↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界マッチングアプリで相性0%の彼女を救ったら、忘れられるたびに能力を継承して最強になりました  作者: 藤崎聖子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/31

第21章 食べられるもの、食べられないもの

第21章 食べられるもの、食べられないもの


「ヴァルナ、記憶庫へ!」


 俺は人質の子供を抱えたまま叫んだ。


「ここは」


「炎を残せるだろ!」


 避難民の前に立つ炎の壁。


 ヴァルナが離れても、すぐには消えない。


 俺たちが攻撃を耐えれば、その間に執行者を止められる。


「持つのか」


「持たせる」


「曖昧だな」


 ヴァルナが翼を広げた。


 人の背から、深紅の膜に覆われた翼が現れる。


 飛び立つ。


 教会兵の白い杖が一斉に上を向いた。


「伏せて!」


 避難民を岩陰へ押し込む。


 白い光が炎の壁へ当たる。ヴァルナが残した火は魔法を食べ、少しずつ薄くなった。


 生命共有を使う。


 逃げ遅れた老人と、足を傷めた女へ糸を伸ばす。


「痛みを分ける。受け入れて」


 二人がうなずく。


 足の痛みを俺と周囲の動ける者へ薄く分ける。


 自分だけへ集めない。


「走れる人は、歩けない人を一人ずつ!」


 避難民が動く。


 教会兵が回り込もうとする。


 俺は白い光を一度、肩へ受けた。


 敗北適応が軌道と術式の癖を読む。


 二撃目を避け、落ちていた石を投げる。


 兵士へは届かない。


 狙いは杖の前にある岩壁。


 反射した白い光が、味方の足元へ飛ぶ。兵士たちが散った。


 勝つ必要はない。


 逃げる時間を作る。


 炎の壁が消える直前、最後の避難民が谷を抜けた。


 俺も後を追う。


 背後で、記憶庫から竜の咆哮が響いた。


     ◇


 ヴァルナが記憶庫へ戻ったとき、壁の名は三分の一が消えていた。


 俺が追いつく頃には、洞窟の中で白と赤の光がぶつかっている。


 執行者の剣を、ヴァルナが口で受け止めていた。


 白い刃が、歯の間へ吸い込まれる。


「魔法は食えるか」


 執行者が言う。


「確認済み」


 空いた手から、銀の砂が広がる。


 時間が遅くなる。


 ヴァルナは砂まで吸い込もうとする。


 その一瞬、執行者の左腕から白い鎖が出た。


 翼へ巻きつく。


「同時に二つ?」


 俺はスマートフォンを開く。


 執行者の情報を読もうとする。


『管理権限により閲覧を拒否』


 名前欄だけが乱れた。


『ZERO-NODE』


『ZENO』


「ゼノ」


 呼ぶと、金属面がこちらへ向く。


「識別名への到達を確認」


「それが名前か」


「管理番号の音声表現」


「同じだろ」


「異なる」


 ゼノが鎖を引く。


 ヴァルナの翼から鱗が剥がれた。


 血が飛ぶ。


 彼女は鎖をつかみ、口元へ運ぶ。


「これは食える」


 金属ではなく、拘束の魔力を飲み込む。


 鎖が砂のように崩れた。


「記憶庫の文字を戻せ」


「未登録情報はオラクルの精度を下げる」


「我が一族の名だ」


「危険種の個体識別記録」


「名だ!」


 ヴァルナが炎を吐く。


 ゼノは逃げない。


 右手に銀の砂。左手に白い盾。


 時間を遅らせ、炎を受ける。


 盾が焼ける。


 一度目は損傷した。


 二度目。


 盾の表面が赤い炎へ適応し、熱を横へ流す。


「時間回帰。敗北適応」


 俺の能力と同じ組み合わせ。


「誰から取った」


「管理用複製」


「元の持ち主は」


「処理済み」


「殺したのか」


「質問は定義不足」


 ゼノは本当に理解していない。


