↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界マッチングアプリで相性0%の彼女を救ったら、忘れられるたびに能力を継承して最強になりました  作者: 藤崎聖子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/31

第11章 正しい命令、間違った忠誠

「従うのか」


 治療天幕には俺とセレスしかいなかった。


 外では、出陣準備の音が続いている。馬のいななき。鎧の金具。荷車へ武器を積む音。


「王命だ」


「虐殺命令でも?」


「王国騎士は、命令を選ばない」


「人は選ぶ」


「選んだ結果、国が割れれば誰が死ぬ」


 セレスは机に地図を広げた。


「二十年前、三人の領主がそれぞれ正義を名乗った。内戦で十六万人が死んだ。私の父も、その一人だ」


「だから、間違った命令にも従う?」


「一人の正義より、共通の命令を優先する。それが軍だ」


「その共通の命令が、誰かに作られていても?」


 セレスの手が止まる。


 偽装襲撃。教会監察官。王都から異様に早く届いた命令書。


 誰かが反乱を起こそうとしている。


 獣人ではなく、王国側が。


「証拠を出せ」


「点火具がある」


「偽装襲撃の証拠だ。国王が関わった証拠ではない」


「虐殺命令を出した」


「反乱が事実だと報告されれば、国王は出す」


「教会に騙された被害者だから従うのか」


「言葉を慎め」


 セレスの声が低くなる。


「国王陛下を侮辱すれば、お前を拘束する」


「俺を拘束して、村を焼く?」


「民間人は避難させる」


「命令書には退路を封鎖しろとある」


「私の指揮で、犠牲を最小限にする」


 できるはずがない。


 虐殺を命じる側は、現場の良心まで計算している。セレスが逃がせば、その行動を反逆の証拠にする。従えば、ケルド村の憎悪が本物の反乱を生む。


 どちらへ進んでも、誰かの望む結末だ。


「君が拒まないと終わらない」


「アプリの命令か」


「違う。俺がそう思う」


「同じだ」


 セレスが俺を見る。


「お前は、画面に示された結末へ私を動かそうとしている。オラクルと何が違う」


 言い返せなかった。


 クエストは、セレスに命令を拒否させろと書いている。


 俺は正しいと思ったから従わせようとしている。


「違いは」


 言葉を探す。


「俺の命令にも、従わなくていいことだ」


「なら、私は王命へ従う」


「それは自分で選んだ?」


 セレスの目が揺れた。


「選ぶ必要はない」


「そこが違う」


 彼女は背を向ける。


「夜明けに出陣する。お前は拘束したまま、後方へ送る」


「村へは」


「近づけない」


 天幕を出ていった。


 入口に兵士が二人立つ。


 俺は寝台へ座り、命令書を見た。


 紙は本物だ。


 国王の印も。


 だが、文章の一部だけ色が違う。


 最後の一文。


『抵抗の有無を問わず、処分を許可する』


 ほかより、わずかに黒い。


 後から加えられた。


 セレスへ見せるべきだった。


 呼び戻し、相談し、一緒に調べるべきだ。


 頭では分かっている。


 けれど、彼女は従うと言った。


 証拠を見せても、正式な命令なら受け入れるかもしれない。


 俺が先に、命令そのものを無効にすればいい。


 一人で決めないでください。


 リリアの声が、記憶の中で蘇る。


「あとで怒られる」


 そう言って、俺は命令書を上着へ隠した。


     ◇


 天幕を抜けるのは簡単だった。


 具合が悪いと言って水を頼む。見張りの一人が離れた隙に、残った一人へ傷薬の瓶を投げた。


 リリアの薬は目に入ると痛い。


 俺は三週間前に知っていた。


「ごめん」


 目を押さえる兵士の横を抜ける。


 王命を無効にするには、伝令の原本を壊すだけでは足りない。王都の記録が残る。だが改竄を証明できれば、少なくとも出陣を止められる。


 監察官の天幕へ向かった。


 本人は拘束され、副団長の監視下にいる。天幕は封鎖されていたが、教会執行兵が使った白い杖や書類が中へ残されている。


 裏布を短剣で切る。


 短剣は見張りから盗んだ。


 犯罪歴が順調に育っている。


 天幕の中は暗い。


 机の引き出しを探る。


 王命の写し。危険度報告。ケルド村の地図。


 地図には、王国軍が到着する前の日付で武器庫の場所が記されていた。


 発見前から知っている。


 偽装した側の記録だ。


 さらに一枚。


『反乱鎮圧後、南東部の治安権限を神聖管理教会へ移管する』


 署名は、王国宰相。


 目的は土地だ。


 反乱を演出し、王国軍に住民を殺させる。騎士団の評判を落とし、教会が治安維持を引き継ぐ。


