三十二話
地底配信から数日。
「恐竜にツッコんでも喰われるだけだ」という駆の至極まっとうな制止も虚しく、天宮ミルクの枠は当然のように立ち上がっていた。
タイトル:『【タイムトラベル】白亜紀へ突撃!? 巨大恐竜の前で初見殺しのボケかましてみた!』
チャンネル登録者数500万人超えの怪物ユニットとなった「みるくちューにゅう」の配信待機所には、配信開始前から70万人を超えるリスナーが待機していた。
【本当にジュラシック(白亜紀)配信始まってて草】
【歴史改変不可避】
【ヒューガVSティラノサウルス】
【現代に戻ってこいww】
20時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、最新VR&タイムトラベル演出による、大自然が広がる白亜紀のジャングル。そして、目の前には体長10メートルを超えるリアルなティラノサウルスが咆哮を上げていた。
『ガアアアアアアオン!!!!』
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……今、目の前に本物のティラノサウルスがいます。絶滅したはずの巨大肉食恐竜です。命の危険を感じています」
「こんミルク〜! 恐竜さんに乗って出勤したい天宮ミルクです〜!」
「満員電車感覚でティラノサウルスに乗ろうとするな!! 一瞬で噛み砕かれて出社どころか人生が退職になるわ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の生存本能ツッコミ】
【恐竜の咆哮よりうるさいヒューガの叫び声】
【3Dモデルのタフネスが試されている】
そこへ、タイムマシン(※VR設定)の回線をジャックして仲間たちが乱入してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、あのティラノサウルスの咀嚼力は3トンです。ツッコミの音波で威嚇して追い払ってください』
「物理攻撃を声量で相殺させようとするなレンさん!! 俺のマイク性能に命を預けるな!!」
鳳凰院カグラ『フハハハ! 太古の巨獣よ、我が暗黒の僕となるがいい!……あ、待って、こっち睨んでる、怖い怖い!!』
「魔王の威厳が3秒で消えてんじゃねえか!! 煽るだけ煽って逃げるなカグラ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの最適化計算により、恐竜を懐かせる秘技が判明しました!「巨大キャベツタルトの投擲」です!』
「恐竜に奇食を投げつけるな!! お腹壊して暴れ出したらどうすんだよ!!」
【白亜紀でもキャベツタルトww】
【恐竜相手にカオスすぎるww】
【同接破竹の90万人突破!】
そして天宮ミルクが、何を血迷ったのかティラノサウルスの足元に駆け寄り、巨大な「キャベツタルト」を差し出した。
「恐竜さ〜ん! ミルク特製のキャベツタルトですよ〜! 美味しいですよ〜!」
ティラノサウルスはフシュー……と鼻息を吹きかけると、プイッと顔を背けてジャングルの奥へと走り去っていった。
「……あ、フラれちゃいました」
「恐竜にも拒絶されてんだよ!! 肉食動物にキャベツ食わせようとするな!! 恐竜の方が舌がまともだったわ!!」
【恐竜に拒否されるキャベツタルトwww】
【ティラノサウルスの判断が正しいww】
【歴史改変ならず(安心)】
結局、恐竜にすらキャベツタルトを拒否されるという腹筋崩壊のオチがつき、同接数は驚異の95万人を記録。白亜紀の大自然に駆の爆音ツッコミが木霊したのだった。
――配信終了後。深夜の大学の部室。
タイムトラベル配信を終え、パイプ椅子に崩れ落ちる駆。
「……はぁ……はぁ……。恐竜相手にツッコむのは、さすがに命がいくつあっても足りんぞ……」
「ふふっ、お疲れ様です日向くん!」
隣に座ったみずきが、冷たい缶のいちごミルクを手渡しながら、楽しそうに笑う。
「でも、恐竜さんも日向くんのツッコミにびっくりして逃げていっちゃいましたね!」
「俺のツッコミのせいにするな!! お前のキャベツタルトに引いて逃げたんだよ!!」
駆は缶コーヒーのプルタブを開け、一口飲んでからふっと微笑んだ。
「……まあでも、時代を超えてもやることは変わらんな」
「えへへ、そうですね!……ねぇ日向くん、白亜紀の次は……どこへタイムトラベルしましょうか?」
みずきは目を輝かせて、悪戯っぽく微笑んだ。
駆は呆れたように肩をすくめ、力強く言い放った。
「未来でも過去でもどこへでも行ってやるよ。お前がボケて、俺がツッコむ。それが何世紀前だろうと、俺たちの日常だからな」
「はいっ! じゃあ明日は『未来のロボット帝国でAIにツッコむ配信』です!」
「AIを暴走させるな!!!! ターミネーターの世界線に突入するだろ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の笑い声と鋭い叫び。
白亜紀を越え、未来を越えて。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、時空の果てまでどこまでも続いていく。