 命を消すことと、人格を消すことと、記録を消すこと。どれも処理という一語にまとめている。


 俺もアプリの削除を押した。


 言葉が違うだけで、同じことをした。


「レン!」


 ヴァルナの声。


 白い剣が俺の胸へ迫る。


 避ける。


 ゼノは適応を読んで、二本目を避けた先へ置いている。


 生命共有の糸を伸ばす。


 ゼノへはつながらない。


 魂がないのか、拒絶しているのか。


 代わりにヴァルナへつなぐ。


「受け入れて!」


「何をする」


「傷を分ける」


「要らぬ」


「翼が裂けてる!」


「この程度」


「一人で持つな!」


 ヴァルナの目が細くなる。


「それを、竜へ言うか」


「最後の一頭だから言ってる」


 一瞬の沈黙。


 糸がつながる。


 翼の痛みが肩へ流れ込んだ。


 骨が裂けるような激痛。


 半分でも立っていられない。


 ヴァルナは三百年、これより重いものを一人で持ってきた。


「痛い」


「弱いな」


「知ってる」


「だが」


 ヴァルナの翼が持ち上がる。


「少し軽い」


 彼女が笑った。


 ゼノへ突進する。


 白い盾を爪で砕く。


 俺は地面の剣を拾い、脇から入る。剣術はない。セレスの記憶が腕を動かそうとする。


 任せすぎれば人格が混ざる。


 足を狙うだけにする。


 ゼノが跳ぶ。


 ヴァルナの爪を避け、記憶庫の中央へ移る。


「削除を再開」


 白い剣を床へ刺す。


 残った文字が消え始める。


 距離がある。


 俺もヴァルナも間に合わない。


「食べろ!」


「何を」


「距離!」


 叫んでから、無茶だと思った。


 距離には形がない。


 火のように口へ運べない。


「理解できぬものは食えぬ」


「ここから、あそこまで」


 俺はヴァルナの手をつかむ。


 生命共有の糸を、ゼノのいる場所へ向ける。


 糸は魂へつながらなくても、二点の間を示せる。


「この長さが距離だ」


「長さを食えば、糸が消えるだけだ」


「違う。俺たちが離れている状態を食べる」


 ヴァルナが糸を見る。


 記憶庫の名が消えていく。


「一度だけだ」


 彼女が口を開く。


 黒い穴が生まれた。


 炎も魔法もない。


 それでも、俺とゼノの間にあった空間が歪む。


 胃を引かれるような感覚。


 次の瞬間、ゼノが目の前にいた。


 移動したのではない。


 離れているという状態が、一瞬だけ消えた。


 ヴァルナの爪が、ゼノの胸へ入る。


 白い外殻が砕ける。


 床から剣が抜け、記憶の削除が止まった。


 代償はすぐに来た。


 ヴァルナの翼が根元から裂ける。


 距離が戻る勢いに、体が耐えられなかった。


 血が洞窟へ散る。


「ヴァルナ!」


 糸を強める。


 痛みが俺へ流れ込み、視界が白くなった。


 ゼノが胸の亀裂を押さえて立つ。


 金属面の一部が落ちた。


 下に人の顔はない。


 白い光の塊だけがある。


「概念干渉を確認」


 初めて、声が乱れた。


「回収容器の進化速度が想定を超過」


「その呼び方やめろ」


「お前は、未完成の回収容器だ」


「何を回収してる」


「破滅候補者の機能」


 アプリが震える。


 ゼノの言葉を遮るように、警告が表示された。


『機密情報への接触を検出』


『管理執行者との接続を切断します』


 ゼノの体が白い粒へ変わる。


「待て!」


「充填完了後、回収する」


 最後の光が消えた。


 洞窟に、俺とヴァルナだけが残る。


 壁の名は三分の一失われた。


 取り戻せない。


 ヴァルナは裂けた翼を見て、消えた文字へ触れた。


「また、減った」


 怒鳴らない。


 その声の方が、怒りより重かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。