〜! 今日の同接はミルクとヒューガさんと、画面の前の『壁のシミさん』と『すきま風さん』の4人だけの秘密配信です〜!」
「勝手にリスナーを壁のシミとすきま風にするな!! 50万人の人間がリアルタイムで見てんだよ!! 視力検査からやり直せ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【俺たち壁のシミだったww】
【開幕0秒の50万人ツッコミ】
【実質同接4人(錯覚)】
配信中盤、いつもの仲間たち(黒羽レン、鳳凰院カグラ、星空ルチア、クリス、シトラ)が、Discordの音を殺して静かに忍び込んでくる。
黒羽レン『……静かに失礼します。僕の計算によれば、この配信を「同接4人」と偽装するためのステルスプログラムは、開始5秒で破綻しました』
「プログラム使うまでもなく最初からバレてんだよ!! 隠れようとするな!!」
鳳凰院カグラ『くっくっく……我は闇に紛れし存在……。この部室の影となりて宴を見守ろう……』
「画面の端っこでコソコソ発言するな魔王!! 存在感が逆に目立ってんだよ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの最新データにより「本当の同接4人」を再現する唯一の方法が判明しました! リスナー全員をブロックすることです!』
「600万人を全員ブロックするな!! チャンネル崩壊するだろ!! 恐ろしいこと提案すな!!」
【全員ブロック草wwwwww】
【ポンコツAIの暴走】
【同接破竹の70万人突破!】
結局、いつもの仲間たちが大集合し、どこからどう見ても世界一賑やかな大宴会に発展。
そして配信のラスト、天宮ミルクが画面越しにふっと柔らかく微笑んだ。
「ヒューガさん。……ワールドツアーで世界中に行って、すっごく楽しかったけど。やっぱりミルク、この部室でヒューガさんと話してる時が一番好きです」
「……天宮さん」
「同接が4人でも、600万人でも、月に行っても、未来に行っても。……これからもずっと、ミルクの隣でツッコんでくれますか?」
駆は呆れたように息を吐き出し、それから缶コーヒーを喉に流し込んで、世界で一番温かい笑みを浮かべた。
「……愚問だな。お前がどんなに無茶苦茶なボケをかまそうと、俺が全部拾ってツッコんでやるよ。……それがどこであろうと、何人見てようとな」
チャット欄が「泣いた」「一生推す」「最高の二人」の弾幕とスパチャで埋め尽くされる。
「えへへ! ありがとうございます!……じゃあ明日は『二人で全宇宙のブラックホールにツッコむ配信』です!」
駆は深夜の部室に向かって、本日一番の爆音ツッコミを叩き込んだ。
「感動的な空気を一瞬でぶち壊すな!!!! 光すら脱出できない場所でツッコめるか!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
――配信終了後。静まり返った深夜の大学の部室。
私服姿の駆とみずきは、窓辺に並んで座り、夜空に輝く満月を見上げていた。
「日向くん」
「ん?」
「これからも、いっぱいボケていいですか?」
「……手加減しろって言っても、どうせ聞かないんだろ」
駆はふっと微笑み、隣に立つ最高の相方に向かって、力強く言い放った。
「かかってこいよ。お前がどれだけ世界を振り回そうと、俺が全部受け止めてやる」
みずきは飛び切りの笑顔を弾けさせ、満月に向かって高らかに叫んだ。
「はいっ! 二人の『終わらない事故配信』は、明日も明後日も、どこまでも続いていきます!」
夜のキャンパスに溶けていく、二人の弾けるような笑い声と鋭い叫び。
画面を越え、時代を越え、世界の果てまで駆け抜けて。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、この場所から、永遠に未来へ続いていく。




