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異世界マッチングアプリで相性0%の彼女を救ったら、忘れられるたびに能力を継承して最強になりました  作者: 藤崎聖子


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28/31

第28章 最後の会員は俺だった

『名前:真壁レン』


『相性率:100%』


『破滅まで:世界終了まで』


『プロフィール:あなたを救えるのは、あなただけです』


 自分とマッチングした。


「悪趣味だな」


 写真の俺は笑っていない。


 背景は、あの六畳間だった。


 開きっぱなしの求人サイト。空のマグカップ。書きかけの履歴書。


 異世界へ来る直前と同じ。


『最後の運命クエストを開始します』


『真壁レンを、この世界から完全に削除してください』


 画面を閉じる。


 すぐ開く。


 電源を切る。


 また起動する。


『達成時、集約された破滅可能性は消滅します』


『世界の修復を実行します』


『対象者の肉体、魂、記録、関係記憶は残りません』


「能力を集めた後は、容器ごと捨てる」


 ゼノが言ったとおりだ。


 俺は破滅候補者の力を回収する器。


 いっぱいになったから、処分する。


『クエストを承認しますか』


 拒否を押す。


『回答を受理できませんでした』


「知ってた」


『再回答を確認しました』


 周囲の景色が消えた。


 大聖堂。


 倒れたグレゴール。


 薄青の聖衣を着たアリア。


 すべて白く塗りつぶされる。


 次に見えたのは、六畳間だった。


     ◇


 机の上にノートパソコンがある。


 求人サイトも、不採用通知も残っている。


 窓の外は夜。


 灯りは一つもない。


 俺が待機していた部屋。


「戻った?」


 玄関を開ける。


 外には廊下がない。


 白い空間が広がっている。


 窓を開けても同じだった。


 部屋だけが、何もない場所へ浮かんでいる。


『人格起動環境を復元しました』


 壁に文字が出る。


「人格起動?」


『真壁レン人格モデル バージョン0471』


 反復記録と同じ数字。


『基礎記憶を確認』


『現代日本』


『年齢:二十九歳』


『職業:無職』


『対人傾向:拒絶回避、過剰責任、自己犠牲』


 俺の人生が、設定項目として並ぶ。


「やめろ」


『家族記憶:復元失敗』


『友人記憶:復元失敗』


『地理情報:復元失敗』


『職歴:部分復元』


 思い出せなかったのではない。


 最初から、作られていなかった。


 連絡先が空だった理由。


 日付も地名もない回想。


 窓の外に街がなかった夜。


 俺が現代日本にいたという記憶自体が、起動用の背景だった。


「本物の真壁レンは」


 壁へ問いかける。


 映像が流れた。


 今より古いアルカディア。


 銀髪の魔女と、黒い板を持つ男がいる。


 男は俺と同じ顔だ。


 少し痩せ、右頬に傷がある。


 リリアが笑っている。


 今の彼女より感情が豊かで、子供のように男の袖を引いていた。


『初回時間軸』


『真壁レンは対象リリア・エルデとの関係保存を選択』


『ほかの破滅候補者の回収に失敗』


『世界終了』


 映像が赤く染まる。


 崩れた大地。


 空を覆うオラクルの輪。


 本物のレンが、リリアを庇って倒れている。


 胸に白い剣。


 リリアが砂時計を握る。


『戻します』


『何度目?』


 本物のレンが尋ねた。


 口元から血が流れている。


『まだ』


『回数じゃなくて』


 崩れる空を見る。


『俺がここで死ぬの、何度見た』


 リリアは答えない。


 砂時計の中身は、もう半分以上落ちている。


 二十四時間戻っても、世界が壊れる原因は残る。


 本物のレンにも分かっていた。


『次は、ほかの人を先に助けます』


『それで君が死んだら、俺は同じことをする』


『では、全員を』


『できるかもしれない』


 レンは震える手で、砂時計を包む彼女の指へ触れた。


『でも、次に会う俺へ、今の俺であることを求めないで』


『同じ人です』


『違う選択をしたら?』


『しません』


『ほら、もう決めてる』


 かすかに笑う。


『君を忘れる俺もいる。君より世界を選ぶ俺も。世界より自分を選ぶかもしれない』


『それは、あなたではありません』


『決めるのは、そいつだよ』


 リリアの指先で、銀の砂が逆巻く。


『レン』


『次の俺を、俺の代わりにしないで』


 砂時計が反転するより先に、白い剣の光が胸を貫いた。


『死亡を確認』


 映像の中のリリアが、レンの体を抱く。


「やめろ」


