三十四話
西暦3000年のロボット帝国をキャベツタルトで崩壊させてから数日。
「二人で静かに部室で雑談配信」という、前回の予告通り(奇跡的にも)平和な配信枠が立ち上がっていた。
タイトル:『【たまには普通に】みるくちゅーにゅうの放課後おしゃべり雑談【重大発表なし!】』
チャンネル登録者数500万人を超える怪物ユニットの「重大発表なし」「暴走なし」と打たれた配信にもかかわらず、待機所には開始前から50万人を超えるリスナーが詰めかけていた。
【本当に普通の雑談配信で草】
【宇宙やらタイムトラベルやら行きすぎて普通の雑談が一番の異常事態】
【ヒューガの喉を休める平和な回助かる】
【何も起きないわけがないんだよなぁ】
20時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、あの懐かしい大学の部室を再現した3D背景。テーブルの上には缶コーヒーといちごミルクが置かれている。
「みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……今日は宇宙にも行きませんし、過去や未来にも行きません。ただただお茶を飲みながら雑談するだけです」
「こんミルク〜! 今日は絶対に暴走しないと固く誓った天宮ミルクです〜!」
「その誓いが一番信用できないんだよ!!……まあでも、たまにはこういう穏やかな時間もいいよな」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕穏やかすぎて逆に不安になるww】
【嵐の前の静けさ感】
配信前半は、リスナーからのマシュマロ(質問)を読む平和なトークが展開された。
『Q:二人が配信を始めて一番思い出に残っていることは?』
ミルク「やっぱり、一番最初の同接4人の配信ですね! あの時、ヒューガさんが『天宮さん、マイクの電源入ってないぞ』ってツッコんでくれたのが全ての始まりでしたから!」
ヒューガ「お前が部室の壊れたマイクでエア配信してたやつな。あの瞬間に俺の平和な大学生活が終わったんだよなぁ……」
【原点回帰の思い出話てぇてぇ】
【同接4人から500万人への軌跡】
【歴史の始まりだったな】
そんなしんみりとした良い雰囲気が流れていた、その時——。
『ピコン!』
Discordの接続音が突如として響き渡った。
黒羽レン『……失礼します。ヒューガさん、天宮さん。大変なことが起きました』
駆のツッコミセンサーがビンビンに反応する。
「レンさん!? なんですか急に!? 今日は平和な雑談枠ですよ!?」
鳳凰院カグラ『フハハハ! 逃げられぬぞヒューガ! 我らの【ドッキリ仕掛け人作戦】の火蓋は落とされた!』
星空ルチア『AIの計算に基づき、本日この配信は「全ライバルV総出のリアルタイム・サプライズドッキリ配信」に改変されました!』
「勝手に人の雑談枠をドッキリ企画に改変するな!! どこから湧いて出たんだお前ら!!」
さらに画面上には、海外勢のクリスとシトラ、そして国内外の有名Vたちが次々と3Dモデルで乱入してきた。
クリス『HYUGA-SAN! 我、サプライズデ「巨大な特製キャベツくす玉」ヲ持ッテキタぞ!』
「くす玉までキャベツで作るな!! 割れた瞬間キャベツの千切りが部屋中に散乱するだろ!!」
シトラ『ヒューガさ〜ん、お祝いにインドネシアから100羽のハトをスタジオに放ちました〜♪』
「スタジオにハト100羽放つな!! 糞害で機材が全滅するわ!! どこから集めてきたんだそのハト!!」
【ドッキリ大成功wwwwww】
【全V総出の暴走きたあああ!】
【平和な雑談が15分で崩壊ww】
【同接破竹の80万人突破!】
結局、「静かな雑談」はわずか15分で霧散。
画面上は大量のハトとキャベツの千切り、そして暴走するVたちで埋め尽くされ、駆のマシンガンツッコミが夜の部室に響き渡った。
「お前ら全員、人の雑談枠を荒らすんじゃねええええええ!!!!」
チャット欄は大爆笑と「ドッキリ大成功!」のスパチャで埋め尽くされ、同接数は85万人を突破したのだった。
――配信終了後。深夜の大学の部室。
ハト(※バーチャル)を追い払い、疲れ果ててパイプ椅子に倒れ込む駆。
「……ハぁ……ハぁ……。『絶対に暴走しない』って言ったの誰だよ天宮……」
「えへへ……実は、ミルクがみんなに『日向くんをビックリさせよう!』って提案したんです!」
隣に座ったみずきが、悪戯っぽく舌を出して笑った。
「お前が首謀者かよ!! どこが『静かな雑談』なんだよ!!」
「だって! 日向くんがツッコんで叫んでる顔が、世界で一番面白くてかっこいいんですもん!」
みずきは嬉しそうに微笑むと、缶のいちごミルクを駆の手に握らせた。
「みんな、日向くんのことが大好きだから集まってくるんですよ」
駆は一瞬呆気にとられ、それから缶コーヒーのプルタブを開けて一口飲んだ。
「……たく。好かれてんだか遊ばれてんだか分からんわ」
夜風が窓から吹き込み、二人の前髪を揺らす。
「でも、日向くん」
「ん?」
「やっぱり、この部室で二人で話すのが、一番大好きです」
みずきが照れくさそうに笑うと、駆も柔らかい笑みを浮かべた。
「……ああ。俺もだよ」
宇宙に行っても、過去や未来に行っても、全Vが乱入してきても。
一つの小さな部室から始まった二人の物語は、どこまでも愛しく、最高に賑やかに続いていくのだった。




