二十六話
劇場版の大ヒットから数ヶ月。
日向駆のチャンネル登録者数は破竹の勢いで300万人に到達。相方の天宮ミルクをはじめ、周囲のライバルや後輩Vたちも目覚ましい成長を遂げ、VTuber業界全体がかつてない黄金期を迎えていた。
そんな中、コンビ『みるくちューにゅう』の結成記念日として持ち上がった超大型企画。
『【1000万いいね行くまで終われません】みるくちューにゅうと仲間たちの24時間ノンストップ大感謝祭!』
自室で配信用PCの設定をしながら、駆はため息をついた。
「24時間ノンストップなだけでもイカれてるのに、1000万いいね(高評価)耐久って正気か赤坂さん……?」
『フフフ、ヒューガ様。現在のチャンネル規模と世界中のファンの熱量なら必ず到達できます。途中で倒れないよう、栄養ドリンクを1箱お送りしておきました』
「胃に穴があくわ!!」
こうして、VTuber史上に残る伝説の24時間配信の火蓋が落とされた。
――配信開始。
「みなさんこんばんは! 個人勢VTuberのヒューガです! 本日は24時間、仲間たちと一緒にノンストップでお届けしていきます!」
「こんミルク〜! 24時間不眠不休でボケ続ける覚悟の天宮ミルクです〜!」
「不眠不休でボケるな!! 睡眠をとれ睡眠を!! 視聴者も途中で寝ろよ!!」
【開幕からアクセル全開ww】
【1000万いいね目指して高評価押したぞ!】
【24時間ヒューガの喉が持つかの耐久配信】
【同接開始5分で40万人突破ww】
24時間のタイムスケジュールは怒濤のカオスだった。
【深夜2時:ホラーゲーム耐久コーナー】
ゲストの星空ルチアと鳳凰院カグラが参加。
画面にオバケが出た瞬間、ビビったカグラが「暗黒のバリア!」と叫んで自室のキーボードを殴打し、PCの電源を落として途中離脱。
「自爆して回線切るな魔王!! パソコンの電源ボタンをバリアにするな!!」
【早朝6時:早朝お雑煮&奇食レビュー】
天宮ミルクが「早朝だから体に優しい食べ物を作りました!」と出してきたのは、いちごミルクで煮込んだお餅にたくあんを添えた謎の物体。
「朝六時から視覚と味覚を破壊しにくるな!! 胃袋が緊急事態宣言出すわ!!」
【昼12時:海外勢(クリス&シトラ)との国際クイズ大会】
『日本の「おもてなし」を英語で何と言う?』という問いに、クリスが自信満々に『HYUGA-TSUKKOMI!』と回答。
「俺の名前を文化にするな!! 辞書に載ってねえんだよ!!」
怒濤の展開に、高評価のカウントは破竹の勢いで上昇。
夜19時——配信開始から23時間が経過した頃、いいね数はついに990万を突破していた。
同接数はYouTubeの最大記録を更新する70万人に到達。世界中のファンが、歴史的瞬間の達成を見守っていた。
だが、ラスト30分。過酷な24時間耐久の疲労から、駆の声は擦れ、息も途絶え途絶えになっていた。
「はぁ……はぁ……あと……10万いいね……! みんな……高評価を……!」
極限状態の駆。その時、隣(通話口)で天宮ミルクが静かにマイクに近づいた。
「ヒューガさん。……最後は、ミルクからリスナーのみんなにお願いがあります」
ミルクの声から、いつものふざけたトーンが消えていた。
「みんな。半年前に同接4人だったヒューガさんは、どんな時もみんなのコメントを全部拾って、笑わせてくれました。24時間、ずっと喉を枯らして私たちのボケを拾い続けてくれました。……ヒューガさんは、世界で一番かっこいいツッコミです!」
ミルクの言葉に、チャット欄が涙と感動の絵文字で埋め尽くされる。
「みんなの『いいね』で、ヒューガさんを世界一の場所へ連れて行ってあげてください!! お願いします!!」
直後——画面上の「いいねカウンター」が、見たこともない猛烈な速度で跳ね上がった。
【1000万到達!!!!!!!】
【うおおおおおおお!!!!!】
【達成おめでとうーーーーー!!】
【最高の24時間だった!!】
【ヒューガ最高! みるくちゅーにゅう最高!】
「……っ! い、行った……! 1000万いいね……達成だあああああ!!」
駆が画面に向かって叫ぶと同時に、チャット欄には世界中の言語で祝福のスパチャが降り注いだ。
「ヒューガさん! 1000万いいね、達成ですよ〜〜〜っ!」
「……ああ! ありがとな天宮……! そして、見てくれたみんな……本当にありがとう!!」
大歓声と涙と爆笑に包まれながら、伝説の24時間配信は最高のフィナーレを迎えた。
――配信終了後。深夜の自室。
静まり返った室内で、駆はPCの前で力尽きるように背もたれへ倒れ込んだ。
『ピコン!』
スマホに、みずきからのLINEが届く。
『日向くん、24時間本当にお疲れ様でした! 日向くんのツッコミ、今日も世界で一番かっこよかったです!』
駆はかすれた声でフッと微笑み、画面をタップした。
『お前のおかげだよ。ありがとな、みずき』
『えへへ! じゃあご褒美に、明日の朝は「キャベツ10個分の特大タルト」を日向くんのお家に届けに行きますね!』
駆は一瞬で目を覚まし、全力で文字を打ち込んだ。
『家に来るな!!!! 郵送も拒否するぞ!!!!』
『きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、最高〜!』
24時間が終わっても、1000万いいねを達成しても。
世界一のツッコミと、世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに、終わることなく続いていくのだった。




