二十二話
エイプリルフールのカオス配信から数日。
「今日こそは静かに作業配信でもするか……」
自室のデスクで、駆はマインクラフト(Minecraft)の個人サーバーを立ち上げていた。
今日の目標はシンプル。「配信なしで、ただただ平穏に木造建築の家を建てること」。
第1章で天宮ミルクが引き起こした「深夜のリアルの家作り(物理)」のトラウマを払拭すべく、バーチャル空間で静かな大工仕事に勤しむはずだった。
……が。
『ピコン!』
Discordの通話音が鳴る。またしても嫌な予感しかしない。
「ヒューガさ〜ん! マクラ(マイクラ)のサーバー入っていいですか〜!?」
「マイクラをマクラって略すな!! 高反発まくらみたいに言うな!!……まあ入るのはいいけど、今日は作業するだけだから暴れるなよ?」
天宮ミルクがログイン。
しかし、これで終わるはずがなかった。
『あ、ヒューガ先輩! 私も行っていいですか!?』(星空ルチア)
『ふはは! 我が魔界の城を建築する時が来たか!』(鳳凰院カグラ)
『HYUGA-SAN! 我、城の周りに堀を掘る!』(クリス)
『ヒューガさ〜ん、サモサ型のピラミッド作ります〜』(シトラ)
どこから聞きつけたのか、海外勢や新人V、さらには黒羽レンまで次々とサーバーに雪崩れ込んできた。
気づけば、全40名近くのVが参加する超巨大突発コラボ配信『【マイクラ】ヒューガの静かな建築作業を全員で妨害(?)する配信』として枠が立っていた。
【突発で全V大集合きたあああ!】
【静かな作業配信が10分で崩壊した件】
【同接すでに30万人突破ww】
【ヒューガの家が完成する気がしない】
「ちょっと待て!! なんで俺の敷地に勝手に『キャベツ畑』作ってんだ天宮さん!!」
「え? ヒューガさんのおうちの屋根をキャベツで葺こうと思って!」
「茅葺き屋根みたいにキャベツ使うな!! 青くさくて住めねえだろ!!」
横では星空ルチアが叫んでいる。
『ヒューガ先輩! AIの最適化計算により、最も頑丈な壁の素材が判明しました!「TNT(爆薬)」です!』
「爆薬で家を囲むな!! 引火したら一瞬で木すら残らんわ!! 豆腐建築でいいから木材を使え!!」
さらにクリスとシトラの海外勢が、駆の家の庭でマグマと水を交互に流し始めている。
『OH! 黒曜石のジェネレーターができました!』
「庭でマグマ事故を起こすな!! 住宅街の環境破壊か!!」
『サモサの呪文を唱えたらTNTが爆発しました〜♪』
「呪文で物理的な爆破を起こすな!! 犯人はお前か!!」
ドガーン!!(画面内で爆発音)
駆が2時間かけて積み上げた木造建築の骨組みが、一瞬で木屑となって夜空に舞い散った。
【wwwwwwwwwwww】
【知ってた爆破wwww】
【綺麗に骨組み吹き飛んで草】
【全V総出の地鎮祭(爆破)】
【ヒューガの叫び声でマイクが音割れしてる】
「お前ら全員マイクラ出禁じゃあああああ!!!!」
チャット欄は大爆発と爆笑で埋め尽くされ、同接数は45万人を破竹の勢いで突破。
「あ〜あ、ヒューガさんのおうちが吹き飛んじゃいましたね〜」
「他人事みたいに言うな天宮さん!! お前が真っ先にキャベツ植えて誘導したからだろ!!」
「えへへ、でも大丈夫です! ミルクが代わりに、ヒューガさんのために最高の『本物の家』を建てるのを手伝いますから!」
「マイクラの中でやれ!! リアルで大工仕事を始めようとするな絶対に!!」
結局、家が一向に完成しないまま3時間が経過。
荒廃した土地の上に、なぜか「巨大なキャベツのオブジェ」と「黒曜石のサモサ」が鎮座するカオス空間が完成し、配信は幕を閉じたのだった。
――配信終了後。
深夜の通話。疲れ果ててデスクに突っ伏す駆。
『日向くん、今日もいっぱいツっこんでくれてありがとうございました!』
通話口から聞こえる、みずきの明るく楽しそうな声。
「……ハぁ。もう二度と突発マイクラはやらん。家が一瞬で消え去ったわ」
『ふふっ、でも楽しかったですね! みんな日向くんと遊ぶのが大好きなんです』
「遊ばれてるの間違いだろ……」
駆は呆れつつも、画面に映る無惨なマイクラのマップを見つめ、ふっと口元を緩めた。
どれだけ壊されても、どれだけ滅茶苦茶にされても。
何度でもツッコミを入れ、また一から作り直せばいい。
「……たく。明日、整地からやり直しだ。天宮、手伝えよ」
『はいっ! 泥のブロック集めておきますね!』
「普通の木材にしろ!!」
どこまでも賑やかに、どこまでもカオスに。
彼らの「最高の日常」は、明日も変わらず続いていく。




