第77話 崩れた決勝
先に踏み込んだのはアレンだった。
「来るよ!」
ユウが声を上げる。
同時に、ルークが右へ。
ディンが左へ。
セリアはその場に残った。
四人が一気に広がる。
「また分ける気か?」
カイルが木剣を構え直す。
「違う」
ユウはアレンを見る。
真正面。
こちらへ真っ直ぐ走ってくる。
「今度は僕だ」
「正解」
アレンの木剣が振り抜かれた。
ユウは《光障壁》を唱える。
斜めに差し込んだ光の板へ刃が当たり、軌道が外れた。
だが、アレンは止まらない。
一歩。
さらに一歩。
逸らされた勢いを、そのまま身体の回転へ変える。
「っ!」
次の一撃が横から迫る。
「ユウさん!」
エステルが《光障壁》を唱える。
重ねられた光の板が、アレンの木剣を弾いた。
「ありがとう!」
「はい!」
そこへカイルが踏み込む。
「今度はこっちだ!」
炎を纏った木剣がアレンへ迫る。
しかし。
「水よ、弾けて押し返せ――《水弾》!」
横から飛んだ水が、カイルの肩を打った。
「うおっ!」
身体が横へ流れる。
ディンだ。
「アレン!」
「分かってる!」
体勢を崩したカイルへ、アレンが向きを変える。
「させない!」
リリアが杖を振る。
「巡る風よ、我が意に従い、ここに集いて弾を成せ――《風弾》!」
アレンは横へ跳んだ。
風の弾が地面を叩く。
「カイル!」
「助かった!」
互いに攻める。
互いに助ける。
一方が仕掛ければ、もう一方がその先を読んで返す。
さっきまでとは違う。
考える時間そのものが、どんどん短くなっていた。
◇
「雷よ、その身を駆けよ――《雷歩》!」
ルークが駆ける。
「エステル!」
「見えています!」
「氷よ、足場を閉ざせ――《氷床》!」
白い氷が地面を走った。
だが、ルークはその手前で跳ぶ。
空中に魔力板。
足を置く。
さらにもう一枚。
「二枚!?」
リリアが目を見開いた。
「これなら!」
ルークが二枚目を蹴る。
氷の上を飛び越え、そのままエステルへ迫った。
「集いし光よ、我が意に従い、ここに巡りて隔てとなれ――《光障壁》!」
エステルの前に光が立つ。
ルークは拳を振り抜かなかった。
直前で身体を捻る。
「そっちか!」
狙いはエステルではない。
その横にいたリリア。
「えっ!」
「リリア!」
ユウが障壁を出そうとする。
だが。
「大地よ、道を分かて――《岩路》!」
地面が持ち上がった。
ユウとリリアの間を岩が遮る。
「セリア……!」
「今!」
ルークが地面を蹴った。
リリアへ手が伸びる。
「まだだよ!」
リリアも退かなかった。
「水よ、薄き壁となれ――《水膜》!」
薄い水の膜が目の前へ広がる。
ルークの腕が水へ入った途端、勢いが僅かに落ちた。
「くっ!」
その隙にリリアが身を沈める。
頭上を腕が通り抜けた。
「危なかった……!」
「逃がさない!」
ルークが振り返る。
その時。
「ルーク、下!」
アレンの声。
「え?」
その間に岩の端へ回り込んでいたユウが、《光障壁》を唱える。
ルークの足元へ、斜めの光の板が現れた。
「わっ!」
踏み込んだ足が光の板へ乗り上げる。
体勢が崩れた。
「リリア!」
「うん!」
リリアが杖を向ける。
今なら。
場外へ押し出せる。
だが。
「させない!」
セリアが詠唱を始める。
同時にディンも杖を上げた。
カイルが二人へ走る。
アレンもルークの方へ向きを変える。
八人の動きが、一つの攻防へ重なっていく。
誰が先に届くか。
あと一手。
その一手で、決勝が大きく動く。
◇
その時だった。
カチッ。
ごく小さな音がした。
誰にも聞こえないほどの音。
実技場の片隅に置かれた箱。
その内側で、刻まれた術式の隅々まで淡い光が走った。
「……え?」
ユウの足元が震えた。
リリアが杖を止める。
「今の……何?」
試合場が、もう一度揺れた。
今度は誰にでも分かるほど大きい。
「試合を止めろ!」
教師の声が響いた。
八人の動きが止まる。
観客席からざわめきが広がった。
「地震……?」
「いや……」
アレンが周囲を見回す。
違う。
異変は足元だけではない。
空気そのものが、妙に重い。
実技場の四方。
大会用の器具に紛れていた箱から、細い光が足元へ伸びていた。
一つ。
二つ。
さらに、その向こうでも。
「何だ、あれ……?」
カイルが呟く。
光の筋は地表を這うように伸びていく。
離れて置かれていた箱と箱の間を結びながら。
「全員、試合区域から離れろ!」
教師が叫ぶ。
「急げ!」
その声と同時だった。
実技場全体に、無数の光の線が浮かび上がった。
「魔法陣……?」
エステルが息を呑む。
だが、ユウの知るどの術式とも違う。
線が幾重にも重なり、円を描く。
その中心は――。
「ここ……?」
リリアが足元を見る。
決勝戦の試合区域。
八人が立っている、その場所だった。
ユウの表情が変わる。
「みんな、離れて!」
その直後。
魔法陣を形作る線が、一斉に光を強めた。
足元から激しい衝撃が走る。
「っ!」
八人の身体が大きく揺さぶられた。
観客席から悲鳴が上がる。
試合場を覆っていた土が弾け飛び、濃い土煙が舞い上がった。
そして。
その向こうから。
聞き覚えのない獣の咆哮が響いた。
決勝戦は――そこで終わった。




