十八話
パシフィコ横浜での大成功から数ヶ月。季節は巡り、日向駆のチャンネルはついに登録者数200万人という、個人勢VTuberとしては前人未到の金字塔を打ち立てようとしていた。
【1,999,995人】
【1,999,998人】
【2,000,000人】
自室のモニター前で、駆は感慨深げにその瞬間を見届けた。
「……200万人。本当に行ったのか……」
【200万人おめでとうあああああ!!】
【個人勢の頂点立ったぞ!!】
【ヒューガ神! ヒューガ神!】
【みるくちゅーにゅう最強!】
コメント欄が祝福のスパチャと弾幕で画面を埋め尽くす中、Discordの通話音が鳴り響く。
「ヒューガさ〜ん! 200万人突破おめでとうございます〜〜〜っ!」
「天宮さん、ありがとう。……って、急に通話入ってきたけど、今日は単独の達成見守り配信じゃなかったっけ?」
「ふふふ、200万人という最高のおめでたい日ですから! ミルク、特別な『プレゼント企画』を用意してきたんです!」
「プレゼント……? 嫌な予感しかしないんだけど」
天宮ミルクはフッ……と不敵に微笑む(モデルのモーション)。
「本日の企画は……『原点回帰! ゲリラ逆突撃コラボ』です! ミルクが今からランダムに色んなVの通話に突撃するので、ヒューガさんはそこで起きた事故を全部ツッコミで処理してください!」
「アポなし突撃すな!! 迷惑系Vかお前は!! 相手の許可を取れ相手の!!」
【wwwwwwwwwwww】
【まさかの逆突撃企画きたww】
【被害者の会が広がる音】
【200万人記念でやる企画じゃなさすぎて草】
駆の制止も虚しく、天宮ミルクの「暴走特急」が発車した。
1件目の被害者:黒羽レン
『……もしもし? ミルクさん、ヒューガさん? 200万人おめでとうございます。で、今僕が新衣装の作業中だって知ってて突撃してきました?』
「本当にすみませんレンさん!! こいつが勝手にボタン押したんです!!」
「レン先輩! 200万人のお祝いに『即興で一発ギャグ』をお願いします!」
「無茶振りの精度がプロの嫌がらせなんよ!! 知的Vのレンさんに一発ギャグ要求すな!!」
『……ハァ。仕方ないですね。「AIが人間の仕事を奪う……と思ったら、全部ヒューガさんのツッコミに奪われました」……どうですか?』
「上手いこと言おうとして滑ってんだよレンさん!! インテリの矜持を捨ててまで付き合わなくていいから!!」
2件目の被害者:星空ルチア&鳳凰院カグラ(新人コンビ)
『ふえぇ!? ヒューガ先輩!? 私、今パスタ茹でてて……あ、お湯が吹きこぼれ——』
「ルチアちゃん火を消せ!! 配信画面よりコンロを見ろ!!」
『くっくっく……我の魔導書によれば、この吹きこぼれは暗黒の儀式——』
「カグラお前は解説してないで拭くのを手伝いなさい!! 部屋が水浸しになるだろ!!」
3件目の被害者:海外勢(クリス&シトラ)
『HYUGA-SAN! CONGRATULATIONS 2 MILLION! 我、祝いにジャパニーズ・サムライの舞を踊る!』
「Webカメラの前で刀(模造刀)振り回すな!! 部屋の電球割れるぞ!!」
『ヒューガさ〜ん、お祝いにインドネシアからリアルなタピオカ100kg送りました〜!』
「要らんわ!! どこに置くんだよタピオカ100キロ!! 倉庫借りなきゃいけないだろ!!」
——わずか1時間で、国内外問わず総勢10名以上のVが巻き込まれる大未曾有のカオス。
同接数はなんと45万人を破竹の勢いで突破。
【全方位に被害が出てて草】
【ヒューガの喉が200万人分の耐久試されてる】
【世界を巻き込むツッコミ処理機能】
【腹ちぎれるwwwwww】
「はぁ……はぁ……! 天宮さん……もういいだろ……! 俺の喉が破裂する……!」
画面の前で息を絶え絶えにする駆に、ミルクは柔らかい声で語りかけた。
「ヒューガさん。……凄いです」
「……え?」
「どんなに突然突撃しても、どんなに滅茶苦茶なボケが飛んできても……ヒューガさんは誰一人見捨てないで、全部拾って、みんなを笑顔にしちゃうんですから。200万人になったのは、ヒューガさんが『世界一優しいツッコミ』だからですよ」
チャット欄が一瞬で「てぇてぇ」「泣いた」「本当にそう」「ヒューガ最高」の文字で埋まる。
駆は照れくさそうに顔を背け、小さく咳払いをした。
「……たく。最後だけイイ話風にまとめようとするな。……でも、ありがとうな」
「えへへ! じゃあ200万人記念の締めに、ミルク特製の『200』の形をしたキャベツタルトを食べに行きま〜す!」
「だからキャベツをタルトにするなと言ってるだろ最後くらい学習しろ!!!」
爆笑と歓声の中、200万人突破記念配信は幕を閉じた。
——深夜。
大学の卒業旅行の思い出写真を整理しながら、駆は自室の窓を開けた。
夜風が火照った頬を撫でていく。
デスクの上には、あのファンミで返却されたレトロなスタンドマイク。
そして、画面の向こうには自分を待っている200万人のリスナーと、かけがえのない仲間たち。
「……さて、明日もボケを拾いに行きますか」
トップVになっても、世界中から愛される存在になっても。
日向駆と天宮ミルクの「奇跡の日常」は、どこまでも賑やかに、どこまでも続いていくのだった。




