第67話 三回戦
翌朝。
実技場へ入ったユウは、最初に掲示板へ目を向けた。
「昨日より、ずいぶん減ったね」
勝ち残った班の名前だけが、前日より広く間を空けて並んでいる。
「そりゃ二回戦まで終わったからな」
カイルが肩を回しながら答えた。
リリアは名前を追い、すぐに二つを見つける。
「アレンたちも、エリオたちも残ってる」
「本当だ」
ユウも確認してから、自分たちの対戦相手へ視線を移す。
ダリオ・フェルト班。
名前に覚えはあったが、これまで試合をじっくり観戦したことはない。
「昨日の二回戦まで勝ち残った班です。油断はできませんね」
エステルの言葉に、三人が頷いた。
◇
試合区域へ入ると、向かい側の四人もすでに準備を始めていた。
前に木剣を持ったダリオ。
後ろには杖を持ったミレナ、セナ、ハルが並ぶ。
開始前、ダリオがユウを見て笑った。
「昨日の二回戦、見てたよ」
「僕たちの試合ですか?」
「ああ。光魔法で周りを助けてただろ」
悪意のある言い方ではなかった。
「だから、自由にさせない方がいいって話してたんだ」
「……僕を?」
「そういうこと。よろしく」
「はい。よろしくお願いします」
ユウも素直に答えた。
教師が八人を見回す。
「双方、準備はいいですね」
杖と木剣が構えられる。
「――始め!」
最初に動いたのはミレナだった。
「大地よ、我が意に応え、ここに隆起して壁を成せ――《土壁》!」
地面が揺れ、ユウと仲間たちを隔てるように土の壁がせり上がる。
「ユウ!」
リリアの声が壁の向こうから聞こえた。
直後、右側からセナの詠唱が響く。
「巡る風よ、我が意に従い、ここに集いて前へ押し流せ――《風押》!」
「っ!」
強い風が身体へぶつかった。
踏ん張ったものの、数歩横へ押し流される。
その先へダリオが走り込んできた。
最初から狙いは決まっていたらしい。
振り下ろされた木剣を見て、すぐに《光障壁》を唱える。
小さな光の壁が刃を受け止めた。
「やっぱり速いな」
ダリオは止まらない。
一歩下がり、角度を変えてもう一度踏み込んでくる。
障壁をずらしながら受ける。
攻撃そのものは見える。
けれど、土壁に遮られた向こう側までは見通せない。
「カイルたちは……」
言いかけた時、ダリオの木剣が横から迫った。
その間へ、淡い光が滑り込む。
「集いし光よ、我が意に従い、ここに巡りて隔てとなれ――《光障壁》!」
剣が光へぶつかった。
「エステル!」
土壁の端を回り込んできたエステルが杖を向けている。
「こちらは私も受け持ちます。ユウさんだけで守る必要はありません」
「……うん。ありがとう!」
その一瞬、ダリオの視線がエステルへ動いた。
さらに壁の向こうからカイルの声が響く。
「ユウばっか見てる場合かよ!」
「炎よ、刃に宿れ――《火纏》!」
薄い炎をまとった木剣が、セナの前へ迫る。
「ちょっ――!」
セナが慌てて後退した。
ハルが援護しようと杖を向ける。
「燃え立つ炎よ、我が意に従い、ここに集いて矢を成せ――《火矢》!」
細い炎の矢がカイルへ飛ぶ。
「流れし水よ、我が意に従い、ここに集いて形を成せ――《水球》!」
横から飛び込んだ水球が火矢とぶつかり、白い蒸気を散らした。
「助かった、リリア!」
「前見て!」
カイルが蒸気の横を抜ける。
相手がユウへ意識を集めたぶん、三人への圧力が弱くなっていた。
「ミレナ、壁を――」
ダリオが叫ぶ。
ミレナが再び杖を地面へ向ける。
だが、その前にリリアが動いた。
「今度はこっち!」
もう一つの《水球》がミレナの足元で弾ける。
大きな威力はない。
それでも、濡れた地面に足を取られ、構えが崩れた。
追加の壁は出ない。
「ユウ!」
「うん!」
その隙に、エステルとともに土壁の端を回る。
四人が再び並んだ。
さっきまでとは逆に、相手の方が陣形を崩している。
「右、来ます!」
エステルが先に声を上げた。
「セナは俺が押さえる!」
カイルが続く。
「じゃあ、私はミレナ!」
リリアもすぐに動いた。
三人が迷わず動き始めたことに、思わず目を丸くする。
もう、全部を自分が決める必要はない。
ダリオがこちらへ踏み込んでくる。
進路へ小さな《光障壁》を斜めに展開した。
「うわっ」
避けようとした足が止まる。
そこへカイルが回り込んだ。
木剣同士がぶつかる。
押し負けたダリオが一歩、二歩と下がり――そのまま試合区域の線を越えた。
「ダリオ・フェルト、場外!」
四対三。
そこから大きく流れは変わった。
残った三人も粘ったが、やがて一人が降参し、最後の二人も場外となった。
「試合終了!」
教師が腕を上げる。
「勝者――ユウ・リシェル班!」
「よし!」
カイルが木剣を持ち上げる。
場外に出ていたダリオが、仲間たちと一緒に戻ってきた。
「まいったな。ユウを離せば、もう少し崩せると思ったんだけど」
「かなり効きました。あのままだったら危なかったです」
ダリオの視線がリリアたちへ移った。
「でも、三人ともすぐ動いてきた。あれは読めなかったよ」
「ユウだけが戦ってるわけじゃないからね」
リリアが胸を張る。
「それはよく分かった」
ダリオは木剣を肩へ乗せた。
「次は負けないからな」
「はい。またお願いします」
ユウが答えると、ダリオたちは軽く手を上げて試合区域を離れていった。
息を吐きながら、リリアたちへ目を向ける。
「最初、僕だけ離された時はちょっと焦った」
「見てれば分かったよ」
リリアが楽しそうに返す。
「今までユウに守ってもらってたんだから、たまにはこっちが守らないとね」
「たまに、なんですか?」
エステルが首を傾げる。
「そこは言い方の問題!」
カイルが吹き出した。
ユウもつられて笑った。
◇
午後。
三回戦の結果が掲示板へ追加されていた。
アレン班。
エリオ班。
そしてユウたちの班。
三班の名前は、まだそこに残っている。
◇
同じ頃。
実技場から離れた校舎の一角で、一人の生徒が小さな箱を抱えていた。
「ここでいいんだよね」
頼まれた場所をもう一度確かめ、壁際に並んだ備品の隙間へ箱を置く。
対抗戦で使う補助器具だと聞いていた。
置き終えると、生徒はそのまま廊下を戻っていった。
箱は、ほかの備品に紛れ、外からはほとんど見分けがつかなかった。




