第65話 勝ち残る班
二回戦を終えたユウたちは、再び試合区域の外へ戻った。
「今度は一回戦より動けたな」
カイルが満足そうに言う。
「途中からだけどね」
リリアが答える。
「相手の動きを見てから、すぐ別の手へ切り替えられたのはよかったと思います」
エステルも試合区域へ目を向けた。
「うん。次も同じようにいくとは限らないけど、最初から一つに決めすぎない方がよさそうだね」
ユウが頷く。
その時、試合場では次の班が呼ばれていた。
「エリオ・ヴァンス、マナ・セルフィ、ユリス・カーデン、フェナ・ルミア」
「次の試合みたいだね」
ユウがそちらを見る。
四人の生徒が並んで試合区域へ入っていった。
一人は剣を持った黒髪の少年。
その後ろに杖を持った女子生徒が二人と、男子生徒が一人。
「あの班、一回戦勝ってたのは覚えてる」
カイルが言う。
「見てたの?」
「最後だけな。結構まとまってたぞ」
ユウたちもその場に残り、試合を見ることにした。
◇
「双方、準備はいいですね」
教師が八人を確認する。
「――始め!」
最初に動いたのは相手班だった。
二人の前衛が同時に駆ける。
エリオもすぐに前へ出たが、一人を受け止めるだけで、もう一人は横を抜けていく。
「フェナ!」
「分かってる!」
杖が前へ向いた。
「風よ、背を押して――《追風》!」
初級魔法《追風》。
淡い風がエリオの背後から吹き抜ける。
踏み込む速度が一気に増した。
エリオは目の前の相手と一度だけ剣を合わせると、その力を横へ流し、そのままもう一人の進路へ回り込んだ。
「行かせないよ」
二人目の剣を受け止める。
「一人で二人止めた」
リリアが目を丸くした。
「でも、長くは持たないと思います」
エステルの言葉通り、二人を同時に相手にしたエリオは少しずつ押され始めた。
その後方で、相手の女子生徒が杖を向ける。
「燃え立つ炎よ、我が意に従い、ここに集いて矢を成せ――《火矢》!」
初級魔法《火矢》。
細く鋭い炎が放たれる。
「マナ!」
「うん!」
杖が横へ払われる。
「水よ、薄き壁となれ――《水膜》!」
初級魔法《水膜》。
薄い水の幕が広がり、飛んできた火矢を包み込む。
じゅっ、と音を立てて炎が消えた。
だが、その横では別の生徒がすでに詠唱を終えようとしていた。
「巡る風よ、我が意に従い、ここに集いて弾を成せ――《風弾》!」
初級魔法《風弾》。
圧縮された風が、水膜の横を抜けて飛ぶ。
狙いはフェナだった。
「危な――」
フェナが避ける。
しかし、下がった先は試合区域の端に近い。
そこへ相手の前衛が一人、エリオから離れて追いかけた。
「フェナ!」
「大丈夫!」
そう答えながらも、後ろへ下がれる距離は少ない。
相手が剣を構えて踏み込む。
その瞬間。
「大地よ、我が意に応え、ここに石を連ねて弧を成し、隔てとなれ――《石環》!」
ユリスが杖を地面へ突きつけた。
中級魔法《石環》。
フェナの前に半円状の石壁がせり上がり、相手との間を遮った。
「うわっ!」
前衛が慌てて止まる。
「今だよ!」
フェナが石壁の横から杖を伸ばす。
「巡る風よ、我が意に従い、ここに集いて前へ押し流せ――《風押》!」
初級魔法《風押》。
強い風が吹きつけた。
相手は後方へ押される。
その頃には、エリオも残った一人の剣を受け流して距離を取り、フェナの方へ回り込んでいた。
相手の剣へ木剣を当て、外側へ流す。
相手の体勢が崩れた。
「そっち!」
エリオの声。
マナがすぐに反応する。
「水よ、流れよ――《水輪》!」
初級魔法《水輪》。
円を描くような水流が足元を横切り、踏み直そうとした足をさらに外へ滑らせる。
そのまま身体全体が試合区域の外へ出た。
「一名、場外!」
「うまい……」
ユウは思わず呟いた。
誰か一人が特別に強いというより、困った場所へすぐ別の誰かが入っている。
その後も試合は続いた。
エリオが前で相手の一人を押さえる。
マナが水で魔法を弱め、ユリスが土で動く場所を狭める。
フェナの風が、その間を繋いでいく。
しばらくして二人目が降参。
残った二人も粘ったが、最後には一人が場外となり、もう一人が杖を下ろした。
「試合終了!」
教師が腕を上げる。
「勝者――エリオ・ヴァンス班!」
拍手が起こった。
エリオは剣を下ろすと、すぐに場外となった相手へ歩いていった。
「大丈夫?」
「ああ。ちょっと尻打っただけ」
「ならよかった」
差し出された手を、相手が掴む。
その後ろでは、フェナがユリスの肩を軽く叩いていた。
「さっき助かったよ」
「端まで下がるからだろ」
「避けるしかなかったんだから仕方ないじゃん」
「次は気をつけて」
「はーい」
マナが二人の間で苦笑している。
「仲良さそうだね」
リリアが言った。
「うん」
ユウも頷いた。
◇
試合を終えた四人が戻ってくる途中、ユウたちの前を通った。
マナが足を止める。
「あ、さっきの光魔法の子」
「僕?」
「うん。《光護陣》、すごかったね」
「ありがとう」
「三人まとめて守ってたでしょ。あんなふうに広く守れるんだね」
「うん。うまく防げてよかったよ」
マナが笑った。
少し後ろにいたエリオも足を止めた。
「二回戦突破、おめでとう」
「そっちも!」
ユウが答える。
「このまま勝ったら、どこかで当たるかもしれないね」
「その時はよろしく」
「ああ。お互い頑張ろう」
短く言葉を交わし、エリオたちは仲間と一緒に離れていった。
少し先では、またフェナとユリスが何か言い合い、マナが二人を宥めている。
エリオもその会話へ加わった。
四人のやり取りを見て、ユウもつられて笑った。
その日の二回戦がすべて終わる頃には、外の空も少しずつ夕方の色へ変わり始めていた。
「本日の対抗戦はここまでです」
教師の声に、生徒たちが前を見る。
「三回戦は明日の朝から行います。勝ち残っている班は、遅れないよう集合してください」
「明日か」
カイルが掲示板を見る。
そこには、次へ進んだ班の名前が並んでいた。
ユウたち。
アレンたち。
そして、先ほど戦っていたエリオたちの名前も、その中に残っていた。




