二十三話
マイクラでの大爆破事件から数週間。秋の気配が深まる10月。
大学を卒業してフリーランスの道を突き進む駆とみずきのもとに、母校である大学の学園祭実行委員会から、とんでもないオファーが飛び込んできた。
『【学園祭スペシャルステージ】卒業生VTuberユニット「みるくちューにゅう」公開生トークショー&ツッコミ講義!』
「母校の学園祭で、リアルリアル講堂に登壇……!?」
自室で台本を見つめる駆。
VTuberとして画面越しに活動してきた二人が、母校の講堂の特設大スクリーンの裏から、現役大学生たちの前に「卒業生スペシャルゲスト」としてリアルタイムで登壇する企画だ。
当日の大学講堂。
一般客や学生たちで超満員となった会場は、開演前から異様な熱気に包まれていた。
「日向くん、母校の講堂で配信するの、ちょっと不思議な感じですね〜!」
舞台裏の楽屋で、私服姿のみずきがいちごミルクを飲みながら笑う。
「不思議どころじゃねえよ。俺たちの正体(中の人)を知らない後輩たちが、すぐそこに500人以上詰めてんだぞ。絶対に本名を呼ぶなよ天野?」
「任せてください! 『ヒューガさん』って呼びます!」
――そして本番。
講堂の大スクリーンに、3D姿のヒューガと天宮ミルクが映し出された瞬間、会場を割らんばかりの大歓声が巻き起こった。
『うおおおおおおおおお!!』
『本当に母校に来てくれたーーーー!!』
『みるくちゅーにゅう最高!!』
「みなさんこんにちは! 卒業生で個人勢VTuberのヒューガです! 本日は母校の学園祭にお邪魔しております!」
「こんミルク〜! 母校の食堂のカレーが大好きな天宮ミルクです〜!」
【学園祭コラボ熱すぎるww】
【リアル会場と配信のハイブリッド!】
【同接すでに35万人突破】
企画は順調に進み、中盤の『現役大学生のお悩み相談コーナー』へ。
ステージ上の箱から、学生が書いた質問用紙をミルクが引き抜く。
「はい! 最初の質問です!『工学部3年の男子です。好きな子に告白したいのですが、どんな言葉で伝えればいいですか?』……だそうです!」
「おお、甘酸っぱい青春の悩みですね。天宮さん、何かアドバイスは?」
「はい! 告白の言葉は『僕の人生のサーバーに、君を永続ログインさせてください!』がおすすめです!」
「理系っぽさを出そうとしてオタクのキモさが全開なんだよ!! 断られて即ログアウトされるわ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【即ログアウト草www】
【キレキレのツッコミが講堂に響き渡ってる】
【リアル会場の大爆笑がマイクに乗って聞こえるww】
会場の学生たちが腹を抱えて大爆笑。現地の爆笑と配信のコメント欄がリアルタイムでシンクロしていく。
さらに次の質問。
「『経済学部2年です。単位がやばくて留年しそうなのですが、どうすればいいですか?』」
「これは切実だな……」
「大丈夫です! 教授のおうちにキャベツタルトを届けて『これを免罪符にしてください』って言えば一発です!」
「買収の品に奇食を選ぶな!! 教授の胃袋を破壊して余計に留年確定するわ!! 勉強しろ勉強を!!」
怒濤のツッコミレッスン(?)に、講堂のボロいスピーカーが音割れするほどの爆笑が巻き起こる。同接数は破竹の42万人を突破した。
イベントのラスト、駆は画面に向かって、後輩である学生たち、そして配信を見守るリスナーへ語りかけた。
「……学生の皆さんも、配信を見てくれてる皆さんも。人生何が起こるか分かりません。僕も2年前は、ただのしがない大学生でした。でも、ひとつの事故から始まった毎日が、僕をこんなに遠くまで連れてきてくれました。アホなことに全力になれる今を、思いっきり楽しんでください!」
温かい拍手が講堂全体を包み込み、学園祭スペシャルステージは大盛況のうちに幕を閉じた。
――夕暮れ時。学園祭の熱気が残るキャンパスの並木道。
出店の片付けをする学生たちの声を遠くに聞きながら、駆とみずきは二年前と同じように並んで歩いていた。
「日向くん、今日のステージ、すっごく楽しかったですね」
みずきが夕日に照らされた笑顔を向ける。
「……ああ。母校でツッコミ入れるのは、なんか変な感覚だったけどな」
「ふふっ。でも、日向くんの最後の言葉、すごく格好良かったです! 『アホなことに全力になれる今を楽しむ』……ですね!」
みずきは満足そうに頷くと、ポケットから小さなメモ帳を取り出した。
「というわけで! 今日の夜の配信は、全力で『宇宙から隕石(巨大タピオカ)を降らせる配信』をやります!」
駆は足を止め、夕空に向かって本日一番の叫び声を響かせた。
「全力の方向性を間違えるな!!!! 隕石降らせたらキャンパスごと消滅するだろ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
懐かしい通学路に、二人の笑い声と鋭い叫びが溶けていく。
思い出の詰まったこの場所から、二人の「終わらない奇跡」は、明日も変わらず続いていくのだった。




