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異世界マッチングアプリで相性0%の彼女を救ったら、忘れられるたびに能力を継承して最強になりました  作者: 藤崎聖子


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第12章 初めての反抗

最初に剣を抜いたのは、セレスだった。


 切っ先を部下ではなく、地面へ向ける。


「命令書を読め」


 副団長へ渡す。


「全員に聞こえるように」


「しかし」


「読め」


 副団長は紙を開いた。


 野営地へ、処刑命令が響く。


 騎士たちは黙って聞いていた。


 王命に従えば、団長を拘束する。抵抗されれば殺す。ケルド村への進軍は、そのまま続ける。


 分かりやすい命令だった。


 だからこそ、逃げ場がない。


「命令は以上です」


 副団長が紙を下ろす。


 セレスは周囲を見た。


「次に、私が知る事実を話す」


 偽装襲撃の点火具。監察官の書類。武器庫爆破。偽造された署名。王命の追記。


 俺が盗んだ証拠まで、隠さずに話した。


「この男は命令書を盗み、兵を傷つけた」


 俺の罪も隠してくれなかった。


「今そこを入れる?」


「事実だ」


「はい」


 手枷をはめられたまま、騎士たちの視線を受ける。


「証拠は完全ではない」


 セレスは続ける。


「王が騙されているのか、王都の誰かが加担しているのかも不明だ。村に武器がないとも断言できない」


 都合のいい話だけを選ばない。


「だが、抵抗していない者を殺せという命令には従えない」


 アプリが震えた。


 まだ、達成ではない。


 セレスの目は、部下の反応を探している。


 同意が得られなければ、撤回する余地を残した声だった。


 騎士の一人が尋ねる。


「団長命令ですか」


 セレスは口を開き、止まった。


 命令だと言えば、部下は従う。


 拒否した責任を、自分の下へ集められる。


「違う」


 彼女は答えた。


「これは、私の選択だ」


 剣を地面へ置く。


「私は王命を拒む。ケルド村の住民を守り、偽装反乱を調べる。その結果、反逆者として裁かれる覚悟もある」


 両手を空にする。


「お前たちへ同じ選択は命じない。王命へ従う者は、私を拘束しろ。去る者も止めない。残る者には、自分の意思で残れと求める」


 沈黙が落ちた。


 誰も歓声を上げない。


 英雄の演説ではなかった。


 残れば反逆者になる。家族まで疑われる。給金も地位も失う。


 最初に動いたのは、若い兵士だった。


 剣帯を外し、地面へ置く。


「俺は、残れません」


 声が震えていた。


 セレスはうなずく。


「門を開けろ。武器を持たず、北へ行け」


「申し訳ありません」


「謝るな。選んだことを恥じるな」


 兵士が走り去る。


 二人目。三人目。


 十人ほどが武器を置いた。


 セレスは誰も責めなかった。


 残った兵士たちは、置かれた剣を見ている。


 副団長が一歩前へ出た。


「私は残ります」


「理由は」


「ケルド村へ行ったことがあります。反乱の有無を、自分の目で見たい」


「承知した」


 次の隊長が続く。


「私も」


 一人ずつ、理由を口にする。


 団長への忠誠。村の子供を知っている。教会を疑う。証拠を確かめたい。


 全員が同じ正義ではない。


 それでも、自分で選んだ。


 アプリに文字が浮かぶ。


『対象者が自らの意思で命令を拒否しました』


『運命クエスト達成条件 進行中』


 まだ終わらない。


 命令を拒むだけでは、村を救えない。


「出発する」


 セレスが剣を拾う。


「ケルド村へ先行し、住民を避難させる。追撃部隊を南の谷で止める」


 俺の手枷を見る。


「外せ」


「拘束は?」


「戦闘後に再開する」


「律儀だな」


「逃げるな」


「行く場所ないよ」


「私もだ」


 ほんの一瞬、セレスが笑った。


     ◇


 ケルド村は戦う準備をしていた。


 木の柵へ弓を持った獣人が並び、街道に罠を掘っている。偽装された武器庫とは別に、本物の武器が出てきた。


 当然だった。


 虐殺命令が届いたと知れば、農民も武器を持つ。


 セレスは部隊を村の手前で止め、一人で柵へ近づいた。


「第七騎士団長、セレスティアだ。話がしたい」


 矢が飛んだ。


 肩の横をかすめ、地面へ刺さる。


「近づくな!」


 柵の上から、狼の耳を持つ男が叫ぶ。


「王国の犬と話すことはない!」


「王命を拒否した」


「信じると思うか」


「思わない。だから武器を置いて来た」


 セレスは腰の剣を外し、地面へ置く。


「一時間後、王国と教会の追撃部隊が到着する。戦えば、村は焼ける」


「降伏しろと?」


「逃げろと言っている」


 柵の上がざわめく。


