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白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第四章 学年別対抗戦編
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第82話 フードの調査員

 学院長たちが実技場へ戻った頃には、すでに辺りが薄暗くなり始めていた。


 冒険者ギルドから来た者たちが、倒れた魔物を一体ずつ調べている。


 教師たちは学院内の警戒を続けながら、必要な情報を伝えていた。


 その中に、深くフードを被った女性がいた。


「まず、あれから見せてください」


 静かな声で告げる。


 示した先には、巨大なキメラの亡骸があった。


「こちらです」


 学院長が案内する。


 近くにいた教師が、不思議そうに二人を見る。


 ギルドの職員なら、ほかにもいる。


 魔物の鑑定を担当する者も来ている。


 それなのに学院長は、最初からこの女性をキメラのもとへ連れてきていた。


「学院長。この方に任せてよろしいのですか?」


「ええ」


 迷いのない返事だった。


「今回の調査では、彼女の判断を優先してください」


「……分かりました」


 それ以上は尋ねなかった。


 女性は何も言わず、キメラの前へしゃがみ込む。


 灰銀色の髪が、フードの奥から僅かにこぼれた。


 まず鱗。


 次に黒い体毛。


 角。


 前脚。


 最後に胸元へ手をかざす。


 直接触れてはいない。


 それでも、何かを確かめるように長く沈黙していた。


「どうですか?」


 教師が尋ねる。


「……少なく見ても、Aランク相当」


 即答だった。


「やはり……」


「身体能力だけなら、それ以上の可能性もあります」


「それ以上?」


 教師の顔が強張る。


 女性は答えず、亡骸へ視線を戻した。


「先生方は、この個体に何度か攻撃を?」


「はい。炎や風、土属性も使いました。ただ、ほとんど効きませんでした」


「でしょうね」


 あまりにも自然な返事だった。


 教師が言葉を詰まらせる。


「……分かるのですか?」


「残っている痕を見れば」


 女性の指先が、焦げた体毛の近くで止まる。


「ここは炎によるものね」


 別の傷へ指先を移す。


「こちらは強い衝撃を受けた跡。でも、どちらも致命傷ではありません」


「では……」


「先生方の攻撃痕の中に、致命傷になったものはありません」


 女性が立ち上がった。


 改めて、巨体全体を見つめる。


「死因は別。少なくとも、何度も削られて倒れた個体ではないわ」


 周囲の空気が変わった。


「一撃だったと?」


「可能性は高いでしょうね」


 学院長が口を開く。


「現場にいた者の証言では、強烈な白い光が一度だけ発生しています」


「白い光……」


 フードの奥で、女性の視線が僅かに細くなった。


「発生源は?」


「不明です」


「誰も見ていない?」


「あまりにも眩しく、全員が視界を奪われました」


 女性は再び黙った。


 やがて、小さく息を吐く。


「……そう」


「何か心当たりが?」


「いいえ」


 短く答える。


 そしてもう一度、キメラを見る。


「ただ――これほどの個体を、一撃で倒したのなら」


 そこで言葉が止まった。


「なら?」


「普通ではないでしょうね」


 それ以上は語らなかった。


     ◇


 キメラの確認が終わると、次はほかの魔物へ移った。


 狼に似た個体。


 大型の蜥蜴を思わせる個体。


 鋭い爪を持つ四足の獣。


 姿そのものは、それぞれ一種類の魔物として形を保っている。


 キメラのように、異なる生物の特徴が混ざっているわけではない。


 それでも。


「……こちらも変ね」


 フードの女性が一頭の傍らにしゃがみ込んだ。


「何がですか?」


「魔力の巡り方」


 学院長が視線を向ける。


「普通の魔獣とは違うのですか?」


「ええ」


 女性は亡骸へ手をかざした。


「身体の中を巡る魔力と、この身体そのものがうまく噛み合っていない」


 近くで調べていたギルド職員も頷く。


「こちらでも同じ反応が出ています。通常の魔獣に比べて、魔力の流れにかなり偏りがあります」


「突然変異という可能性は?」


 教師が尋ねた。


「一体だけなら考えます」


 女性が答える。


 周囲に横たわる魔物たちへ目を向ける。


「でも、同じ場所でこれだけの数が一斉に現れた」


 狼に似た個体。


 蜥蜴に似た個体。


 そのどれにも、似たような魔力の偏りが残っている。


「偶然と考えるには、不自然すぎます」


 学院長の表情が険しくなった。


「つまり、人為的な可能性があると?」


「まだ断定はしません」


 女性は静かに答える。


「でも、調べる価値は十分にあります」


     ◇


 その後。


 事件の中心にいた生徒たちにも、簡単な聞き取りが行われた。


 治療を終えた八人は、救護所の一角に集まっている。


「最初に魔物の異常に気づいたのは?」


 ギルド職員が尋ねる。


 アレンがユウへ目を向けた。


「ユウだったと思います」


「僕?」


「魔力がおかしいって言ってただろ」


「あ……うん」


 その時。


 救護所から離れた場所にいたフードの女性が振り向いた。


「あなた」


「はい?」


 静かな声に、ユウが顔を上げる。


「何を感じたの?」


「えっと……」


 言葉を探す。


「うまく説明できないんですけど……魔力が身体にちゃんと馴染んでない感じがしました」


「馴染んでいない?」


「はい。魔力と身体が、どこか噛み合ってないような……」


 女性は黙ったまま見つめている。


 顔は影に隠れていて、表情までは分からない。


「それだけ?」


「はい。詳しいことまでは……」


「そう」


 一拍置いて。


「よく気づいたわね」


「……たまたまです」


「たまたま、ね」


 それ以上、追及はしなかった。


 女性は再びギルド職員の方へ戻っていく。


 ユウはその背中をしばらく目で追った。


「知り合い?」


 リリアが小声で聞く。


「ううん。初めて会った人」


「なんか不思議な人だね」


「うん……」


 それだけだった。


 名前すら知らない。


 なぜ学院長があの女性の判断を重く見ているのかも分からない。


 けれど、その姿は妙に記憶に残った。


     ◇


 調査が続く中。


 実技場の端を確認していた教師が、突然足を止めた。


「……これは?」


 大会用の器具と見分けがつかない箱が、一つ、崩れた土の間に転がっていた。


 外側の一部が壊れ、中が露出している。


「先生?」


 近くにいたギルド職員が寄ってくる。


「触らないでください」


 二人がしゃがみ込む。


 壊れた隙間の奥。


 そこには。


 大会用の備品には必要のないはずの、細かな術式が刻み込まれていた。


「……何だ、これは」


 その声に、フードの女性が振り返った。

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