二十四話
学園祭ステージの大成功から数週間。
季節は初冬へと差し掛かる中、またしてもマネージャー赤坂から正気を疑う企画が持ち込まれた。
『ヒューガ様、朗報です。「みるくちューにゅう」のドタバタ劇を題材とした【2.5次元舞台化】の企画が決定いたしました!』
「舞台化ぁ!? VTuberのドタバタコメディを実写の舞台にして誰が見るんだよ!!」
『安心してください。劇中でヒューガ様と天宮ミルク様を演じるのは、今をトキめく超人気若手舞台俳優のお二人です。そしてヒューガ様と天宮様には——舞台袖から【リアルタイム声優(生吹き替え)&リアル生ツッコミ】を担当していただきます!』
「役者さんにその場でツッコミ当てる生アフレコ舞台!? 事故の匂いしかしないんだが!?」
こうして、東京の有名劇場にて特別公演『舞台版・みるくちューにゅう 〜舞台の上でもボケを拾え!〜』が幕を開けることとなった。
――公演当日。満員の劇場。
舞台上では、再現度の高すぎる衣装を着た若手イケメン俳優の二人(ヒューガ役&天宮ミルク役)が、完璧な立ち振る舞いで演技をしている。
そして舞台袖の特設マイク前には、モニターを凝視しながら汗だくになっている駆とみずき(中の人)の姿があった。
劇中、ミルク役のイケメン俳優が可憐な動作で「自作のケーキ」をヒューガ役に差し出すシーン。
舞台袖のマイクから、みずきが声をあてる。
「じゃ〜ん! ヒューガさん! ミルク特製の『ミリオンお祝いキャベツタルト』です〜!」
舞台上のヒューガ役俳優が、台本通り絶句する演技に入る。
そこへ、駆がマイクにしがみつきながら爆音ツッコミを叩き込んだ。
「イケメン俳優にキャベツ丸ごと乗った謎の物体を差し出させるな!! 画(絵面)のシュールさと俳優さんの顔面の美しさの温度差で風邪引くわ!!」
客席から「ドッ!!」と地鳴りのような大爆笑が巻き起こる。
【wwwwwwwwwwww】
【2.5次元になってもキャベツタルトww】
【俳優さんの顔が良いのにやってることが狂気】
【ヒューガの生アフレコツッコミが神がかってる】
現地観客&同時生配信(同接40万人突破)のハイブリッド形式で進む舞台は、後半にかけて怒濤のアドリブ合戦へと突入していった。
劇中の「マイクラ建築シーン」で、舞台上のミルク役俳優が、小道具の巨大な金づちを振りかざして舞台美術のセット(家)を本気で破壊し始める(※アドリブ)。
「ヒューガさ〜ん! 建築のために、まずこの柱を叩き壊しま〜す!」
舞台袖で駆が頭を抱えて叫ぶ。
「セットを本気で壊すな!! 劇場の美術スタッフが裏で泣いてるだろ!! 大工仕事の解体から始めるな!!」
さらに、ゲストとして特別出演していた黒羽レン役の俳優、鳳凰院カグラ役の女優までもが舞台上で大暴走。
カグラ役「クックック……この舞台装置のせり上がり(迫り)は我が暗黒の力で起動した!」
「舞台の仕掛けを勝手に動かすな!! 演出家に謝れ!!」
レン役「ヒューガさん、僕の計算によれば、この舞台の千秋楽までにあなたの喉は潰れます」
「不吉な計算すな!! 役者のイケボでメタ発言するな!!」
俳優たちのキレッキレの肉体表現と、舞台袖からの駆のマシンガンツッコミが見事に融合し、劇場は終始、腹を抱えて転げ回る客たちの笑い声に包まれた。
千秋楽のカーテンコール。
客席からの鳴り止まないスタンディングオベーションの中、舞台上の俳優陣と、画面越しに投影されたヒューガ&天宮ミルクの3Dモデルが並んで頭を下げる。
「舞台の上でも、やっぱりボケは止まりませんでした!! 本日は本当にありがとうございました!!」
『うおおおおおおおおお!!』
『最高だったぞーーーーー!!』
『2.5次元でもみるくちゅーにゅう!!』
大盛況のうちに幕を閉じた2.5次元舞台公演。
――終演後。劇場の裏手、楽屋へ続く静かな廊下。
舞台袖での激闘を終え、パイプ椅子に崩れ落ちる駆。
そこへ、冷えたスポーツドリンクを持ったみずきが歩み寄ってきた。
「日向くん、お疲れ様でした! 舞台の上で自分の声が響くの、すっごく緊張したけど楽しかったですね!」
「……ハぁ……役者さんの迫真の演技に合わせるの、配信の10倍頭使ったわ……」
駆は受け取ったドリンクを飲み干し、ふっと壁に頭を預けた。
「でもまあ……次元を超えても、やることはひとつだったな」
「えへへ、そうですね! 次元が変わっても、どこに行っても、日向くんがツッコんでくれればそこが『みるくちューにゅう』のステージです!」
みずきは満足そうに微笑むと、目を輝かせて言った。
「じゃあ次は、ハリウッドで『実写映画化』ですね!」
「だからハリウッドを巻き込むな!! 規模を無駄にデカくするな!!」
楽屋の廊下に響き渡る、いつもの鋭いツッコミと笑い声。
画面を飛び出し、舞台を超えて。
世界で一番賑やかな二人のエンターテインメントは、これからもどこまでも広がっていくのだった。




