十四話
春風が心地よい季節。大学を卒業し、晴れて「最強のフリーランス兼個人勢V」となった駆のもとに、ライブプロダクションから春の特大企画が持ち込まれた。
『ライブプロダクション春の陣! 3D箱推し大運動会2026』
所属V総勢40名にゲストを交え、広大な3D特設スタジアムで繰り広げられるスポーツバトル。そして例によって、全体進行および実況解説の「司令塔」に抜擢されたのはヒューガ(日向駆)だった。
「赤坂さん、俺もう卒業したから普通に社会人なんですけど」
『ええ、ですから今回は【特別技術手当】としてギャラを3倍ご用意いたしました』
「引き受けます」
即答である。金に目が眩んだわけではない。自分のツッコミが求められているなら、どこへでも行くのが日向駆という男だ。
――運動会当日。
配信開始前の待機所には、すでに32万人を超えるリスナーが詰めかけていた。
【ついに運動会きたあああああ!】
【ギャラ3倍で釣られたヒューガ草】
【実況ヒューガなら事故っても安心(?)】
【絶対競技にならんやつだろww】
画面には、赤組(リーダー:天宮ミルク)と白組(リーダー:黒羽レン)に分かれた総勢42名の3Dモデルが並んでいる。
「皆さ〜ん! こんミルク〜! 今日は運動会ですよ〜! ミルクが赤組を勝利に導きま〜す!」
「実況解説のヒューガです。天宮さん、意気込みは素晴らしいですが、体操着のゼッケンが前後逆です」
「ふえ? あ、本当だ〜! お腹に『天宮』って書いてあります!」
「バカの自己紹介か!! ちゃんと着直せ!!」
【開幕0秒のツッコミ助かるww】
【お腹に名前書いてあるの草】
【白組リーダーのレン様が遠い目をしておられる】
運動会は序盤から波乱の連続だった。
第一種目『障害物競走』では、天宮ミルクが網くぐりエリアで「網に絡まって巨大な納豆みたいになる」という奇跡の物理挙動を披露。
「ヒューガさ〜ん! 動けば動くほど網が絡まって、ミルクが納豆になっちゃいます〜!」
「ネバネバすな!! 糸引いてねえだろ!! 転がってゴールを目指せ!!」
第二種目『玉入れ』では、厨二病Vのカグラが「我が暗黒の魔力で玉を打ち上げん!」と叫びながら、相手チームの籠ではなく実況席のヒューガに向かって玉を連射。
「実況席を狙撃するな!! テロかお前は!! 籠に入れろ籠に!!」
そして最終種目、配点が1000万点の『全員参加・障害物リレー』。
白組リーダーの黒羽レンが、絶望的な表情で実況席に通信を入れてきた。
『ヒューガさん……助けてください。我が白組の走者であるポンコツAI(星空ルチア)が、「最短ルートを計算しました!」と言ってスタジアムの外壁を登り始めました』
「壁登るな!! SASUKEじゃねえんだよ!! トラックを走れトラックを!!」
『あ、壁の頂上で足を踏み外して落ちて……あっ、赤組アンカーの天宮ミルクの上に落下しました!』
ドガーン!!
画面上のカメラが捉えたのは、トラック中央で綺麗に重なって倒れるミリオンV二人(ミルク&ルチア)の姿だった。
【wwwwwwwwwwww】
【惨事発生wwwwww】
【最終競技で共倒れ草】
【実況のヒューガの叫び声が響き渡る】
「二人とも何やってんだあああああ!! バトンを握れ!! 倒れてる場合か!!」
『ふぇぇ……AIのナビゲーションシステムが故障しました……』
「故障する前に自分の足で走れ!!」
「ヒューガさ〜ん! ミルク、ルチアちゃんの下敷きになって身動きが取れません〜! 助けてくださ〜い!」
「実況席からそっちまで走っていってツッコミ叩き込めるか!! 自力で起きてバトンを繋げ!!」
悲鳴と怒号、そしてカオスすぎる競技展開に、同接数は破竹の40万人を突破。
泥沼の末、リレーは「全員が途中で脱線・転倒・暴走した結果、なぜかアンカーの黒羽レンが真面目に走ってゴールする」という、あまりにも妥当な結末で白組の勝利となった。
――配信終了後。
スタジアム裏の楽屋。
全身の筋肉(と喉)を使い果たし、椅子に倒れ込む駆。
そこへ、体操着姿のみずき(天宮ミルク)が、両手にアイスキャンディーを持ってやってきた。
「日向くん、実況お疲れ様でした! はい、ソーダ味です!」
「……ハぁ……ありがとな。お前、網に絡まった時はどうしようかと思ったぞ」
「えへへ、でも楽しかったですね! 運動会、また来年もやりたいです!」
みずきはソーダ味のアスクキャンディーを美味しそうに頬張りながら、屈託のない笑顔を向けた。
駆は苦笑しつつ、アイスの棒を咥えた。
「来年やるなら、俺の実況手当を5倍にしてもらわないと喉が持たんわ」
「大丈夫です! ミルクが喉にいいハーブティー、毎日大学……じゃなくて会社に届けますから!」
「会社に届けるな!! 個人情報の漏洩防止徹底しろ!!」
運動着の裾を引っ張り合いながら笑い合う二人。
大人になっても、立場が変わっても。
二人の掛け合いと爆笑の毎日は、これからも変わらず続いていく。




