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白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第四章 学年別対抗戦編
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第81話 白い光のあと

 実技場には、まだ土煙が漂っていた。


 巨大なキメラは動かない。


 教師たちはその周囲を警戒しながら、残っていた異形の魔物へ向かっていた。


「右側に二体!」


「観客席には近づけるな!」


 声が飛び交う。


 炎が走り、風が獣の身体を吹き飛ばす。


 地面から隆起した土壁が、逃げる生徒たちと魔物の間を隔てた。


 もう決勝ではない。


 歓声もない。


 聞こえるのは、教師たちの指示と、避難する生徒たちの足音だけだった。


     ◇


「ここに座って」


「でも、まだ――」


「座ってください」


「……はい」


 治癒を担当する教師に強く言われ、ユウは椅子へ腰を下ろした。


 実技場から離れた場所には、急ごしらえの救護所が作られていた。


 負傷した生徒たちが次々と運ばれ、治癒魔法や応急処置を受けている。


 ユウもひと通りの処置を受けていた。


 それでも。


 腕も、肩も、脚も。


 動かすたびに鈍い痛みが残っている。


 けれど、それよりも気になることがあった。


 視線を巡らせる。


 カイル。


 リリア。


 エステル。


 近くには、アレンたちもいた。


 ルークは脇腹を固定され、治癒魔法を受けている。


 セリアとディンも、そのそばで処置を受けていた。


 全員いる。


 それを確かめて、ようやく息を吐いた。


「……よかった」


「何が?」


 隣から声がした。


 アレンだった。


 額には包帯が巻かれ、片脚は固定されている。


 それでも意識ははっきりしていた。


「みんな、ちゃんといるから」


「……うん」


 アレンも仲間たちへ目を向ける。


「本当にね」


 ついさっきまで、二人は決勝で向かい合っていた。


 どちらが先に一手を通すのか。


 誰が勝つのか。


 それしか考えていなかった。


 なのに今では、その時間がずっと前のことのように感じられる。


「ユウさん」


 エステルが近づいてきた。


「動いて大丈夫なんですか?」


「僕は座ってるだけだよ」


「それならいいですけど……」


 じっと見られる。


「本当に、無理はしないでくださいね」


「うん」


「絶対ですよ」


「……うん」


 その横からリリアも顔を出した。


「ほんとに、無茶しすぎ」


「ごめん」


「謝ってほしいわけじゃないけど……」


 途中で言葉を止める。


 リリアはユウの顔を見て、それから小さく笑った。


「でも……助かったね」


「うん」


 それだけで十分だった。


     ◇


 最後まで残っていた魔物が倒れたのは、それから間もなくのことだった。


「周囲を再確認しろ!」


「一体も外へ出すな!」


 教師たちはすぐには警戒を解かなかった。


 学院の敷地内。


 建物の陰。


 観客席の下。


 魔物が残っていないか、一つずつ確認していく。


 やがて、学院長が実技場へ入ってきた。


 周囲にいた教師たちの姿勢が変わる。


「学院長」


 呼びかけには答えず、まず現場を見渡した。


 壊れた試合場。


 負傷した生徒。


 倒れた異形の魔物たち。


 そして。


 中央に横たわる巨大なキメラ。


 僅かな沈黙のあと、低い声で告げる。


「生徒の救護を最優先にしてください」


「はい」


「学院内の出入りも制限します。安全が確認できるまで、誰も勝手に外へ出さないように」


 教師たちが頷く。


「それから、冒険者ギルドへ緊急要請を」


「すでに連絡を送っています」


「分かりました」


 最後に、中央のキメラへ目を向ける。


「……あれを倒した者は?」


 教師たちの間に沈黙が落ちる。


「分かりません」


 一人が答えた。


「突然、白い光が実技場全体を覆いました。あまりにもまぶしく……誰も発生した瞬間を見ていません」


「魔法の種類は?」


「それも……」


 教師は首を横に振った。


「確認できませんでした」


 僅かに表情が険しくなる。


「Aランク相当と判断した個体です」


「それが、一撃で?」


「……はい」


 しばらく誰も口を開かなかった。


 それ以上は追及せず、再びキメラへ目を向ける。


「死骸には触れないでください。ほかの魔物も同様です」


「ギルドが到着するまで保存を?」


「ええ。専門の者に見てもらいましょう」


 そして。


「対抗戦は中止します」


 近くにいた教師が顔を上げた。


「決勝については?」


「今は結果を決める状況ではありません。正式な扱いは、事件の確認が済んでから生徒たちへ伝えます」


「分かりました」


 歓声の中で終わるはずだった対抗戦。


 その四日目は、誰も予想していなかった形で幕を閉じることになった。


     ◇


 日が傾き始めた頃。


 学院の正門前に、何人もの人影が現れた。


 革鎧。


 長剣。


 杖。


 装備はそれぞれ違う。


 胸元には、冒険者ギルドの印。


「ギルドから来た方々です!」


 門を守っていた教師が声を上げる。


 学院長が自ら正門へ向かった。


 先頭には数名の冒険者と職員。


 一団の後方を、一人の女性が歩いていた。


 深く被ったフード。


 顔の大半は影に隠れている。


 その隙間から、灰銀色の髪が僅かに覗いていた。


 腰には一本の長剣。


 装飾らしいものはほとんどない。


 一見すれば、ほかの冒険者と大きな違いはなかった。


「学院長、あの方も調査の方ですか?」


「……ええ」


 返事は短かった。


 けれど、その視線が一瞬だけフードの女性に留まる。


 女性もそれに気づいたらしい。


 何も言わず、僅かに頭を下げる。


 それに応じるように、小さく頷いた。


「お待ちしていました」


「状況は?」


 静かな女性の声だった。


「中で説明します」


 それだけ。


 名乗りもしない。


 教師たちも、それ以上は尋ねなかった。


 フードの女性は学院の奥へ視線を向ける。


 その先には。


 まだ誰にも説明できていない、巨大なキメラの亡骸が残されていた。

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