十五話
箱推し運動会から1ヶ月。
社会人兼VTuberとして多忙ながらも充実した日々を送る駆の元に、またしてもマネージャー赤坂から重大な連絡が入った。
『ヒューガ様。我が社の海外支部【ライブプロダクションEnglish】および【ライブプロダクションIndonesia】との、初の合同大規模コラボ企画が決定いたしました』
「海外支部……! ついにグローバル展開ですか!」
『はい。ですが、海外勢のトップタレントたちもまた、天宮ミルクに負けず劣らずの極めて強烈な“個性”の持ち主でして……言語の壁を超えて彼らを捌けるのは、ヒューガ様しかおりません』
「俺のツッコミを世界規模で輸出するな!! 国際問題になったらどうすんだ!!」
こうして開催されたのが、国際コラボ配信『【日英印合同】言語の壁を破壊せよ! 国境越えのカオス雑談&ゲーム対決』である。
――配信開始。
「Hello everyone!(みなさんこんばんは!)個人勢VTuberのヒューガです! 本日は日本、英語圏、インドネシアを結んでの超大型国際コラボでお送りします!」
【グローバルコラボきたあああ!】
【英語わかるのかヒューガ!?】
【絶対カオスになる未来しか見えんww】
【同接すでに20万超え】
今回の参加者は、日本代表の天宮ミルク。
英語圏代表の『クリス・ヴァルキリー』(威風堂々とした見た目の熱血騎士Vだが、極度の重度の日本アニメオタク)。
そしてインドネシア代表の『シトラ・ラマダン』(おっとりした見た目の精霊Vだが、雑談中に突然自作の怪しい呪文を唱え出すカオス系)。
「ではまずは自己紹介からどうぞ! クリスさん!」
『OHAYOU GOZAIMASU!(おはようございます!)ヒューガサン! 我ハクリス! 好きな日本語ハ「ツンデレ」ト「下剋上」デス! よろしく頼むぞ少年!』
「時差を考慮した挨拶は素晴らしいけど日本語の癖が強い!! どこで覚えてきたその単語!!」
【開幕から笑うwwww】
【好きな日本語「下剋上」は草】
【ヒューガの英語ツッコミ(日本語)が冴え渡る】
続いてシトラ。
『Halo〜!(こんにちは〜)シトラです〜! ヒューガさん、お近づきの印にインドネシアの秘伝の呪文をプレゼントしますね〜! “バババ・ラマダン・サモサ・タピオカ〜♪”』
「呪文の後半がアジアンアジアンした食べ物そのままなんだよ!! サモサとタピオカ混ぜるな!! 美味しそうになっちゃうだろ!!」
言語の壁を軽々と飛び越えて繰り出される異国のボケに対し、駆のツッコミ速度は衰えるどころかさらに加速していく。
しかし、真の地獄は「伝言ゲーム企画(日英翻訳付き)」で訪れた。
最初のお題は『猫がコタツで丸くなる』。
1番手の駆が英語で正しく翻訳してクリスに伝える。
「A cat curls up under a kotatsu.」
クリス「OH! I GOT IT!(理解した!)」
↓
2番手のクリスから天宮ミルクへ。
『ネコ・ガ・コタツ・デ・最終決戦・ヲ・開始スル!』
「なんでアニメのラストバトルみたいになってんだよ!! どこで訳し間違えたら『丸くなる』が『最終決戦』になるんだ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【クリス翻訳ガバガバすぎて草】
【コタツで最終決戦wwww】
【世界観が急にバトル漫画になった】
そして最終走者のシトラに伝わった結果。
シトラ『わかりました〜! 答えは「巨大なネコがコタツを破壊して世界を救う」です〜!』
「スケールがデカくなりすぎて収拾がつかん!! 最初の可愛い猫どこ行った!!」
言葉が通じないどころか、言葉が通じないことを理由に全員が全力でボケ倒すという最悪のコンボが完成。
英語・インドネシア語・日本語の怒号と爆爆笑が入り乱れ、同接数は世界中からの視聴者を集めて38万人を突風のように破竹の勢いで突破した。
【海外アニキたちも「HYUGA IS A LEGEND」って草生やしてるww】
【ツッコミは世界共通言語だった】
【海外勢のボケを全部拾う日本のヒューガ】
【腹ちぎれるwwww】
「天宮さん!! ちゃんと英語聞いてた!? 何でファイナルバトルになった!?」
「えへへ〜! クリスさんがすごく格好いい顔で言ってたので、きっとバトルなんだなって!」
「顔の雰囲気で翻訳するな!! 辞書を引け辞書を!!」
――2時間に及ぶ国境を越えた大暴走劇が幕を閉じた時。
世界中のチャット欄は「GG!(グッドゲーム)」「ヒューガ最高!」「Terima kasih!(ありがとう!)」の温かい言葉で埋め尽くされていた。
配信終了後。
海外勢とのプライベート通話で、クリスが拙い日本語で言った。
『ヒューガサン……ツッコミ、最高デシタ! 我、感動シタ! またコラボシテクダサイ!』
シトラも『ヒューガさんのツッコミ、インドネシアでも大人気ですよ〜!』と嬉しそうに続ける。
駆は擦れ切れた声で、誇らしげにニッと笑った。
「サンキュー……! いつでも来いよ、何語のボケでも全部拾ってやるからな!」
通話を切り、隣でいちごミルクを飲んでいたみずき(天宮ミルク)が、パチパチと拍手を送った。
「日向くん! ついに世界進出ですね! グローバルツッコミ芸人です!」
「芸人って言うな! 俺はただの個人勢Vだ!!……たく、言葉が通じなくてもボケる奴はボケるんだな」
「ふふっ、だって日向くんのツッコミは、世界中どこにいても一番安心できますから!」
みずきは嬉しそうに笑い、窓の外の夜空を見上げた。
国境も、言語も、画面の壁も飛び越えて。
「最高のボケ」と「最高のツッコミ」が存在する限り、彼らの爆笑と奇跡の毎日は、世界中でどこまでも響き渡っていくのだった。




