三十八話
ロンドンでの歴史的大成功から数日。ワールドツアー第二弾の舞台は、芸術と花の都・フランスのパリ。
「エッフェル塔をタルトのピックにするな」という駆の至極当たり前な叫びも虚しく、現地特設アリーナからの世界同時生配信枠が立ち上がっていた。
タイトル:『【ワールドツアー2nd】花の都パリ公演! 芸術の街で最高峰のボケを解き放ってみた!』
待機所には全世界から開始前から100万人を超えるリスナーが殺到。チャット欄はフランス語と日本語が入り乱れるお祭り騒ぎとなっていた。
【パリ公演きたあああ!】
【ルーヴル美術館が震えて眠る夜】
【フランスの芸術家たちに試されるヒューガのツッコミ】
【同接開始前で100万人は草】
――公演スタート。
ヴェルサイユ宮殿を思わせる超豪華なサイバー3Dステージに、絢爛豪華な衣装を纏ったヒューガと天宮ミルクが登場する。
『BONJOUR, PARIS!!』
アリーナを揺らすような現地観客の大歓声。
「みなさんボンジュール! 個人勢VTuberのヒューガです! パリの皆さん、盛り上がってますかー!」
「ボンジュ〜ル! モナ・リザの顔をキャベツに差し替えようとしている天宮ミルクです〜!」
「世界最高峰の絵画に謎のコラージュを施すな!! ルーヴル美術館から永久出禁&国際指名手配されるわ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒でルーヴル爆破級のボケ】
【現地フランス人が「MONA LISA!! CABBAGE!!」って叫んでて草】
【フランスの芸術概念を破壊する男】
ライブ中盤、現地ゲストとしてパリの特設回線から星空ルチアと鳳凰院カグラ、そして黒羽レンがスクリーンに参戦。
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの最新アート解析により、パリで最も評価される前衛的芸術が判明しました!「巨大キャベツタルトを凱旋門にくぐらせるパフォーマンス」です!』
「歴史的建造物に奇食を通過させるな!! どこが前衛芸術なんだよ!! ただの巨大食材の不法搬入だろ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……我が暗黒の美学によれば、セーヌ川の水面をすべていちごミルクに染め上げることこそ至高のアート!』
「環境破壊もいい加減にしろ!! セーヌ川の魚たちが甘味料で全滅するわ!!」
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、フランスの芸術家たちの8割が天宮さんのボケを「理解不能の超前衛的シュルレアリスム」として高く評価し始めています』
「フランス人の感性をバグらせるな!! あれは芸術じゃなくてただのド天然なんだよ!!」
【シュルレアリスム天宮ミルク草ww】
【フランス人が感銘を受けてて草】
【同接破竹の150万人突破!】
さらに、天宮ミルクがステージ中央でキャンバスと絵の具を取り出し、「これがミルクの描いたフランスの象徴です!」と絵をお披露目。
描かれていたのは、エッフェル塔のてっぺんに巨大なキャベツタルトが突き刺さっている、狂気の油絵だった。
「どうですかヒューガさん! タイトルは『凱旋とタルトの肖像』です!」
「エッフェル塔の先端をタルト刺しにするな!! どこが凱旋なんだよ!! 塔の尖塔がタルトの重量で折れるわ!!」
会場の現地パリジャン&パリジェンヌたちが腹を抱えて大爆笑。「C'est magnifique!(素晴らしい!)」と爆音の「HYUGA!」コールが会場を包み込んだ。
爆音ツッコミとカオスなボケは、芸術の都パリの観客をも完全に魅了し、公演は歴史的な大狂乱のうちに幕を閉じた。
――公演終了後。パリのホテル(リモート接続)。
セーヌ川の夜景が見えるバルコニーで、激闘を終えて疲れ果てている駆。
「……はぁ……はぁ……。パリの芸術家たちにツッコむの、脳の普段使わない領域が疲労したわ……」
「ふふっ、日向くんお疲れ様です!」
画面越しに、みずきが温かいいちごミルクを両手で持ちながら、嬉しそうに微笑む。
「でも、パリの人たちも『ヒューガのツッコミは声の彫刻芸術だ』って大絶賛してましたよ!」
「彫刻ってなんだよ……。言葉の破壊力でゴリ押しただけだろ……」
駆は缶コーヒーを開けて一口飲んでから、セーヌ川の美しい夜景に向かってふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「……まあ、でも。フランスだろうが日本だろうが、俺たちのやることは変わらんよ」
みずきは一瞬目を丸くし、それから飛び切りの笑顔で頷いた。
「はいっ! どこに行っても、日向くんのツッコミがあればそこが世界最高のステージです!」
「へいへい。……で、次はどこの国だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、世界地図を広げて高らかに宣言した。
「次はワールドツアー最終公演、ニューヨーク・タイムズスクエアで『100万人のキャベツタルト投げ大会』です!」
駆はパリの夜空に向かって、本日一番の快晴のような叫び声を叩き込んだ。
「タイムズスクエアをキャベツまみれにするな!!!! マンハッタンが大混乱に陥るだろ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
パリの夜風に溶けていく二人の笑い声。
ロンドン、パリ、そして世界へ。
二人の「終わらないワールドツアー」は、最高速度で未来へと駆け抜けていく。




