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十三話

3Dお披露目ライブから数週間。大学卒業を目前に控えた春浅い季節。

前回のライブで乱入してきた新人V・鳳凰院カグラに加え、ライブプロダクションからさらに「期待の超大型新人」がデビューした。

その名は——『星空(ほしぞら)ルチア』。

「チャンネル登録者数、デビュー3日で50万人……? なんだこの化け物新人は」

自室でYouTube画面を見つめながら、駆は呟いた。

ルチアのコンセプトは『宇宙からやってきた完璧無比のハイパーAI美少女VTuber』。

超高速の雑談、完璧なゲームプレイ、圧倒的な歌唱力。これまでの「ポンコツ」や「ド天然」とは真逆の、隙のないパーフェクトスペックとして大バズりしていた。

そんな折、マネージャー赤坂から企画の打診が入る。

『ヒューガ様。新人の星空ルチアですが、完璧すぎるが故に「可愛げがない」「スキがない」と言われておりまして……。ぜひ天宮ミルク、鳳凰院カグラ、そしてヒューガ様の3人とコラボさせ、彼女の素を引き出していただきたいのです』

「完璧なAI美少女にツッコミを入れろと……? ボケない奴にどうやってツッコめというんだ」

こうして開催されたのが、コラボ配信『【初コラボ】AI美少女×ド天然×厨二病×限界ツッコミ! カオス雑談コラボ』である。

――配信開始。

「みなさんこんばんは! 個人勢のヒューガです! 本日は天宮さん、カグラちゃん、そして新人の星空ルチアちゃんをお迎えしてお送りします!」

「こんミルク〜! ミルクで〜す!」

「我こそは魔界の覇王、カグラである!」

そして、鈴の弾けるような、完璧に調律された美声が響いた。

『みなさん、ハローワールド! 宇宙最強のハイパーAI美少女、星空ルチアです! 本日はよろしくお願いします、ヒューガ先輩!』

【ルチアちゃんだー!】

【ルチアちゃん声が綺麗すぎる】

【完璧AIとポンコツ軍団の遭遇ww】

【ヒューガの胃が痛くなりそうなメンツ】

序盤、ルチアは噂通りの「完璧なAI」として振る舞っていた。

駆の質問に対しても、

「ルチアちゃんは普段どんなゲームをするんですか?」

『はい! 囲碁と将棋の同時並行プレイや、FPSゲームでの毎秒1000回の精密エイムが得意です! 人間の方々には理解できない処理速度ですが!』

「人間を煽るな!! 囲碁と将棋同時にやる奴はCPUでもおらんわ!!」

完璧なキャラ付けに対する鋭いツッコミ。ここまでは順調だった。

しかし、事件は中盤の「みんなで心理テスト&IQクイズコーナー」で起こる。

「では第1問。『ここにリンゴが3つあります。天宮さんが2つ食べました。残りはいくつでしょう?』……ルチアちゃん、答えてください」

『ふふっ、愚問ですね。3減る2は1。答えは「1つ」です』

「そうですね、普通はそう答えますよね」

ここで天宮ミルクが自信満々に挙手した。

「違います! 答えは『ゼロ』です!」

「なんでだよ天宮さん!! 算数拒否するな!!」

「だってミルク、美味しすぎて3つ目も全部食べちゃいました〜!」

「勝手に問題を書き換えて完食するな!! 強欲の悪魔かお前は!!」

さらに鳳凰院カグラが乗っかる。

「クックック……浅いな二人とも。我が魔導書によれば、そのリンゴは我が呪いによって『黒い禁断の果実』へと変貌している! よって答えは『人類の滅亡』だ!」

「リンゴ食っただけで世界滅ぼすな!! 規模がデカすぎるんだよ!!」

怒濤のボケの二連発。

駆のマシンガンツッコミが炸裂する中、画面内の『完璧AI美少女』星空ルチアの様子がおかしくなり始めた。

『あ……え……? 3減る2は……1……ですよね……? リンゴが滅亡……? キャベツ……?』

「キャベツは出てきてねえよ!! 前回の事故を蒸し返すな!!」

『あ、あの……ロジックが……回路がオーバーヒート……! 計算が合いません……! ふえぇ……!』

「語尾に『ふえぇ』が出ちゃってんだよ!! AIのキャラ崩壊すな!!」

そう。星空ルチアの「完璧AI」という設定は、あまりにも突き抜けた天然ボケ(ミルク&カグラ)の不条理な暴力の前に、わずか30分で完全崩壊したのだった。

【wwwwwwwwwwww】

【ルチアちゃんの完璧キャラが崩壊したwww】

【「ふえぇ」出たぞwwww】

【天然の毒気に当てられるAI美少女】

【ヒューガのツッコミが追いついてないww】

『う、うわぁぁん! 2つ食べたのに全部なくなるなんて聞いてないよぉ! 算数の教科書と違うよぉ〜〜〜っ!』

「泣くな!! 素のポンコツ女子高生が出てきてんだよ!! 設定をどこへ投げ捨てた!!」

「ルチアちゃん大丈夫ですよ〜! ミルクのいちごタルトあげるから泣かないで〜!」

「キャベツ乗ってるタルトを人に押し付けるな!! トラウマになるだろ!!」

『ふははは! 涙を拭けAIよ! 我が魔界のパン(ただの食パン)を授けよう!』

「お前もどさくさに紛れて賞味期限切れのパン渡そうとするな!!」

カオス。完全なるカオス。

同接数は一気に28万人を破竹の勢いで突破した。

ポンコツ美少女、厨二病、泣き虫元AI、そして限界突破したツッコミ。

4人の怒濤の掛け合いに、コメント欄は「腹がちぎれる」「今年一番笑った」「ヒューガの喉に保険をかけろ」と大爆破。

――配信終了後。

「ハぁ……ハぁ……命の……声の命が……本当になくなる……」

自室で喉を押さえて悶絶する駆。

通話には、素に戻って真っ赤になっている星空ルチア(中の人:普通の女子高生V)が縮こまっていた。

『あ、あの……ヒューガ先輩……! 私、完璧AIって言ってたのに、泣いちゃって……ごめんなさい……!』

駆はガラガラの声を絞り出し、クスッと笑った。

「……ハハ。何言ってるんだよ。めちゃくちゃ面白かったよ。……完璧なAIより、テンパって泣きそうになってるルチアちゃんの方が、100倍可愛くてリスナーに愛されるさ」

『ヒューガ先輩……! はいっ! 私、ポンコツAIとして頑張ります!』

「ポンコツ認めるな!! 完璧を目指せ!!」

最後までキレのあるツッコミを残し、第13章の夜は更けていった。

「天然ボケ」「厨二病」「ポンコツAI」。

癖が強すぎる美少女たちに囲まれた、日向駆の「苦労人ツッコミV生活」は、どこまでも賑やかに進化し続けていくのだった。

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