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二十話

ロサンゼルスでの大成功から数ヶ月。

日向駆(ヒューガ)のチャンネル登録者数はついに250万人を突破していた。

季節は再び巡り、駆とみずきが大学の講義室で「運命(事故)のエンカウント」を果たしてから、ちょうど2年が経とうとしていた。

今や個人勢の頂点でありながら、業界すべてのVから「困った時の駆け込み寺」「万能ストッパー」として愛される存在となった駆。

そんなある日、天宮ミルクのチャンネルで1本の特別枠が突如として立てられた。

タイトル:『【重大発表】天宮ミルク、VTuber引退……!?【緊急生配信】』

サムネイルは暗い背景に、涙を流す天宮ミルクのシルエット。

ネット上には一瞬で衝撃と悲鳴が走り抜けた。

『え……冗談だろ……?』

『ミルクちゃん引退!?』

『ヒューガ助けてくれ!!』

『250万人記念のあとに引退なんて嘘だろ……』

配信開始前の待機所には、VTuber史上の最高記録となる50万人を超えるリスナーが殺到。チャット欄はパニックと不安で地獄絵図と化していた。

そして20時ジャスト。配信がスタートした。

画面には、いつになく真剣な表情(モデルの動き)をした天宮ミルクの姿。

「……みなさん、こんばんは。天宮ミルクです。急な配信で驚かせてしまって、本当にごめんなさい」

重苦しい沈黙。チャット欄が悲痛な叫びで埋まる。

「ミルクは、VTuberを始めてからずっと、みんなにたくさんの笑顔と元気をもらってきました。でも……ミルクの中で、ひとつの大きな区切りがついたんです」

ミルクは静かに息を吸い込み、マイクに向かって言葉を紡ぐ。

「だから……天宮ミルクは今日で……『ソロVTuber』を引退します!」

【……え?】

【ソロ……引退……?】

【どういうこと……?】

混乱するコメント欄。その時、通話の接続音がドカンと鳴り響いた。

「はい! というわけで本日より!! 天宮ミルクとヒューガは正式に【永久公式コンビ『みるくちゅーにゅう』】を結成し、コンビでの活動に移行しま〜〜〜す!!」

「ややこしい言い方で視聴者を紛らわせるな!!!! 引退詐欺のスケールがデカすぎるんだよ!!!!」

画面に乱入してきたヒューガ(3D)の爆音ツッコミが炸裂した。

【wwwwwwwwwwww】

【知ってた!!!!】

【引退詐欺草wwwwww】

【心臓止まるかと思ったわバカwww】

【紛らわしすぎるだろwwww】

「ヒューガさ〜ん! サプライズ大成功ですね〜!」

「大成功じゃねえよ!! チャット欄で本気で泣いてるファンに土下座しろ!! 事務所の赤坂さんまで裏で冷や汗かいてたぞ!!」

「えへへ、だってお祝いはド派手にやりたかったんです!」

「引退を匂わせるお祝いがあるか!!」

一瞬で悲壮感が吹き飛び、世界中が安堵と大爆笑の渦に包まれる。

同接数は驚異の60万人を記録した。

画面の中で、ミルクがふふっと可愛らしく微笑む。

「……でもね、みなさん。これはミルクの本気なんです。一人で配信するのが怖くて、ポンコツで、いっぱい失敗してきたミルクに、生きていく楽しさを教えてくれたのはヒューガさんでした」

画面に向かって、ミルクが深くお辞儀をする。

「これからもミルクは、一生ヒューガさんの隣でボケ続けます! だからみんな、これからも『みるくちゅーにゅう』をよろしくお願いします!」

チャット欄は瞬く間に、虹色のスパチャと「おめでとう!」「最高のコンビ!」「一生ついていくぞ!」という祝福の言葉で覆い尽くされた。

「……たく。勝手に結成宣言すんなよな」

駆は画面の向こうの相方に向かって、呆れたように、けれど世界で一番優しい笑顔を向けた。

「……まあ、今更解散なんて言われた方が困るけどな。これからも全部拾ってやるから、覚悟しておけよ!」

「はいっ!!」

大歓声と爆笑の中、伝説の「引退詐欺&コンビ結成配信」は幕を閉じた。

――配信終了後。深夜の大学の部室。

かつて二人が一番最初に、壊れかけたマイクで奇跡を起こしたあの思い出の場所。

月明かりが差し込む静かな室内で、駆とみずきは並んでパイプ椅子に座り、いちごミルク(駆は缶コーヒー)を飲んでいた。

「日向くん」

「ん?」

「私、VTuberをやってて、日向くんに出会えて、本当に良かったです」

みずきが、ほんのり頬を染めて、真っ直ぐな瞳で駆を見つめた。

駆は缶コーヒーのプルタブを弄びながら、照れくさそうに頭を掻いた。

「……俺もだよ。お前が部室で事故を起こしてくれなきゃ、俺はただの退屈な大学生で終わってた。俺の人生を一番面白くしてくれたのは、間違いなくお前だ」

二人の視線が重なり、温かい沈黙が流れる。

その時、みずきのスマホが『ピコン!』と鳴った。

「あ、日向くん! さっそく明日のコンビ結成1日目の企画思いつきました!」

「嫌な予感しかしないな……何だよ?」

「宇宙ステーションから、地球に向かって超巨大なキャベツタルトを落下させる配信です!」

駆はパイプ椅子から立ち上がり、夜のキャンパスに響き渡る声で、全身全霊のツッコミを放った。

「スケールを宇宙規模に広げるな!! 隕石(キャベツ)で地球を滅ぼす気か!!!」

「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」

夜空に溶けていく、二人の弾けるような笑い声。

トップVになっても、世界を巻き込んでも、大人になっても。

一つの事故配信から始まった物語は、これからも永遠に、どこまでも賑やかに続いていくのだった。

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