三十三話
恐竜時代からの生還から数日。
「ターミネーターの世界線に突入するだろ」という駆の忠告は当然のごとく無視され、またしても天宮ミルクのチャンネルで恐ろしい枠が立ち上がっていた。
タイトル:『【未来タイムトラベル】西暦3000年のロボット帝国へ! 暴走AIに人生初のボケを教えてあげた!』
登録者数500万人を突破した「みるくちューにゅう」の配信待機所には、開始前から75万人を超えるリスナーが殺到し、チャット欄は未来都市の崩壊を予感して大大盛り上がりとなっていた。
【本当にロボット帝国行ってて草】
【今度は未来を滅ぼしに行くのか】
【AI「ボケノ 概念ガ 理解デキマセン」】
【ヒューガの叫び声で回路ショート不可避】
20時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、銀色に輝く超ハイテク未来都市と、空中を飛び交う防衛ドローン。そして二人の目の前には、人間を滅ぼそうと立ちはだかる「漆黒の巨大人型暴走AI・メカゼウス」の姿があった。
『警告。人間ノ侵入ヲ検知。即座ニ 排除プロセスヲ 実行スル』
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……西暦3000年にやって来ました。目の前の超高度AIが本気で僕たちを駆逐しようとしています。命がいくらあっても足りません」
「こんミルク〜! メカゼウスさんのコンセントを抜いてスマホの充電に使いたい天宮ミルクです〜!」
「人類の脅威の主電源をモバイルバッテリー扱いするな!! 一瞬で数万ボルトの電流流されて灰になるわ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の電源遮断ツッコミ】
【西暦3000年でもブレない日常】
【メカゼウスの処理能力が追いついてないww】
そこへ、タイムマシン通信で仲間たちが割り込んでくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、あの超高度AIの思考速度は毎秒100兆回です。論理的な会話は不可能です』
「論理が通じないなら余計に詰んでるだろ!! どうやって対処すればいいんだよ!!」
鳳凰院カグラ『フハハハ! 機械の王よ、我が暗黒のウイルスプログラム(※ただのスパムメール)を食らうがいい!』
「変な迷惑メールを未来の防衛システムに送信するな!! 逆にこっちのIPアドレス特定されてミサイル飛んでくるわ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの最適化計算により、あのメカゼウスを無力化する唯一の方法が判明しました!「キャベツタルトのプログラミングコード」を入力することです!』
「謎の奇食コードを注入するな!! 未来の全システムがバグって文明が崩壊するだろ!!」
【未来の文明崩壊草ww】
【キャベツタルトのバグはヤバいww】
【同接破竹の98万人突破!】
そして、天宮ミルクがメカゼウスの巨大な足元へ歩み寄ると、ホログラムの「キャベツタルト」を差し出した。
「メカゼウスさん! 争いはやめて、このミルク特製のキャベツタルトを食べ……じゃなくて、データとして読み込んでみてください!」
メカゼウスの目が怪しく赤く光る。
『解析開始……キャベツ……タルト……? 栄養価:矛盾。調理法:破綻。味覚データ:カオス……エラー。エラー。理解不能データノ 流入ヲ 検知……!』
「あ、メカゼウスさんの頭から煙が出てます!」
「脳内CPUがオーバーヒート起こしてんだよ!! 100兆回の思考速度を誇る超高度AIに「キャベツタルト」という存在しない概念叩き込んでフリーズさせるな!!」
『エ……エラー……「ボケ」トハ……何ダ……? 思考回路ガ……パンク……スル……(バチバチバチ!)』
ドガーン!!
メカゼウスは爆発音とともにその場に崩れ落ち、未来都市の防衛システムはあっけなく停止した。
【wwwwwwwwwwww】
【キャベツタルトで世界救っちゃったwww】
【超高度AIを論理崩壊させる奇食】
【人類勝利の瞬間がバカすぎる】
同接数は驚異の100万人を再突破。未来のロボット帝国は、一心のボケと奇食によって平和(?)を取り戻したのだった。
――配信終了後。深夜の大学の部室。
未来からのタイムトラベルを終え、疲れ果てて机に突っ伏す駆。
「……はぁ……はぁ……。未来の超高度AIまでフリーズさせるとは思わなかったぞ……」
「ふふっ、お疲れ様です日向くん!」
隣に座ったみずきが、冷たい缶のいちごミルクを手渡し、嬉しそうに微笑む。
「でも、メカゼウスさんも日向くんのツッコミとミルクのボケで、すっごく嬉しそうでしたね!」
「どこが嬉しそうなんだよ!! 頭から煙吹いてシステムダウンしてただろ!!」
駆は缶コーヒーを開け、一口飲んでから夜空の星々を見上げた。
「……まあ、でも。相手が古代の恐竜だろうと未来のAIだろうと、やることは変わらんな」
「えへへ、そうですね!……ねぇ日向くん」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、駆の顔を覗き込んだ。
「過去も未来も行ったから……次はどこへ行きましょうか?」
駆は呆れたように肩をすくめ、世界で一番力強い笑みを浮かべた。
「どこへでもついていってやるよ。お前がどんな無茶苦茶なボケをかましても、俺が全部拾ってツッコんでやる。……それが何時代だろうと、どこだろうとな」
「はいっ! じゃあ明日は『二人で静かに部室で雑談配信』です!」
駆は一瞬驚いたように目を丸くし、それから心底おかしそうに笑った。
「なんだそれ……。一番普通で、一番最高の企画じゃないか」
「きゃはは! 日向くん、ツッコまないの〜!?」
「たまにはツッコまない日があってもいいんだよ!」
月明かりの下、静かに弾ける二人の笑い声。
過去を超え、未来を超え、世界の果てまで駆け抜けて。
二人の「奇跡の日常」は、明日も変わらず、最高に賑やかに続いていく。




