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白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第四章 学年別対抗戦編
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第79話 異形魔獣キメラ

 魔法陣の中心で、異形はついにその全貌を現した。


 周囲に残っていた光が消えていく。


 代わりにそこへ立っていたのは、一体の魔物だった。


 四つ脚で地面を踏みしめている。


 けれど、その姿はどの獣にも当てはまらない。


 獅子を思わせる大きな胴体。


 右肩から首元にかけては黒い体毛に覆われているのに、左半身には暗い鱗が重なっていた。


 頭部から伸びた二本の角も、左右で形が違う。


 背中には翼を思わせる骨格。


 長い尾の先には、硬い棘が並んでいる。


 異なる生き物を無理に組み合わせ、そのまま巨大にしたような姿だった。


「……なんだ、あれ……」


 カイルの声が低くなる。


 異形が口を開いた。


 並んだ牙の奥から、白い息が漏れる。


 教師の一人が顔色を変えた。


「キメラ……?」


「知ってるんですか?」


 アレンが聞く。


「複数の生物の特徴を持つ魔獣を、そう呼ぶことがある。だが……」


 教師の目が険しくなる。


「こんなものは見たことがない」


 キメラが前脚を地面へ下ろした。


 ズン、と試合場が揺れる。


 ただ一歩、進んだだけ。


 それだけで、八人の表情が強張った。


「全員下がれ!」


 教師が叫ぶ。


「これはお前たちが戦う相手じゃない!」


 別の教師たちも次々と集まってくる。


「生徒の避難を続けろ! こいつは俺たちで――」


 言葉が終わる前だった。


 次の瞬間、巨体が掻き消えたように見えた。


「え――」


 教師たちの脇を抜けようとするキメラの進路へ、一人が割り込んだ。


 轟音。


 振るわれた前脚に弾かれ、教師の身体が地面を転がった。


「先生!」


 リリアが声を上げる。


「来るな!」


 倒れた教師が叫んだ。


「逃げろ!」


 その間にも、別の教師が詠唱を終える。


 放たれた炎がキメラの横腹へ直撃した。


 爆ぜた火が巨体を包む。


「やった……?」


 ルークが呟く。


 だが。


 炎の中から、前脚が現れた。


「っ!」


 キメラが大きく振り払う。


 巻き起こった風圧に、炎が散った。


 黒い体毛が僅かに焦げている。


 それだけだった。


「嘘だろ……」


 教師の顔が強張る。


 もう一人が低く言った。


「この耐久力……」


 わずかな沈黙。


「少なくとも、Aランク相当だ」


「A……?」


 リリアの顔から血の気が引く。


 これまで依頼で向き合ってきた魔物とは、まるで違う。


 ユウにも分かった。


 戦ってはいけない。


 勝ち目を考えるような相手ではない。


「みんな、下がろう」


 ユウが言う。


 アレンもすぐに頷いた。


「うん。先生たちの邪魔になる」


「走れる?」


「大丈夫!」


 八人が避難路へ向かう。


 その時。


 キメラの頭が動いた。


 濁った灰色の眼。


 その視線が、まっすぐ八人を捉える。


 ユウの背筋に冷たいものが走った。


「……まずい」


「ユウ?」


「走って!」


 直後。


 地面が砕けた。


 キメラが迫る。


「散れ!」


 アレンが叫んだ。


 八人が左右へ跳ぶ。


 巨大な前脚が、さっきまで彼らのいた場所を叩き潰した。


 土が弾ける。


「なんでこっちに!」


 ルークが叫ぶ。


「こいつ!」


 教師たちの魔法が背後から降り注いだ。


 一発。


 二発。


 三発。


 キメラの身体へ次々と直撃する。


 それでも。


 異形は振り返らない。


「こっちを見ろ!」


 教師の叫びにも反応しなかった。


 再び、八人へ向かって走り出す。


「狙われてる……?」


 エステルが息を呑む。


「理由はあと!」


 アレンが叫ぶ。


「今は逃げる!」


 だが、速い。


 巨体からは想像できないほどの速度だった。


「リリア!」


「うん!」


「風よ、背を押して――《追風》!」


 吹きつけた風が八人の背を押す。


 一気に距離が開く。


 それでも足りない。


 キメラが追いついた。


「来る!」


 ユウが振り返る。


 キメラが長い尾を横薙ぎに振るった。


「集いし光よ、我らを包み、守りの環となれ――《光護陣》!」


 八人を包むように、光の守りが広がった。


 激突。


「うっ……!」


 光の守りが大きく歪んだ。


 ほんの僅かに耐える。


 そして。


 砕け散った。


「え……?」


 ユウの目が見開かれる。


 衝撃が身体を突き抜けた。


 八人まとめて吹き飛ばされる。


「ぐっ!」


 地面へ叩きつけられた。


 息が詰まる。


 ユウはすぐに起き上がろうとした。


 だが、身体に力が入らない。


「みんな……!」


 どうにか顔を上げる。


 カイルが倒れている。


 リリアも。


 エステルも。


 少し離れた場所では、アレンが片膝をつき、ルークたちも苦しそうに身体を起こそうとしていた。


「ユウ……逃げろ……!」


 アレンが掠れた声を出す。


 キメラが近づいてくる。


 一歩。


 また一歩。


 教師たちはその背後から攻撃を続けていた。


 それでも、振り向かない。


「なぜだ……!」


 教師の一人が叫ぶ。


「どうして生徒だけを狙う!」


 答えなど返らない。


 キメラは、倒れた八人だけを見ていた。


 ユウは地面へ手をつき、どうにか身体を起こす。


「……まだ」


 立たなければ。


 自分の後ろには、まだ動けない仲間がいる。


 ここで退けば、次に狙われるのはみんなだ。


 だから。


「まだ……終わってない」


 震える脚で、ユウは立ち上がった。


 その正面で。


 キメラの裂けた口元が――わずかに吊り上がった。


 それはまるで、笑っているように見えた。


これで大丈夫でしょうか?

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