二十八話
地上波特番での衝撃的な大成功から数ヶ月。季節は肌寒い冬へと向かい、街には少しずつ年末の雰囲気が漂い始めていた。
チャンネル登録者数も380万人を超え、もはや名実ともにバーチャル界の絶対的司令塔となった駆。
そんな折、Discordのグループ通話で、天宮ミルク(天野みずき)が突如として声を張り上げた。
「みなさ〜ん! 11月ですけど、今日から『世界一早い100時間連続・全V合同大忘年会』をスタートしま〜す!」
「11月に忘年会やる奴があるか!! 早すぎるんだよ!! あと100時間連続ってなんだ、全員の命を削る気か!!」
「だって! 12月になるとみんな忙しくてスケジュールが合わないかもしれないじゃないですか〜!」
「だからって11月初旬から年を忘れようとするな!! まだ2ヶ月残ってんだよ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【11月の忘年会草】
【相変わらずの暴論で安心した】
【ヒューガの叫び声からしか得られない栄養がある】
案の定、この突発配信の匂いを嗅ぎつけたライバルや仲間たちが、続々とDiscordサーバーにログインしてくる。
黒羽レン『僕も呼ばれて来ましたが、11月に忘年会とは相変わらず思考回路が破綻していますね』
「レンさん正論助かる!! 頼むからこいつを論理的に諭してくれ!!」
鳳凰院カグラ『くっくっく……我にとっては、この現世の1秒も100時間も等しく泡沫の如きもの! 宴の幕開けだ!』
「お前はただ単に暇なだけだろ!! 厨二病で誤魔化すな!!」
星空ルチア『AIの計算により、今から年を忘れると、残り2ヶ月間の記憶喪失リスクが99.8%に跳ね上がります!』
「ポンコツAIが正論言っちゃってるよ!! 記憶喪失になる忘年会ってなんだよ!!」
さらに海外勢のクリスとシトラも参戦。
クリス『HYUGA-SAN! 我、忘年会のタメニ「巨大な門松」ト「鏡餅」ヲ海外カラ輸入シタぞ!』
「忘年会に正月飾りを準備するな!! 季節感も行事もめちゃくちゃなんだよ!!」
シトラ『インドネシアの秘伝のスープで、みんなの今年の苦労を全部消し去りますね〜♪ “バババ・ラマダン・ナシゴレン〜♪”』
「ナシゴレンはスープじゃねえよ炒飯だよ!! あとまだ年は明けてない!!」
各々が持ち込んだカオスな企画(11月のお年玉交換会、真冬の怪談大会、キャベツタルト鍋パ)に駆のマシンガンツッコミが冴え渡り、同接数は破竹の50万人を軽々と突破。
【11月なのにカオスすぎるww】
【今年一番笑ったww】
【ヒューガの胃痛忘年会】
【やっぱりこのメンツが最高だな】
怒濤の5時間に及ぶ「自称100時間(※途中で駆が強制終了させた)」の暴走忘年会は、大爆笑のうちに幕を閉じた。
――配信終了後。深夜2時。
他のメンバーが通話を抜け、静まり返ったDiscordの部屋。
駆が「ハぁ……ハぁ……」と擦れ切れた声で息を吐いていると、マイク越しにみずき(天宮ミルク)の声が優しく響いた。
「……日向くん、今日もいっぱいツっこんでくれて、ありがとうございました」
「……お前なぁ。11月に忘年会とか、本当に頭痛くなったぞ」
「ふふっ、ごめんなさい。……でもね、日向くん」
みずきは画面の向こうで、少し照れくさそうに笑った。
「今年1年、本当に色んなことがありましたよね。地上波にも出られたし、映画にもなったし、世界中に行けたし……。だから、少しでも早く『今年もありがとう』って言いたかったんです」
駆は一瞬驚いたように目を丸くし、すぐに呆れたような、けれど温かい溜め息をついた。
「……たく。相変わらず演出の仕方が強引なんだよお前は」
駆は冷えた缶コーヒーの缶を握り締め、画面の向こうの相方に向かって柔らかく語りかけた。
「……まあ、でも。今年も、最高の1年だったよ。お前とボケて、ツッコんで……退屈する暇なんて1秒もなかった」
「……っ! はい! 来年はもっともっと、日向くんを退屈させないくらいボケまくりますからね!」
「手加減しろ!! 俺の喉と寿命のことも少しは考慮しろ!!」
画面の向こうから聞こえる、みずきの弾けるような「きゃはは!」という笑い声。
11月の早い忘年会が終わっても、二人の絆と爆笑の毎日は、新しい年へと向かってどこまでも突き進んでいく。




