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白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第四章 学年別対抗戦編
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第84話 勝者なき決勝

 翌朝。


 学院には、昨日までの賑わいが消えていた。


 対抗戦の間、歓声に包まれていた実技場は封鎖され、入口には教師が立っている。


 学院内でも立ち入りを制限された場所があり、冒険者ギルドによる調査は今も続いていた。


 そんな中。


 ユウたち八人は、講堂へ集められていた。


「痛っ……」


 椅子へ腰を下ろしたカイルが、脇腹を押さえる。


「まだ痛むの?」


 リリアが心配そうに顔を覗き込んだ。


「動かなきゃ平気だよ。昨日よりはまし」


「じゃあ動かない」


「分かってるって」


 そう答えながら姿勢を直し、また小さく顔をしかめる。


「ほら」


「……今のは座り直しただけだろ」


 そのやり取りを見ていたユウが思わず笑うと、隣から視線を感じた。


「ユウさんも、人のことを笑えませんよ」


「え?」


 エステルがじっとこちらを見ている。


「まだ痛みはあるんですよね?」


「ちょっとだけ。でも昨日よりずっと楽だよ」


「本当に?」


「本当だって」


 念を押すような視線に、ユウは苦笑した。


 治療は受けたものの、身体のあちこちにはまだ鈍い痛みが残っている。


 それでも、こうして皆で話せている。


 昨日の光景を思えば、それだけで胸の奥が軽くなった。


 少し離れた席には、アレンたち四人もいる。


 ルークの脇腹には布が巻かれ、アレンも額に包帯を巻いていた。片脚にはまだ固定具が付けられている。


 ふと目が合う。


「……ひどい決勝になったな」


 アレンが口を開いた。


「決勝って呼んでいいのかな」


 ユウが言うと、アレンは肩をすくめる。


「途中まではちゃんと戦ってただろ」


「まあ……そうだけど」


「俺は続きが気になってる」


「続き?」


「昨日の試合だよ」


 アレンは当然のように答えた。


「あのまま続いてたら、どっちが勝ったと思う?」


「ええ……?」


 ユウは困ったように眉を下げる。


 昨日の戦いを思い返した。


 アレンたちは、誰かが動くより先に次の一手が決まっているような連携をしていた。


 こちらが仕掛けても、その先を読まれる。


 けれど後半には、自分たちも相手の反応を見ながら動きを変えられるようになっていた。


「……分からないかな」


「やっぱり?」


「うん。あと一手、どっちかが通してたら決まってた気はするけど」


「俺もそう思う」


「でも、崩れてたのが僕たちかもしれないし」


「俺たちかもしれない」


 二人は顔を見合わせる。


 そこで講堂の扉が開いた。


 学院長と数人の教師が入ってくる。


 八人の表情が自然と引き締まった。


 学院長は前へ進み、全員を見渡す。


「まず、昨日の事件についてです」


 講堂が静まった。


「実技場を含む学院内の複数箇所から、本来存在しない装置が発見されています。冒険者ギルドと共同で調査を進めていますが、まだ解明できていない点も多く残っています」


 誰も口を挟まない。


「安全が確認されるまで、一部施設への立ち入りは引き続き禁止します。皆さんも教師の指示に従ってください」


「はい」


 声が重なる。


 学院長は一度頷いた。


「そして、対抗戦について」


 リリアが僅かに姿勢を正した。


 アレンも学院長を見る。


「昨日の決勝戦を再び行う予定はありません」


 静かな声が講堂に広がる。


「選手の負傷だけが理由ではありません。今回の事件によって、競技を正常に継続できる状況ではなくなりました」


 一拍置く。


「よって決勝戦は不成立とし、今年度の対抗戦では優勝者を定めません」


 誰もすぐには言葉を発さなかった。


 ここまで勝ち上がってきた。


 何度も戦って。


 四人で考えて。


 ようやく辿り着いた決勝だった。


 だから、何も感じないわけではない。


 ユウも膝の上で手を組んだ。


 悔しさはある。


 最後まで戦ってみたかった。


 けれど、その思いのすぐ隣には、別の気持ちがあった。


 リリアがいる。


 カイルがいる。


 エステルがいる。


 向こうにはアレンたちもいる。


 誰一人欠けていない。


 ユウは静かに息を吐いた。


「それから、もう一つ」


 学院長が続ける。


「魔物が現れた直後、皆さん八人が周囲の生徒を逃がしながら戦ったことについて、学院から礼を言わせてください」


「え……」


 リリアが目を瞬く。


「危険な状況の中で、自分たちだけ逃げることもできたはずです。それでも皆さんは、ほかの生徒を守るために残りました」


 学院長が八人を順に見る。


「試合の結果とは関係ありません。その行動は、学院として正式に評価します」


 ユウは隣の三人を見る。


 カイルと目が合った。


 リリアもこちらを見る。


 エステルが柔らかく微笑んだ。


 ユウも、小さく笑い返した。


     ◇


 話が終わり、講堂を出る。


 リリアたちが先を歩いていく中、背後から声がした。


「ユウ」


 振り返ると、アレンが立っていた。


「脚、大丈夫?」


「これくらいならな」


「無理したら怒られるよ」


「お前にだけは言われたくない」


「え?」


「昨日、一番無茶してただろ」


「……そうかな」


「そうだよ」


 アレンが呆れたように笑う。


 そして、ふと表情を変えた。


「さっきの決勝の話」


「うん」


「優勝者なしで終わるのは仕方ないと思う」


「僕も」


「でも」


 アレンがユウを見る。


「お前たちとの勝負まで、これで終わったことにはしたくない」


 ユウは一度目を瞬いた。


 すぐに、その意味が分かる。


「……僕も、最後までやってみたかった」


「だろ?」


「うん」


 ユウは笑った。


「じゃあ、またやろうよ」


「また?」


「今度はちゃんと、最後まで」


 アレンが一瞬目を丸くする。


 やがて、その口元が上がった。


「ああ」


 右手を差し出す。


「次は勝つ」


 ユウも手を伸ばした。


「僕たちも負けないよ」


 二人の手が重なる。


「ユウー!」


 廊下の先から、リリアの声が飛んできた。


「何してるの? 置いてくよ!」


「あ、待って!」


 ユウが手を離し、慌てて駆け出そうとする。


「ユウさん!」


「え?」


「走ったら駄目です!」


 エステルの声に、足が止まる。


「ご、ごめん!」


「昨日あれだけ怪我したんだから、今日は大人しくしとけよ」


 カイルが苦笑する。


「カイルに言われたくないよ」


「俺は走ってないだろ」


「さっき座っただけで痛がってたじゃん」


「それは……まあ、そうだけど」


 リリアが吹き出した。


 エステルも口元を押さえて笑う。


 ユウは一度だけ振り返った。


 アレンがこちらへ片手を上げている。


 ユウも手を上げ返し、三人のもとへ歩みを速める。


「ユウ、ゆっくりでいいって」


「う、うん!」

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