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白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第四章 学年別対抗戦編
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第78話 異形の群れ

 咆哮の余韻が残る中、土煙の向こうで何かが動いた。


「何……?」


 リリアが杖を握りしめる。


 一つではない。


 低い影。


 細長い影。


 四つ脚で地面を掻くもの。


 煙の奥から、次々と輪郭が浮かび上がっていく。


「全員、下がれ!」


 教師の声が飛んだ。


「試合は中止だ! 観客席の生徒は出口へ! 押すな! 慌てず避難しろ!」


 ざわめきが一気に悲鳴へ変わる。


 ユウたちも後ろへ下がろうとした。


 だが。


 土煙の中から、一頭が飛び出した。


「っ!」


 灰色の獣だった。


 狼に似ている。


 体つきだけを見れば、これまでに見た狼型の魔物と大きくは変わらない。


 それでもユウは、その内側に妙な違和感を覚えた。


「……狼型の魔物、ですよね?」


 エステルが呟く。


「うん。でも……」


 獣が地面を蹴った。


 向かった先は、逃げ遅れていた生徒たち。


「危ない!」


 ユウが《光障壁》を唱えた。


 生徒たちの前へ光の板が立ち上がった。


 獣の身体が激突する。


 鈍い音。


 障壁が大きく揺れた。


「今だ!」


 アレンが駆ける。


 カイルも同時に踏み込んだ。


「炎よ、刃に宿れ――《火纏》!」


 二本の木剣が左右から獣へ打ち込まれる。


 獣が大きくよろめいた。


「離れて!」


 リリアが生徒たちへ叫ぶ。


「早く先生たちの方へ!」


「う、うん!」


 生徒たちが走り出す。


 だが、その間にも土煙の向こうから別の影が現れた。


「まだいる!」


 ルークが振り返る。


 一頭。


 二頭。


 さらに三頭。


 形はそれぞれ違っていた。


 灰色の狼に似たもの。


 地面を這う、大型の蜥蜴を思わせるもの。


 厚い毛皮と鋭い爪を持つ四足の獣。


 一頭ずつ見れば、どれも一種類の魔物として形を保っている。


 それなのに。


「普通の魔物と……何か違う」


 ユウが呟いた。


「分かるの?」


 アレンが聞く。


「うまく言えないけど……身体の中を流れてる魔力が、ちゃんと馴染んでない感じがする」


「馴染んでない?」


「うん。魔力は流れてるんだけど……どこか噛み合ってないような……」


 詳しいことまでは分からない。


 ただ、身体とその内側を巡る魔力の間に、僅かなずれがある。


 そんな違和感だけは、はっきりとあった。


「全員、決勝区域から離れろ!」


 別の教師が駆け込んでくる。


 その手から放たれた魔法が、一頭を横から吹き飛ばした。


「生徒は戦うな! 避難を優先しろ!」


「はい!」


 アレンが返す。


 けれど。


「きゃあっ!」


 観客席の近くで悲鳴が上がった。


 一頭が教師たちの間を抜け、生徒の群れへ向かっている。


「ルーク!」


「分かってる!」


「雷よ、その身を駆けよ――《雷歩》!」


 雷光が走る。


 ルークが獣の前へ回り込んだ。


「こっちだ!」


 獣の爪が振り下ろされる。


 ルークが横へ跳ぶ。


 そこへ。


「水よ、弾けて押し返せ――《水弾》!」


 ディンの魔法が獣の顔を打った。


 頭が横へ振られる。


「エステル!」


「はい!」


「氷よ、足場を閉ざせ――《氷床》!」


 獣の足元が凍りつく。


 動きが鈍った。


「今!」


 セリアが杖を向けた。


「大地よ、我が意に応え、ここに隆起して壁を成せ――《土壁》!」


 地面から土の壁が立ち上がる。


 獣と逃げる生徒たちの間を完全に遮った。


「こっちです!」


 エステルが避難路を示す。


 リリアも周囲を見渡した。


「まだ残ってる人いる?」


「向こうに二人!」


 ユウが指を差す。


「僕が行く!」


「ユウ、待って!」


 アレンが後を追った。


     ◇


 決勝の八人は、逃げ遅れた生徒たちを庇いながら、少しずつ避難路へ下がっていた。


 もう二つの班には分かれていない。


 誰が誰の相手だったか。


 どちらが勝ちかけていたのか。


 そんなことを考えている者はいなかった。


「右!」


 ユウの声に、アレンが身体を捻る。


 爪が空を切った。


「カイル!」


「おう!」


 炎を纏った木剣が獣の脇腹を打つ。


 そこへルークが飛び込み、反対側から蹴りを入れた。


「重いな、こいつ!」


「一頭なら、みんなで抑えられる!」


 アレンが言う。


 その通りだった。


 一頭一頭は強い。


 それでも、八人で連携すれば食い止められる。


 だが、周囲にはまだ何頭もの魔物が残っていた。


 教師たちも次々と前へ出て、より大きな個体を引き受けている。


 避難は進んでいたが、まだ全員が安全な場所へ移れたわけではない。


「このまま……」


 リリアが息を整える。


 その時。


 ユウが顔を上げた。


「……待って」


「どうした?」


 カイルが聞く。


 答えるより先に、足元から重い振動が伝わった。


 先ほどまでとは違う、低く重い振動だった。


 試合場の中央で、魔法陣の光がまだ消えていない。


 むしろ、散らばっていた光の筋が中心へ収束し始めていた。


「先生!」


 ユウが叫ぶ。


「あそこ、まだ終わってない!」


 教師の一人が振り返る。


「何……?」


 魔法陣の中央。


 その上空で、濃密な魔力が新たな輪郭を作り始めていた。


 最初に現れたのは、巨大な前脚。


 次に、歪な胴体。


 その背から、異なる獣のものとしか思えない骨格がせり出していく。


 今度は、形そのものが一つの生き物としてまとまっていなかった。


 いくつもの生き物を、無理やり一つへ押し込めている。


「……何だよ、あれ」


 ルークの声から、さっきまでの勢いが消えた。


 周囲で魔物を押さえていた教師たちの表情も変わった。


 その中の一人が、低く告げた。


「全員……離れろ」


 誰もすぐには返事をしなかった。


 巨大な輪郭が、さらに鮮明になっていく。


「聞こえないのか!」


 教師が振り返り、声を張り上げた。


「生徒は全員、今すぐ離れろ!」


 ユウは中央を見つめた。


 まだ完全には形になっていない。


 それなのに。


 肌が、危険だと告げていた。


 先ほどまでの魔物とは、明らかに桁が違う。


 魔法陣の中心で、巨大な異形がゆっくりと頭を持ち上げ始めた。

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