十二話
卒業論文の提出を無事に終え、大学生活もいよいよ終盤。
個人勢として150万人を突破したヒューガのもとに、ライブプロダクションから『ある特別予算』が出ることが告げられた。
それは——「ヒューガの完全フルトラッキング3Dモデル制作&公式3Dスタジオお披露目ライブ」の権利だった。
「個人勢の俺に3Dモデルどころか、ライブプロの公式巨大スタジオを貸し切り……!?」
自室で叫ぶ駆に、マネージャー赤坂が満足げに頷く(※画面越しのボイス)。
『はい。ヒューガ様の活躍は我が社のタレント全体の価値を高めてくれました。これは事務所からの感謝の形です。天宮ミルクとの完全3Dコラボライブとして、盛大に行いましょう』
こうして、YouTube上で『【3Dお披露目】神ツッコミ個人勢、ついに立体化! ゲスト:天宮ミルク【#ヒューガ3D】』という超巨大配信が設定された。
――ライブ当日。
配信開始10分前の段階で、待機所の同接数は30万人を突破。
X(旧Twitter)のトレンド世界1位には #ヒューガ3D が躍り出ていた。
20時ジャスト。
暗転した画面が明け、豪華なステージの中央に、高精度で立体化された『ヒューガ』の3D姿が映し出された。
「みなさんこんばんは! 個人勢VTuberのヒューガです! ……いやぁ、本当に立体になっちゃいました!!」
【うおおおおおおおおお!!】
【3Dヒューガ出来良すぎだろ!!】
【動きがぬるぬる動くwww】
【個人勢の夢がここにある】
黒髪の癖毛、カジュアルなジャケット、そして表情豊かに動くフェイスシールド。完璧な仕上がりに駆自身もテンションが上がる。
「手が動く! 脚も動く! これなら画面狭しとツッコミのポーズが取れますね!」
「ヒューガさ〜ん! 3D化おめでと〜〜〜っ!!」
ステージの袖から、3D姿の天宮ミルクが可憐に走ってきた。
……が、フルトラッキング(全身連動)の精度が良すぎるあまり、ミルクはステージの段差につまずき、豪快なフライングボディーアタックの体勢で駆に向かって飛んできた。
「わあぁぁぁっ!?」
ドガーン!!
「初手で物理的なタックルかますな!! 3Dの物理演算を暴力に使うな!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕タックル草】
【3Dになっても事故るミルクちゃん】
【ヒューガの受身が完璧すぎる】
170cmを超える駆の3Dモデルが華麗に吹っ飛び、ステージに転がる。
視聴者は大爆笑。3Dになっても『みるくちゅーにゅう』の掛け合いは一ミリもブレていなかった。
「えへへ、嬉しくて飛びついちゃいました! 3Dのヒューガさん、本物(※中の人)と同じくらいカッコいいです!」
「さらっと中の人の話すな!! 配信上でリアルエンカウントの記憶を呼び起こすな!!」
さらに企画は進み、3Dならではの「リアクション芸」や「3Dゲーム対決」で同接は35万人に達した。
しかし、この記念すべきライブのラスト、天宮ミルクが「実は今日、ヒューガさんのお祝いに特別なサプライズゲストを呼んでいます!」と発表した。
「サプライズゲスト……? ライブプロの誰かか?」
「ふふ〜ん、ミルクの『妹分』として先月デビューした期待の新人で〜す! おいで〜!」
通話に繋がれたのは、ライブプロダクション新人V——『鳳凰院カグラ』。
『フハハハ! 拝むが良い下民ども! 我こそは魔界より降り立ちし漆黒の覇王、鳳凰院カグラである!』
厨二病全開の重厚なボイス。だが、駆のツッコミセンサーがピクッと反応した。
「あ、カグラちゃんこんばんは。ヒューガです。今日は来てくれてありがとう——」
『ぬはは! ヒューガとやら、貴様がミルク先輩を破滅から救いし「伝承の猛獣使い」か! 良いだろう、我が配下として——あ、すみません、マイクのケーブルに足を引っかけてルーターが……あっ、火花が……!』
「火花が出てるなら高圧電流だろ!! 今すぐコンセント抜け!!」
『あ、大丈夫です! 水をかければ冷えますよね!』
「かけるな水を!!!! 電化製品に水をぶっかけるな死ぬぞお前!! 天宮ミルクと同じ系統の事故起こしてんじゃねえよ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【第二の暴走特急きたあああああ!】
【ミルクちゃんの遺伝子を継ぐ者】
【ヒューガのツッコミ処理件数が2倍になった瞬間である】
「ヒューガさん! カグラちゃんもポンコツなので、これから二人分のツッコミお願いしますね〜!」
「ツッコミのワンオペ増やすな!! 俺の寿命を縮める気か!!」
絶叫する3Dのヒューガと、無邪気に笑う天宮ミルク、そして機材を漏電させかける新人V。
同接35万人の大喝采と爆笑に包まれながら、3Dお披露目ライブは最高のカオスで幕を閉じた。
――配信後。
楽屋の3Dスタジオの裏で、汗をぬぐう駆。
そこへ、リアルな足取りで近づいてきたみずき(天宮ミルク)が、冷えた缶コーヒーを差し出してきた。
「日向くん、3Dライブ、すっごく楽しかったです!」
「ハハ……サンキュ。最後、新人まで天然ボケで心臓止まるかと思ったわ」
「ふふっ、でも日向くんなら、何人ボケが増えても全部拾ってくれますよね?」
みずきは悪戯っぽく微笑み、駆の顔を覗き込んだ。
駆は呆れたように缶コーヒーのプルタブを開け、一口飲んでからニッと笑った。
「当たり前だ。何人来ようが、全部100点のツッコミで叩き落としてやるよ」
「頼もしい〜! じゃあ次は『100人合同・リアル大工配信』ですね!」
「それは絶対やらん!!!」
3Dになっても、何万人に見守られようと。
「ド天然V」と「限界ツッコミV」の、世界一賑やかな日常はどこまでも続いていく。