 悪役を一人倒せば終わる話ではない。


 教会、王国宰相、土地を欲しがる者たち。何人もの利害が、オラクルの判定を使って同じ方向へ進んでいる。


 書類を上着へ入れた。


 外で足音がする。


「誰かいるのか」


 副団長の声。


 逃げ道は切った裏布。


 そこへ向かった瞬間、白い糸が足へ絡んだ。


 監察官の天幕には、侵入防止術式が残っていた。


 転ぶ。


 入口の布が開き、騎士が三人入ってきた。


 先頭にセレス。


「何をしている」


「証拠を」


 上着へ手を入れる。


 騎士たちが剣を抜いた。


「動くな」


 セレスの命令。


 俺は止まった。


「証拠を見つけた。王命は改竄されてる。反乱も」


「なら、なぜ逃げた」


「君が信じないと思った」


 セレスの顔から感情が消えた。


「私へ話す前に、兵を傷つけ、封鎖された天幕へ侵入したのか」


「時間がなかった」


「あった」


 短い声が、胸へ刺さる。


「私が署名を保留して作った」


 その猶予を、俺は使った。


 彼女と考えるためではなく、一人で正解を持ち帰るために。


「拘束しろ」


 騎士が俺の腕を取る。


「待て、書類を見てくれ」


「見る。お前を拘束した後で」


 白い糸が外され、代わりに手枷をはめられた。


 セレスは俺の上着から書類を取り出す。


 一枚ずつ目を通す。


 最後まで読み、周囲の騎士へ渡した。


「本物ですか」


 副団長が聞く。


「印は本物だ。内容は調べる」


「出陣は」


「予定どおり準備を続けろ」


「証拠がある!」


 俺は声を上げた。


「まだ疑うのか」


「疑う。だから調べる」


「調べてる間に命令が始まる」


「開始させない」


「王命に従うと言った」


「お前に話す義務はない」


 セレスが俺の前へ立つ。


「私は、村へ着くまでに住民を逃がす計画を立てていた」


 言葉を失った。


「進軍経路を変え、到着を半日遅らせる。警告役を先行させる。空の村を攻撃し、損害を報告する」


「それは反逆だ」


「そうだ」


「命令に従うって」


「従うふりをする。私の兵へ、まだ話せないだけだ」


 彼女も一人で決めていた。


 俺と同じだった。


「失敗すれば、部下まで反逆者になる」


「だから、全員へ告げる前に証拠が必要だった」


「今、見つかった」


「お前が盗んだため、証拠能力を失うかもしれない」


 俺の単独行動が、彼女の計画を壊した。


「ごめん」


「謝罪で戻るなら、命令も戦争も必要ない」


 セレスは冷たく言う。


 だが手が震えていた。


「怖いのか」


「当然だ」


 初めて、迷わず認めた。


「自分で選び、失敗すれば、誰のせいにもできない。部下の命も、村人の命も、私が背負う」


「だから命令に」


「従えば、責任を命令へ渡せる」


 セレスは自分の手を見る。


「それを忠誠と呼んできた」


 俺は何も言えなかった。


 記憶削除をアプリの選択肢のせいにした俺と同じだ。


 選んだ責任から逃げるため、選択肢を作った側へ従った。


「レン」


 セレスが俺の名を呼ぶ。


「お前は、相手の意思を尊重すると言いながら、結果だけを一人で持ち帰ろうとする」


 返す言葉がない。


「私も、部下を巻き込みたくないと言いながら、何も知らせずに進路を決めた」


 彼女は副団長を見る。


「全隊長を集めろ。証拠も計画も話す」


「承知しました」


 副団長が出ていく。


「俺の枷は」


「そのままだ」


「そこは相談の余地ない?」


「ない」


 少しだけ、いつものセレスへ戻った。


 そのとき、野営地の中央で爆発が起きた。


 前夜より大きい。


 天幕の柱が揺れ、外から悲鳴が上がる。


「武器庫だ!」


 騎士が叫ぶ。


 セレスが外へ飛び出す。


 武器庫から黒煙が上がっていた。


 爆風で扉が吹き飛び、周囲の兵士が倒れている。倉庫前に、獣人の装飾品が散らばっていた。


 また偽装だ。


 だが今度は、王国兵に死者が出ている。


 教会監察官を拘束しても、計画は止まらない。


 副団長が地面から紙を拾った。


「団長」


 血の気を失った顔で差し出す。


 爆発した武器庫から出た、反乱側との密約書。


 末尾にセレスの署名がある。


 もちろん偽物だ。


 同時に、王都の伝令鳥が野営地へ下りた。


 新しい命令書を運んでいる。


『セレスティア・ヴァン・クロイツを、反逆首謀者と認定する』


『第七騎士団は直ちに身柄を拘束せよ』


『抵抗する場合、処刑を許可する』


 セレスが救おうとした部下たちが、彼女を囲んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。