「私たちが南の谷で時間を稼ぐ。子供と動けない者を先に北の森へ」


「罠かもしれない」


「そう考えていい。偵察を出せ。だが避難は始めろ」


 狼耳の男は、しばらくセレスを見下ろしていた。


「なぜ、そこまでする」


「命令が間違っていると、私が選んだからだ」


 矢を持つ手が下がる。


 村の門が開いた。


 信じたわけではない。


 時間を無駄にしない方を選んだだけだ。


 それでよかった。


     ◇


 追撃部隊は、予想より早く来た。


 王国軍二百。教会執行兵五十。


 こちらは百二十。半数は騎士団を離れ、残った者も正規軍と戦った経験はない。


 南の谷は狭い。


 左右の崖が迫り、一度に進める兵は十人ほど。数の差を減らせる。


「殺すな」


 セレスが命じる。


「騎士同士だ。盾と槍で押し返せ。負傷者は敵味方を問わず後ろへ」


 正面に盾列を組む。


 俺は後方で、負傷者を運ぶ役になった。


「戦えないのに前へ出るな」


 セレスから三度言われた。


 四度目はない。


 王国軍の角笛が鳴る。


 盾列がぶつかった。


 木と鉄が軋む。


 セレスは最前列にいた。相手の槍を盾で流し、柄を切る。倒れた兵を踏まず、足を狙って戦闘から外す。


 教会執行兵の白い光が飛ぶ。


 一度受けた攻撃だ。


 セレスの鎧表面に薄い膜が広がり、光を横へ散らす。


 完全には消せない。


 鎧の隙間から血が流れる。


 それでも前回より深く入らない。


「第二列、交代!」


 傷つきながら、相手の術式が充填される間隔を読む。


 敗北したから分かる。


 分かっても痛みはなくならない。


 王国軍が後退する。


 その奥から、大型の魔導弩が運ばれてきた。


 太い矢へ白い術式が刻まれている。


「盾では止まらない!」


 誰かが叫ぶ。


 狙いはセレスではない。


 谷の奥。


 避難中の村人たちだ。


 俺には見えた。


 アプリの地図に、赤い軌道が出ている。


 便利なナビゲーションにはしないはずのアプリが、この瞬間だけ答えを見せた。


 嫌な予感がした。


 弩が放たれる。


「伏せろ!」


 叫ぶ。


 矢は頭上を越えた。


 谷の奥で、爆発する。


 光が視界を埋めた。


 村人も騎士も、まとめて飲み込まれる。


 痛みを感じる前に、俺は死んだ。


     ◇


「第二列、交代!」


 時間が戻る。


 谷。


 盾列。


 大型弩が運ばれてくる直前。


 胸の砂時計が、一日分の砂を失った。


 同時に、頭の中から何かが抜ける。


 駅のホーム。


 通勤電車。


 毎朝立っていた場所。


 看板に書かれた駅名が、白く塗りつぶされる。


 俺が日本のどこで暮らしていたのか、また一つ分からなくなった。


「大型弩が来る! 狙いは村だ!」


 セレスが振り返る。


「なぜ分かる」


「一回、死んだ!」


 説明としては最悪だが、彼女には通じた。


「弩隊を狙え!」


 騎士の弓が一斉に上がる。


 だが距離がある。


「次の装填は」


「一発目だよ!」


「なら、私の適応はない」


 敗北適応は、受ける前には働かない。


 セレスが谷の壁を見る。


「右壁へ撃たせる」


「どうやって」


「的になる」


 彼女が盾列から飛び出す。


 白い外套が敵の視界へ入る。


 弩の向きが、セレスへ変わった。


 撃たれる直前、彼女は右の崖へ走る。


 矢が放たれた。


 セレスは避けきれない。


 左肩をかすめる。


 血と鎧の破片が飛ぶ。


 矢は崖へ刺さり、爆発した。


 岩が崩れ、谷を塞ぐ。


 追撃部隊と俺たちの間に、石の壁ができた。


「セレス!」


 駆け寄る。


 左腕が不自然な方向へ曲がっている。


「生きてるか」


「質問が雑だ」


「生きてるな」


 騎士たちが彼女を支える。


 崩落の向こうから敵兵の声がするが、すぐには越えられない。


 村人が逃げる時間は稼いだ。


『ケルド村住民の破滅を回避』


『対象者の運命変動を確認』


『運命クエストを達成しました』


 セレスの能力が、一時接続100%へ上がる。


 体の奥へ、彼女が受けた敗北の記憶が流れ込んだ。


 傷の数だけ、立ち上がり方がある。


 同時に選択画面が開く。


『彼女との関係を保存する』


『彼女の記憶を削除し、能力を永久継承する』


 セレスが俺のスマートフォンを見た。


 彼女には文字が読めない。


 それでも、何の画面か理解した。


「出たのか」


「ああ」


「今すぐ選ぶな」


「分かってる」


「お前の『分かっている』は信用できん」


 痛みで顔を白くしながら、俺の胸ぐらをつかむ。


「相談しろ。今回は、必ず」


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