 声が届かない。


 彼女は泣きながら、黒い板へ手を伸ばす。


 時間を戻す。


 一度。


 二度。


 戻っても、レンは生き返らない。


 死ぬ前の人格を保存しようとする。


 破滅候補者たちの魂から、足りない部分を補う。


『真壁レン人格モデルを生成』


『構成要素』


『基礎記憶:初回個体』


『感情補助:リリア・エルデ』


『責任判断:セレスティア・ヴァン・クロイツ』


『対人接続:ミオ・ラグナ』


『生存本能:ヴァルナ・レギオン』


『目的維持:アリア・ルミナス』


「魂片は、今の彼女たちから奪ったのか」


『構成素材の出典:初回時間軸』


『各対象者の死亡時に残った魂の残響を複製』


『現時間軸の対象者に欠損はありません』


 今いる五人を削って作ったわけではない。


 だから許される、とも思えなかった。


 死んだ彼女たちの残響へ、誰も使用許可を尋ねていない。


 俺の中に、最初から全員がいた。


 だから能力を使うと、知らない記憶が流れた。


 だから彼女たちは、初対面と思えなかった。


 俺は、レンの記憶と五人の魂片から作られた人工人格。


「この体も作り物か」


『肉体構成:アルカディア現地物質』


『生命活動:自律』


『人格モデルとの定着完了』


 手首へ指を当てる。


 脈がある。


 空腹になる。傷つけば血が出る。眠れば夢を見る。


 アプリが止まっても、この体は生き続けられる。


 命まで画面の中にあるわけではない。


「偽物か」


 声にすると、部屋がひどく狭くなった。


『初回個体の人格記録を検出』


 壁に、新しい選択肢が開く。


『不足領域を破滅候補者の魂片で補完しています』


『魂片を分離し、初回個体を優先復元しますか』


 説明の下に、小さな注意書きがある。


『現在稼働中の人格は失われます』


 俺を消せば、本物のレンへ近づける。


 未来のリリアが欲しかった男を返せる。


 指が上がった。


 画面へ触れる前に、初回個体の記憶が流れ込む。


 薬草店の狭い台所。


 焦げたパンを皿へ載せ、リリアが無表情で差し出している。


『失敗しました』


『黒い部分を削れば食べられる』


 男が笑う。


『次は俺が焼くよ』


『あなたは薬草も焦がしました』


『あれは乾燥させた』


『炭になるまで?』


 リリアの口元が、ほんの少し上がる。


 俺の記憶ではない。


 それでも胸が締めつけられた。


 この男を返せば、彼女は喜ぶかもしれない。


 だが、セレスの怒りを知るのは俺だ。


 ミオが料金を倍にした理由を知るのも、ヴァルナが名前を残した夜を知るのも、朝市でアリアが初めて迷った姿を知るのも。


 本物のレンではない。


 俺が消えれば、それらを選んだ人間までいなくなる。


「復元しない」


『初回個体を放棄しますか』


「勝手に言い換えるな」


 俺は選択肢から手を離す。


「死んだ人を愛したままでいるのは、間違いじゃない。でも、そのために今いる人間を消すな」


 誰へ言っているのか分からなかった。


 未来のリリアか。


 アプリか。


 それとも、本物へ席を返せば楽になれると思った俺自身か。


『復元処理を保留しました』


「保留じゃない。俺が拒んだ」


 俺が感じた痛み。


 選んだこと。


 誰かを忘れさせ、忘れられた苦しみ。


 全部、元になった人格の反応を繰り返しただけなのか。


『自己評価を入力してください』


 アプリが尋ねる。


『真壁レン人格モデルは、本物ですか』


『はい』


『いいえ』


 二択。


 どちらも押さなかった。


「知らない」


 俺は答える。


「本物のレンと同じじゃない。違うとも証明できない」


 机へ手をつく。


「でも、リリアの記憶を消したのは俺だ。セレスの意思を無視したのも。ミオと一緒に選んだのも、ヴァルナを忘れさせたのも、アリアに止められなかったのも」


 失敗を元の人格へ返すことはできない。


「俺が経験したことまで、偽物にするな」


 選択肢が消えた。


 六畳間の壁に扉が現れる。


 開ける。


 白い空間の中に、一人の女が立っていた。


 銀色の髪。


 薄紫の瞳。


 リリア。


 だが、十九歳の姿ではない。


 少し年を重ね、長い髪の一部が白く透けている。腕には無数の赤い糸が絡み、背後へ伸びていた。


 糸の先に、壊れた世界がいくつも浮かんでいる。


「あなたを待っていました」


 アリアと同じ言葉。


 声は、俺が知るリリアより深い。


「誰だ」


「リリア・エルデ」


「俺の知ってるリリアじゃない」


「はい」


 彼女は静かにうなずく。


「私は、あなたを作ったリリアです」


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