二十一話
コンビ結成の狂乱から数ヶ月。
再び巡ってきた4月1日、エイプリルフールの夜。
かつて第16章で散々な結果に終わった「役割逆転配信」の記憶が、リスナーたちの脳裏に蘇っていた。
そして今年も、当然のようにその配信枠が立ち上がった。
タイトル:『【エイプリルフールリベンジ】1年間修行した天宮ミルクのマシンガンツッコミを見よ!【ゲスト:ヒューガ】』
待機所には配信開始前から38万人を超えるリスナーが詰めかけ、チャット欄は期待とネタ作りの予感で爆発寸前となっていた。
【またやるのかwwwwww】
【去年の保育園ツッコミの再来きた】
【1年間修行した(大嘘)】
【ヒューガの不憫枠助かる】
20時ジャスト。配信がスタートした。
「みなさんこんばんは! 今夜は超絶キレキレのツッコミ系VTuber、天宮ミルクです! 今日はヒューガさんのどんなボケも0.1秒で叩き落としますよ〜!」
意気揚々と宣言するミルク。画面の向こうの駆は、半信半疑の顔(3Dモデル)でマイクに向かった。
「……ほう。1年間の成長を見せてくれるわけですね。じゃあ早速ボケますよ?」
「いつでも来てください! 砕き散らしてみせます!」
「はい、えーと……実は僕、今日の夕飯に『ガソリン入りのお味噌汁』を飲んできました」
狂気的なボケを投げかける駆。
直後、ミルクが机をバンッと叩く音(SE)とともに叫んだ。
「……燃費良すぎだろ!!!! インジェクションエンジンかお前の胃袋は!!」
【!!????!?!?!】
【待ってwwwwwワードセンス急に上がってて草www】
【ツッコミが的確すぎるwwww】
【誰だお前!!?!?】
チャット欄が「!?」で埋め尽くされる。
駆自身も目を丸くした。
(な、なんだそのワードチョイス!? 「インジェクションエンジン」なんて単語、こいつの語彙力から出てくるはずが……)
「ふふ〜ん、どうですかヒューガさん! 驚きましたか!」
「……なるほどね。じゃあ次行きますよ。最近、部屋の壁に穴が空いたので、練り消しとちくわで補強しました」
「建築基準法を舐めるな!! 猛台風が来たらちくわの穴から風が吹き荒れるわ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【キレッキレで腹痛いwwww】
【マジで成長してて草】
【天宮ミルクの覚醒】
怒濤のキレを見せるミルクのツッコミに、同接数は一気に42万人を突破。
駆は顎に手を当て、フッと不敵な笑みを浮かべた。
(ほう……本当に勉強してきたみたいだな。……だが、俺の「本物のボケ」に耐えられるかな?)
駆のスイッチが入った。
「じゃあ天宮さん。僕、明日から月に移住するので、宇宙服の代わりに『透明のラップ』を全身に巻きつけてロケットに乗ってきます」
「ラップで大気圏突破できるか!! 摩擦熱で焼き豚になるわ!!」
「ちなみにロケットの燃料は、天宮さんが作った『キャベツタルトの汁』です」
「……あ」
ミルクの動きが、ピタッと止まった。
「……えーっと、キャベツタルトの汁は……とっても美味しくて……カロリーが高くて……」
「ツッコミが失速してんだよ!! 急に主観の感想を挟むな!!」
「だって! ミルクのキャベツタルトは爆発物じゃありません〜! 燃料にされたら悲しいです〜〜〜っ!」
「そこかい!! 自分の奇食を庇うためにツッコミ放棄すな!!」
結局、自分の作った謎料理の話題が出た瞬間、ミルクの「ツッコミモード」は完全に崩壊。
【いつものミルクちゃんに戻ったwwww】
【5分しかもたなかったwww】
【やっぱりキャベツタルトが弱点か】
【ヒューガの誘導尋問が完璧すぎる】
「あ〜〜〜っ! もうダメです〜〜〜っ! ヒューガさんのボケが意地悪すぎます〜〜〜っ!」
頭を抱えて叫ぶミルクに、駆は大爆笑した。
「ハハハ! 惜しかったな天宮さん! 最初の2回は完璧だったぞ! ……ちなみに、あのキレキレのツッコミの台詞、誰に教えてもらったんだ?」
「……うう、黒羽レン先輩に事前に『ヒューガさんがボケそうなこと』を予測してもらって、台本書いてもらいました……」
「カンペありかよ!! カンペ見ながらツッコんでたのかお前は!!」
「だって! 一人じゃ無理なんですもん〜〜〜っ!」
身も蓋もない白状に、リスナーも大爆笑。同接数は過去最高の48万人に達した。
——配信終了後。
自室でジュースを飲みながら、駆は満足そうに息を吐いた。
「ハぁ……腹痛い。まあでも、レンさんに頭下げてまで練習した努力だけは認めてやるよ」
プライベート通話で、みずき(天宮ミルク)がへにょへにょの声で応える。
『うぅ……日向くん、やっぱりツッコミってすごく頭使うんですね……。日向くんが毎日こんな大変なことしてたなんて、尊敬します……』
「今更かよ。……まあ、お前がツッコミマスターになったら、俺の仕事なくなっちゃうからな。お前は一生そのままのボケでいいんだよ」
『えへへ……はい! じゃあ明日からは、また思いっきりボケまくりますね!』
「お手柔らかに頼むわ……」
苦笑いしながら缶を置く駆。
完璧じゃなくていい。ポンコツのままでいい。
互いの欠点を笑い合い、最高の間合いで叩き落とす。
二人の「終わらない掛け合い」は、新しい季節も変わらぬ熱量で続いていくのだった。




