↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
17/153

十七話

エイプリルフール配信から数ヶ月。

チャンネル登録者数180万人を破竹の勢いで達成したヒューガのもとに、活動史上初となる「リアルオフライン単独イベント」の開催が発表された。

イベント名は『ヒューガ 1st Fan Meeting 〜リアルでもツッコミの手を緩めるな!〜』。

パシフィコ横浜の大ホール、収容人数約5,000人。チケットは抽選開始わずか1分で即完売となった。

イベント当日の楽屋。

黒のシックなジャケットに身を包んだ駆は、緊張で胃を痛めながら手元の進行台本を何度も確認していた。

「個人勢のファンミで5,000人……本当に実在するのか、リスナーって……」

『ヒューガ様、まもなく開演です』

スタッフの声を合図に、駆は息を呑み、ステージへと足を踏み出した。

巨大スクリーンに映し出される3Dモデル。そして、暗転したステージにスポットライトが当たると同時に、地鳴りのような大歓声が会場を揺らした。

『うおおおおおおおおお!!』

『ヒューガーーーーー!!』

『本当に実在してたーーーーー!!』

「……みなさん、こんばんは!! 個人勢VTuberのヒューガです!! 本日は会場にお越しいただき、本当にありがとうございます!!」

マイクを通した声に、万雷の拍手が返ってくる。

画面の向こうの数字でしか見えなかった「リスナー」が、確かに目の前に存在する感動に包まれる駆。

だが、感動的な空気も束の間、イベント中盤のゲストコーナーで事件は起きる。

「さて! 本日は僕の単独イベントということで、この方に特別なお祝いメッセージ(動画)をいただいております。画面をご覧ください!」

ステージの大スクリーンに映し出されたのは、天宮ミルクの3Dモデル……ではなく、現地舞台袖のLive2Dモニターカメラだった。

「はーい! みなさんこんミルク〜!……って、動画じゃなくて裏に直接来ちゃいました〜〜〜っ!」

ザワッ……ギャアアアアアア!!

会場のテンションが最高潮に達する。

「来ちゃいましたじゃねえよ!! なんで裏にいるんだ天宮さん!! 警備員はどうした警備員は!!」

「受付で『ヒューガさんの飼育員です』って言ったら普通に通してくれました〜!」

「セキュリティガバガバかこの会場!! 猛獣(お前)を野に放つな!!」

【wwwwwwwwwwww】

【現地サプライズきたあああああ!】

【会場の爆笑と歓声がヤバいww】

【リアル会場でも即座にツッコむヒューガ流石すぎる】

ステージ上に設置された特設モニター越しに繰り広げられる、生(リアル)の爆音ツッコミ。

5,000人の観客が腹を抱えて大爆笑し、会場全体が揺れ動く。

「で? 来たからには何か持ってきたんだろ。どうせキャベツタルトとかだろ」

「違いますよ〜! 今日はヒューガさんに、ミルクから本当のお祝いのプレゼントを持ってきたんです!」

モニターの横から、スタッフの手によってステージ中央にひとつの小さな箱が運び込まれた。

「……なんだこれ? ケーキか?」

「開けてみてください!」

駆が慎重に箱を開けると、そこに入っていたのは——1本のレトロな卓上スタンドマイクだった。

会場が一瞬、静まり返る。

「……これ、天宮さん」

「はい! 半年前、大学の部室で日向くん……じゃなくてヒューガさんが、ミルクの爆走を止めるために一番最初に使った、あの部室の壊れかけのマイクです!」

みずき(天宮ミルク)の声が、少しだけ優しく響いた。

「修理して、ピカピカに磨いておきました。……あの日、このマイクから始まった事故配信がなかったら、ミルクも、ヒューガさんも、ここにはいなかったと思います。……いつも最高のツッコミを、ありがとうございます!」

会場全体から、あたたかい拍手が沸き起こった。

駆はマイクを手に取り、少し照れくさそうに頭を掻いた。

「……たく。湿っぽい演出すんなよな。……サンキュ」

駆は手に入れたそのマイクを握り締め、5,000人の観客に向かって胸を張った。

「みんな!! 同接4人から始まった俺の配信が、こんなにデカい会場を満員にできるまでになりました! 画面の前の奇跡も、この場所の歓声も、全部俺の宝物です!……これからも変わらずツッコミ続けるから、一生ついてきてくれ!!」

『うおおおおおおおおお!!!』

『一生ついていくぞーーーーー!!』

『ヒューガ最高ーーーーー!!』

銀テープが舞い散る中、涙と爆笑に包まれて1stファンミーティングは最高のグランドフィナーレを迎えたのだった。

――イベント終了後。パシフィコ横浜の裏手、夜風が吹き抜ける海沿いのデッキ。

イベントを終え、私服に着替えた駆が佇んでいると、後ろからパタパタと足音が近づいてきた。

「日向くん! お疲れ様でした!」

私服姿の天野みずきが、缶のいちごミルクを両手に抱えて駆け寄ってきた。

「天野……お疲れ。マイク、マジでありがとな」

「えへへ、喜んでもらえて良かったです!……ねぇ、日向くん」

みずきは横浜の綺麗な夜景を見つめながら、ぽつりと呟いた。

「5,000人の前でツッコむ日向くん、すっごく格好良かったです。……でも、ミルクにとっては、二人きりの部室でツッコんでくれたあの頃と、ずーっと変わらないヒーローですよ」

駆は一瞬驚いたように目を見開き、すぐに優しく微笑んだ。

「……何言ってんだ。お前がボケ続ける限り、俺はどこにいたってただの苦労人ツッコミ役だよ」

「ふふっ! じゃあ、帰ったらさっそく反省会配信(ボケまくり雑談)ですね!」

「今夜くらい休ませろ!! 喉が千切れるわ!!」

夜の港町に響き渡る、いつもと変わらない二人の笑い声。

画面を超え、リアルを超えて。

ひとつの事故から始まった物語は、これからも新たな奇跡を紡ぎながら、どこまでも続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。