三十一話
月面ライブから数日後。
「地球の核まで掘り進めるな」とツッコんだ翌日、本当に「地底特設スタジオ(VR)」の枠が立ち上がっていた。
タイトル:『【地底進出】マントル到達!? 地底人と囲む熱々マグマ鍋パーティー!』
チャンネル登録者数500万人を突破した「みるくちューにゅう」の配信待機所には、開始前から60万人を超えるリスナーが待機し、チャット欄はすでにカオスと化していた。
【本当に地底配信やってて草】
【ヒューガのツッコミはマントル層まで届くのか】
【マグマ鍋パって何???】
【地球壊れるwww】
20時ジャスト。配信がスタートした。
画面に映し出されたのは、真っ赤なマグマが煮え滾る禍々しい地底空間。そして、その中央で涼しい顔をして座っているヒューガ(3D)と天宮ミルクの姿だった。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……今、僕の足元では摂氏数千度のマグマが流れています。正気の沙汰じゃありません」
「こんミルク〜! 地底の熱気で前髪の湿気がすごい天宮ミルクです〜!」
「湿気どころの騒ぎじゃねえよ!! 前髪が炭化して消し飛ぶ温度なんだよここは!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の環境破壊ツッコミ】
【3Dモデルの耐熱性能が高すぎる】
【地底でもブレない安定感】
「さあ! 今日は地底進出記念ということで、地底人のゲストさんと一緒に『マグマ鍋パ』をやりますよ〜!」
通話接続音とともに、ゲストの黒羽レン、鳳凰院カグラ、星空ルチアが乱入してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、このスタジオの室温は現在2,000度です。僕の知性すら蒸発しそうです』
「蒸発する前に地上に避難してくださいレンさん!! なんで付き合って降りてきてんだよ!!」
鳳凰院カグラ『フハハハ! 灼熱の地獄、これぞ我が真の故郷! このマグマの熱を利用して、真の暗黒鍋を完成させてくれよう!』
「故郷にするな魔界に帰れ!! あとマグマに直接食材を投入しようとするな!! 骨すら残らんぞ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの最適化計算により、地底人に最もウケる一発ギャグが判明しました!「マントル、揉んどる?」です!』
「地底人をダジャレで失笑させるな!! くだらなさすぎて地殻変動が起きるわ!!」
【ダジャレで地殻変動草ww】
【カオスすぎるwww】
【地底でもヒューガの喉が休まらない】
そして、天宮ミルクが巨大な鍋を持ち出してきた。
「さぁヒューガさん! 地底のマグマの熱で煮込みあげた、ミルク特製『マグマキャベツタルト鍋』の完成です〜!」
「だからなんでもかんでもキャベツタルトに接続するな!! マグマで煮込んだらタルトじゃなくてただの黒焦げの物体Xなんだよ!!」
「違いますよ〜! マグマの遠赤外線効果で、キャベツがとっても甘く香ばしくなってるんです!」
「香ばしいのレベルを超えて分子レベルで分解されてんだよ!! 誰が食うんだこれを!!」
結局、地底スタジオの温度(※設定)以上に熱気と爆笑が巻き起こり、同接数は破竹の85万人を突破。
地底でも、宇宙でも、地上でも。
ヒューガのキレキレのツッコミと天宮ミルクの天衣無縫なボケは、地球の核すら揺らすほどの爆笑を生み出していった。
――配信終了後。深夜の大学の部室。
地底配信を終え、疲れ果ててパイプ椅子に倒れ込む駆。
「……ハぁ……ハぁ……。地底でツッコむの、宇宙でツッコむより疲れたぞ……」
「ふふっ、お疲れ様です日向くん!」
隣に座ったみずきが、冷えた缶のいちごミルクを駆の頬にぽんと当てた。
「ひゃっとした! 冷たいな天野……」
「えへへ、地底で熱くなった日向くんを冷やしてあげようと思って!」
みずきは嬉しそうに笑うと、夜空に浮かぶ月を見上げた。
「宇宙に行って、地底にも行って……。次はいったいどこに行けるのかなぁ」
駆は受け取ったジュースを一口飲み、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「……どこだっていいさ。お前がボケて、俺がツッコむ。場所がどこだろうと、やることは変わらないんだからな」
「……っ! はい! じゃあ明日は『タイムマシンで過去に行って、恐竜にツッコむ配信』をやりますね!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の叫び声を響かせた。
「歴史改変を起こすな!!!! 恐竜にツッコんでも喰われるだけだろ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の笑い声。
事故配信から始まった最高の日常は、時空も世界も飛び越えて、どこまでも賑やかに続いていくのだった。




